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284話 精霊の守護者*

 地下神殿には、長い年月を閉じ込めていたような静けさが残っていた。


 淡い光を放つ祭壇の前で、光の精霊は静かに宙へ浮かんでいる。その姿を見つめながら、リシアはまだ言葉を失っていた。


 幼い頃から祈り続けてきた存在。

 剣を握る者として、幾度となくその加護を願ってきた存在。

 それが今、自分の目の前にいる。

 ルナに爆裂魔法を与えている姿をみて、さらに確信を強めた。


「……本当に、精霊様なんですね」


 ようやく絞り出した声に、精霊は柔らかく微笑んだ。


『ええ。あなたが長い間、祈り続けてくれたことも知っています。』


 その言葉に、リシアの胸が熱くなる。

 だが、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

 神殿の入口の方から、複数の足音が響いた。


「……ヒト族が、ここにいるだと?」


 低い声が石壁を震わせる。


 アベル達は急いで神殿を出た。神殿の中で戦闘するわけにはいかない。そして神殿に続く階段を登り終えて、出たところで、黒い鎧を纏った魔族たちと鉢合わせた。


 その数は数十。


 先頭に立つ魔族は、初めてみる神殿に続く階段、その奥に感じる光の精霊の気配を感じると、驚きよりも憎悪を滲ませた。


「光の精霊……こんな所に隠れてやがったのか。見つからない訳だ。」


 光の精霊がアベル達の後を追ってやって来た。そして静かに魔族兵を見つめる。


『あなたたちは、この地には相応しくありません。直ぐに立ち去りなさい。』

「相応しくねえのはそっちだ。直ぐに消滅……いや、引っ捕まえて魔王様への献上品にしてやるぜ。イヒヒ…。」


 魔族が笑う。

 その言葉を聞いたアベルが、一歩前へ出た。


「そんな事はさせない!」


 短聖剣を抜く。それを見たリシアも、置いてあった刀を手にとって、すぐ隣へ並んだ。


「アベル、私も戦う」

「ああ」


 それだけで十分だった。他のヒロイン達も戦闘体制に移行する。次の瞬間、魔族の部隊が一斉に動き出した。


「来るぞ!」


 リシアが叫ぶ。


 最初にぶつかったのは、アベルとリシアだった。アベルが振り下ろされた剣を受け流し、その隙をリシアが逃さず斬り込む。互いに細かな指示を交わす必要はなかった。相手がどこへ動くのか、その気配だけで自然に理解できる。


 右から槍が迫れば、アベルが受け止める。その間にリシアが懐へ入り込む。背後から別の敵が迫れば、今度はリシアがそれを止め、アベルが前の敵を倒す。連携の機会はそれほど多くなかったにも関わらず、自然と二人を動かしていた。


「アベル、左!」

「分かってる!」


 短い声が飛び交う。その直後、フェリの風魔法が二人の頭上を抜け、背後から迫っていた魔族を吹き飛ばした。


「二人とも、前ばっかり見ないでよ!」

「助かった!」


 リシアが笑う。


「フェリ、頼む!」

「任せて!」


 フェリは風を纏いながら駆け回り、敵の隊列を乱していく。その隙をクラリスが正確に撃ち抜いた。


「そこです!」


 魔導銃から放たれた弾丸が魔族の武器を弾き飛ばす。

 ミリアも魔道具を展開し、仲間たちの周囲へ防御結界を張った。魔族がアベル達に向けて放った氷の槍が結界に遮られる。


「防御は任せてください!」


 さらに飛来した魔法が結界へぶつかり、光の粒となって散っていく。だが、全ての魔法を防ぐことは出来なかった。リシアを庇う形でアベルの腕と脚に氷の刃が刺さる。


「アベル殿!」


 リシアが叫ぶ。護衛のはずの自分が、護衛対象に護られてしまったことに歯痒さを滲ませた。


「エリス、お願い!」

「はい!」


 セレスティアの指示でエリスの手から柔らかな光が広がり、傷を負ったアベルを癒していく。他にもセレスティアは戦場全体を見渡しながら、冷静に指示を飛ばしていた。


「フェリさん、右側をお願いします。クラリスさんは中央の魔術兵を。リシアさんとアベルさんは、そのまま前衛を維持してください」

「了解!」


 戦況は少しずつ、アベルたちの方へ傾き始めていた。だが、魔族の数は多い。倒しても倒しても、後方から新たな魔族が押し寄せてくる。


 その光景を見て、ルナは静かに目を細めた。


「……このままでは、時間がかかりすぎる」


 彼女の脳裏に、先ほど精霊から教わった魔法が浮かんだ。


 爆裂魔法。


 けれど、自分が今まで使ってきたものとは違う。精霊から教わった魔法は、単純に自分の魔力を一点へ叩き込むものではなかった。周囲に満ちる魔力を感じ取り、それを自分の魔力と調和させる。まるで世界そのものに働きかけるような魔法だった。


(……できる)


 ルナは目を閉じる。


 地下の神殿に満ちた魔力が、静かに彼女の感覚へ入り込んでくる。


 床を流れる魔力。

 壁に染み込んだ古い魔力。

 そして、祭壇から溢れる光の精霊の魔力。

 それらが互いに反発することなく、ひとつの流れとして感じられた。


(これを……爆裂魔法へ)


 ルナが手を前へ伸ばす。


「みんな、下がって」


 その声を聞いたアベルが、即座に反応した。


「リシア、下がるぞ!」

「分かった!」


 二人が同時に後方へ退く。


 その直後、ルナの周囲へ巨大な魔法陣が浮かび上がった。


 複雑な術式だった。

 しかし、その構造は不思議なほど美しい。


「……精霊式《爆裂魔法》」


 ルナが静かに呟く。


 次の瞬間、神殿を満たしていた魔力が一斉に弾けた。

 轟音とともに巨大な爆発が広がり、炎と風と光が渦を巻く。


 ただ破壊するだけではない。爆発そのものが次の爆発を呼び、周囲の魔力を取り込みながら連鎖していく。魔族たちは為す術もなく吹き飛ばされ、黒い鎧が次々と光の中へ消えていった。


「な……なんだ、この魔法は……!」


 指揮官の声が響く。だが、その声すら爆音に飲み込まれていく。やがて煙が晴れた時、神殿の中に立っていた魔族は、ほんのわずかしか残っていなかった。


 ルナは荒い息を吐きながら、目の前の光景を見つめている。


「……すごい」


 思わず口から漏れた。

 自分が使った魔法なのに、自分自身が驚いていた。

 これまでの爆裂魔法とは、根本から違う。

 威力だけではない。

 魔法そのものが、世界の魔力と繋がっている。


(この魔法を詳しく理解できれば……)


 その瞳に、研究者としての強い好奇心が宿った。


 しかし…


「まだ終わっていない!」


 瓦礫の向こうから声が響いた。

 魔族の指揮官が、傷つきながらも立ち上がっていた。

 周囲には、なお戦える魔族が残っている。


「なんとしても精霊を滅せ!」


 その命令に、残った魔族たちが一斉に祭壇へ向き直る。そこで初めて、アベル達は気付いた。何故か敵が光の精霊を恐れていることに。


「……精霊様を?」


 リシアが剣を握り直す。その声には、先ほどまでとは違う強い意志が宿っていた。


 光の精霊は、そんなリシアを静かに見つめていた。


『冷静さを失ってはいけません。私は大丈夫ですから。』


 その言葉に、リシアは首を横に振った。


「嫌です。」


 迷いのない返事だった。


『私は、ずっとあなたに守ってもらってきました。』


 剣を構える。


「だったら今度は、私が守ります。」


 アベルもその隣へ並んだ。


「俺も……」


 短聖剣を構える。


「この神殿も、精霊様も、ここに残されたものも……俺たちが守ります」


 光の精霊は、アベルと仲間達の背中を見つめる。

 その瞳に、淡い光が揺れた。


 そして、再び魔王軍が押し寄せる。


 精霊と地下神殿を巡る戦いは、まだ終わっていなかった。

ユニークアクセスユーザー2万人超え記念。


猫耳カフェでお忍びで働くルナ

挿絵(By みてみん)


お客がアベルだと気づいたときの反応

挿絵(By みてみん)

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