↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/354

077話 迷いの剣

 リシアは動かない。

 石床に伏したまま、微動だにしなかった。


 アベルの視線は、その姿から離れない。


(俺が……斬った。)


 短聖剣を握る右手が震える。

 理性は叫び続ける。


 ――幻だ。

 ――メイの精神魔法だ。

 ――ゲーム知識を信じろ。


 だが、そのすべてを打ち消すほど、倒れたリシアの姿は現実だった。


 血の匂い。

 石床に広がる赤。

 浅く上下する胸。

 どれもがあまりにも生々しい。


「うふふ……。」


 メイは満足そうに笑う。


「苦しいでしょう? でも、まだ始まったばかりよ。」


 その言葉を合図にしたかのように、六人のヒロインが再び動き出した。


 フェリが最初にアベルの懐に飛び込む。双剣が疾風のような連撃となり、アベルへ襲い掛かった。


 キィン!

 キィィン!


 短聖剣で受け流す。しかし反撃はしない。


 ルナの魔法が頭上から降り注ぐ。

 アベルは横へ転がって回避する。

 爆風で床石が砕け、破片が頬を切り裂いた。


 立ち上がるより早く、ミリアが錬成した鋼の槍が地面から突き出す。


 跳ぶ。


 その着地点へ、クラリスの銃型魔道具から放たれた魔力弾が飛来する。


「くっ!」


 辛うじて身を捻る。爆発の衝撃で吹き飛ばされ、石柱へ背中を強く打ち付けた。


 そこへ、エリスの聖属性魔法が降り注ぐ。

 眩い光がアベルを包み込む。


 回復魔法ではない。それは浄化の力を攻撃へ転じた神聖魔法。


 これも短聖剣で受ける。だが、衝撃は殺し切れず、再び後退を余儀なくされる。


 最後にセレスティアが静かに一歩前へ出た。


 彼女自身は派手な魔法を放たない。だが、的確に俺が回避する先や進もうとする場所に魔法で尖った氷や岩を生やして俺の行動を制限していく。そして七人――今は六人となったヒロイン達の連携がより効果的になるように仕向けていた。つまり彼女は攻撃を組み立てる頭脳、司令塔として動いている。


 フェリの踏み込み。

 ルナの詠唱。

 ミリアの錬成。

 クラリスの援護。

 エリスの魔法。


 そのすべてが寸分の狂いもなく噛み合う。


(強い。)


 アベルは歯を食いしばる。


(これが……全員で戦う時の力。)


 ゲームでも見ることのなかった、ヒロインたちの完全連携。それを相手にしているのは、今の自分だった。



 一方、ガルドたちも苦戦していた。


 亡き仲間の幻は、一体倒しても次が現れる。


 数が減らない。

 休む暇もない。


 それでも……ガルドの剣は止まらなかった。


「悪い。」


 剣を振るう。


「お前たちは、もう眠ってる。」


 幻が霧となって消える。

 しかし、すぐに次の幻が現れる。



 トーヴも叫びながら大斧を振るった。


「何度出てきても同じだ!俺たちは前へ進む!」


 歴戦の男たちは涙を堪えながら戦い続ける。

 彼らは現実を知っている。

 だから苦しくても剣を振るえた。



 だが、アベルだけは違った。


 ヒロインたちは全員、生きている。

 王都にいるはずだ。


 だからこそ、「絶対に幻だ」と言い切れない。


「アベル!」


 ガイルが叫ぶ。


「迷うな!」

「……。」


 返事はない。



 フェリが一気にアベルとの距離を詰める。そして双剣が交差する。アベルは避けた。受けて、躱した。


 しかし、一切反撃しない。

 その姿を見て、メイは愉快そうに笑った。


「優しいのね。本当に。」


 アベルがルナの魔法攻撃を避けきれず、体勢を崩した。


「その優しさが……あなたを殺すのよ。」


 次の瞬間、六人のヒロインが、再び一斉にアベルへ襲い掛かった。


 勇者はなおも剣を振るえず、防戦一方のまま追い詰められていくのだった。

公開は少し先になりますが、島編(水着回)の予約投稿が終わりました。めっちゃ楽しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。