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065話 塔の中へ*

 神杖の塔の内部は、外から見た印象以上に異様だった。窓は一つもなく、壁には淡く紫色に発光する魔石が埋め込まれている。それだけで周囲を照らしているというのに、どこか薄暗く感じる。


「嫌な空気だな」


 ガルドが剣の柄に手を添える。


「魔力が濃すぎる」


 トーヴも眉をひそめた。

 アベルは静かに頷く。


「気を付けてください。この塔は階層ごとに攻略法が違います」


 男たちが一斉にアベルを見る。


「知ってるのか?」

「……似たような遺跡の記録を読んだことがあります」


 アベルは自然に誤魔化した。ゲームの知識をそのまま説明するわけにはいかない。


「まず敵は正面からだけとは限りません。壁や天井からも現れます」


 その言葉が終わるより早く天井から巨大な魔蜘蛛が飛び掛かってきた。


「来た!」


 ガルドが盾で受け止める。同時にアベルの短聖剣が閃き、蜘蛛の核を正確に貫いた。魔物は断末魔も上げずに霧散する。


「……本当に来やがった」


 男たちが苦笑する。その後もアベルの助言は的確だった。


「次の部屋には落とし穴があります。左側だけ踏んでください」


 言われた通り進むと、右側の床が崩れ落ちる。底の見えない奈落が口を開けていた。


「うわ……」


 思わず誰かが息を呑む。さらに上階。


「扉は開けた瞬間に魔法が飛んできます。俺が合図するまで触らないでください」


 アベルが扉を僅かに開く。直後、轟音とともに炎の奔流が廊下を焼き尽くした。やり過ごしてから全員が部屋へ入る。


「お前、本当にどうしてそこまで知ってるんだ?」


 ガルドが呆れ半分に尋ねる。アベルは苦笑した。


「勘です」

「勘で済ませる話じゃねぇよ」


 男たちは揃って肩を落とした。それでも誰も深く追及しなかった。アベルが話せない理由があることは、奈落の迷宮で嫌というほど理解していたからだ。


 階層を登るたび、魔物は強くなる。


 魔族。

 魔獣。

 呪われた鎧。

 巨大な石像。


 そのどれもが一流冒険者を容易く殺せる力を持っていた。それでもアベルの先読みと宵闇の月の連携は、それらを着実に突破していく。


 そして、ついに最後の階段を登り切る。重厚な扉が、静かに姿を現した。


「ここですね」


 アベルが小さく呟く。ガルドが息を整える。


「最上階か」


 アベルは頷いた。


「この先に目的の部屋があります」


 全員が武器を構える。ガルドがゆっくりと扉を押し開いた。



 広大な正方形の祭壇。


 天井は高く、その中央には眩い光を放つ一本の杖が収まっている。神々しい輝きを放つそれは一目で尋常ならざる神器だと分かった。しかし、祭壇は赤い血のような禍々しい魔法陣に覆われていて黒い瘴気が杖にまとわりついている。そして祭壇の前には、二つの影が待ち構えていた。


 一人は、息を呑むほど美しく強い色香を漂わせる美女。


 美しく整えられた金髪。

 妖艶な笑み。

 小悪魔のような翼と尾を揺らしながら、楽しげにこちらを見つめている。


「いらっしゃい♡」


 甘く蕩けるような声が響く。


「ここまで来た人間は、久しぶりね」


 その傍らには、小柄な黒いスライムが静かに蠢いていた。見た目は愛玩動物のように愛らしい。だが、その身体から放たれる魔力は、先ほどまでの魔物とは比較にならない。


 アベルは静かに剣を構える。


「……四天王。」


 女は優雅に一礼した。


「わたくしはメイ。」


 続いてメイの肩に登ったスライムがぴょこんと跳ねる。


「そして、この子がポチ。」


 メイは愛おしそうに頭を撫でた。


「ようこそ、わたくしの塔へ。」


 その笑顔は美しいと同時に、底知れない恐怖を宿していた。


挿絵(By みてみん)

設定画

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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