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閑話53話 帰る場所*

王都の大通り。


 アベル達は王都の復興を手伝いながらも、出発の準備を進めていた。


 7人のヒロインたちは、アベルの側を離れなかった。

 それは契約による拘束だけではない。自分たちが失った信頼を少しずつ取り戻すためでもあった。


 その時、セレスティアが足を止めた。


「……。」


 視線の先。

 そこにいた人物を見て、彼女の表情が大きく揺れる。


「エマ……?」


 そこにいたのは、セレスティアに仕えていた侍女だった。エマも驚いたように目を見開く。


挿絵(By みてみん)


「……セレスティア様。」


 一瞬、時間が止まったようだった。


「お久しぶりです。」


 エマが頭を下げる。その仕草は、以前と何も変わっていなかった。


「どうして……ここに。」


 セレスティアの声には戸惑いが混じる。

 エマは少し寂しそうに笑った。


「復興を手伝うために戻ってきたんです。私はもう侍女ではなくなってしまったので……。」


 その言葉に、セレスティアの胸が痛む。自分が王女ではなくなったから…。自分の失敗によって、エマの居場所まで奪ってしまった。


「ごめんなさい。」


 セレスティアが呟く。


「私のせいで……。」


 しかし、エマは首を振った。


「姫様の事情は聞いております。仕方がないではありませんか。私は姫様を恨んだりしていませんよ。それに私は姫様が王女だから仕えていたのではありません。あなた様だから、お側にいたのです。」


 その言葉にセレスティアは俯いた。

 もう失ったと思っていたもの。

 それが、まだ残っていた。


 その様子を見ていたアベルが口を開く。


「エマ。」

「はい。」


 エマが振り返る。


「今は仕事をしていないのか?」


 エマは少し困ったように答える。


「はい。現在、復興支援活動をしながら絶賛就職活動中です。」


 アベルは静かに考える。


「なら、俺が雇ってもいいか?」

「……永久就職ですか?」


 全員が驚いた。


「え……。」


 セレスティアが顔を上げる。

 アベルは続ける。


「いや、そうではなくて……エマには、俺の元でティアの専属侍女になってもらいたい。やっぱ色々と必要だからさ。給与は今まで国から支払われていた額と同じぐらいは出すから。」


 一瞬、セレスティアの瞳が揺れる。


「ですが……私はもう侍女を持てる身分ではありません。」


 アベルは首を振る。


「関係ない。ティアが必要としている人なら、それでいい。」


 アベルは短い期間でセレスティアの生活面での意外なポンコツぶりを目の当たりにしていた。仕事は凄くできるのに…。だからこその提案だ。


 エマは深く頭を下げた。


「アベル様。ありがとうございます。では、お願い出来ますか?必ず、姫様、いえ…セレスティア様のお力になれるよう努めます。」


 セレスティアは何も言えなかった。

 ただ、小さく涙を浮かべる。


「……アベル様。私からもお礼を。本当にありがとうございます。また、エマと一緒にいさせて貰えるなんて…。」


 アベルは少し困ったように笑う。


「ティア。そんなに抱え込むなよ。」


 その言葉にセレスティアは唇を噛む。

 泣かないように必死に耐える。



 翌日。


 アベルの隣にはセレスティアがいる。

 その少し後ろにはリシア達もいる。

 そして、侍女服姿のエマもまた、セレスティアの側にいた。


 以前とは違って王女と侍女ではないが、罪を犯した少女と、それでも支える侍女。


 そして、その全てを受け入れたアベル。


 セレスティアは静かに思う。自分はもう王女ではないが、それでもアベルの側にいることができる。信頼できるエマも側にいてくれる。


 それだけで今は十分だった。

これから数話、エマの閑話を集中投下します。

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