073話 勝機は一瞬
魔杖グングニルの穂先に、禍々しい黒光が集束していく。
空気が震える。
塔全体が悲鳴を上げるように軋んだ。
「消えなさい。」
メイが静かに告げる。その声には、もはや怒りも悲しみも感じられない。ただ、目の前の敵を消し去るという確固たる意思だけが宿っていた。
黒き閃光が放たれる。
轟ッ!!
アベルは真正面へ駆け出した。
「アベル!」
ガルドの叫びが響く。
常識なら自殺行為。だがアベルは一直線に魔杖へと向かって走る。
黒い閃光が迫る。
あと一歩。
あと半歩。
アベルは限界まで身体を沈め、紙一重でその軌道を潜り抜けた。黒い閃光は背後の壁を消し飛ばし、神杖の塔を大きく揺るがす。
(二十発。)
アベルは心の中で数え切った。
そして――メイは再び魔杖を構える。
「これで……終わりにして――」
その言葉が途中で止まる。魔杖が突然沈黙したのだ。
柄を伝っていた黒い魔力が急速に弱まり、禍々しい光が消えていく。
「え……?」
メイが目を見開いた。穂先に魔力を集めようとしても、まるで応えない。魔杖全体から微かな蒸気のような黒い靄が立ち昇る。
アベルは確信する。
(あった。クールダウンだ。)
ゲームと同じだった。魔杖グングニルは二十連射すると、一時的に魔力回路が停止する。
その隙は長くない。ほんの数秒。だが、それで十分だった。
「今です!!」
アベルが叫ぶ。
「おおおおおっ!!」
ガルドが真っ先に飛び出す。続いてリック、バルド。トーヴも3人を援護する。
「邪魔!」
メイは魔杖を振るう。しかし黒い閃光は出ない。代わりに放たれた魔力の衝撃波を、ガイルが剣で受け流す。
「これなら!」
リックの大斧が振り下ろされる。メイは辛うじて身を捻り直撃を避けるが、肩口を浅く裂かれた。
「くっ……!」
今までの余裕はない。圧倒的な火力を失ったメイは、本来、近接戦闘を得意とする魔族ではなかった。
そこにアベルが飛び込む。
短聖剣が白銀の軌跡を描く。
キィン!!
メイは魔杖の柄で受け止める。だが、その衝撃で大きく体勢を崩した。
「しまっ――」
ガイルの剣。
リックの大斧。
バルドの槍。
トーヴの氷魔法。
四方向から同時に襲い掛かるが、メイは紙一重で致命傷だけは避ける。
しかし、
腕、
脇腹、
太腿、
肩、
次々と傷が増えていく。
「いやぁっ!」
初めてメイが悲鳴を上げた。アベルは追撃の手を緩めない。短聖剣を握り直し、一気に踏み込む。
その時だった。
魔杖グングニルが再び黒く脈動する。
(早い!)
クールダウンが終わるとアベルは直感した。メイもそれを感じたのだろう。傷だらけの顔に笑みが戻る。
「間に合った。」
黒い魔力が穂先へ集まり始める。
あと数秒。
あと一撃分。
それまでに決着を付けられなければ、戦況は再び逆転する。
神杖の塔・最上階。
勇者パーティと四天王の勝負は、ついに最終局面へと突入した。




