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084話 決着

 アベルとメイ。


 二人は無言のまま向き合っていた。

 互いに満身創痍な状態。

 アベルは肉体が限界。

 メイは魔力が限界。


 どちらが先に倒れてもおかしくない。

 そんな均衡だった。


 メイが先に動く。


 魔杖グングニルを突き出し、残された魔力を一気に解放した。


「終わりよ、勇者!」


 黒い奔流が一直線に襲いかかる。


 それをアベルは正面から駆けた。

 避けない。

 もう避けられない。


 黒い魔力が身体を掠める。肩を裂き、脇腹を抉り、脚を焼く。激痛が全身を貫いた。


 それでも、止まらない。


「うおおおおおおっ!」


 勇者の力が限界を超えて解放される。アベルの全身が輝き、その場を満たしていく。その勇者の力は倒れ伏したガルド達を癒していく。そして、その輝きは次第にアルドの持つ短聖剣に収束していき、集まりきると短聖剣は白銀の輝きを放った。


 一歩。

 また一歩。

 黒い奔流を押し切る。


「そんな……!」


 メイの表情が初めて恐怖に染まる。


「あり得ない!」


 アベルは最後の一歩を踏み込んだ。

 短聖剣が一直線に突き出される。


 そしてついに白銀の刃がメイの胸を貫いた。

 メイは大きく目を見開く。口元から血が零れた。


「魔王……様……。」


 その身体がゆっくりと崩れ落ちる。そうして四天王サキュバス・メイは、静かに息絶えた。


 勝った。


 その安堵も束の間だった。メイの手から離れた魔杖グングニルが、禍々しい魔力を放ち始める。


「やばいぞ、アレ!」


 アベルがメイを倒す際に放った勇者の輝きが副次的にもたらす回復効果により何とか一命を取り留めたばかりのガルドが叫ぶ。次の瞬間、塔全体が激しく揺れた。


 轟音。


 天井へ亀裂が走る。巨大な石柱が次々と崩れ始める。


「崩れるぞ!」


 アベルは倒れそうになる身体を必死に支えた。ガルドたちもボロボロだったが、回復薬を頭から被って立ち上がる。


「行くぞ!」


 五人は互いに肩を貸し合いながら出口へ走る。背後では絶望の塔が音を立てて崩壊していく。石壁が砕け、階段が崩れ落ち、積み重ねられた歴史が土煙の中へ飲み込まれていった。



 外へ飛び出した直後。


 轟音とともに絶望の塔は完全に崩れ落ちた。

 巨大な土煙が空高く舞い上がる。


 アベルはその場へ膝をつく。全身から力が抜けていた。


「終わった……。」


 誰ともなく呟いた。

 ガルドも静かに崩れ落ちた塔を見つめる。


「……いや。まだ何も終わっちゃいねぇ。」

「そういえば、俺たちがここに来た目的は神杖の確保だったな…。」


 アベルが顔を上げる。見渡す限り瓦礫の山となったそこから魔杖を見つけ出すことができるのか…アベル達は途方に暮れるしかなかった。


 それからアベル達は3日3晩もの間、杖の探索を行ったが、結局見つける事はできなかった。その後、調査に訪れた王国の調査団と交代してアベル達は帰途につく。


 メイが最後まで握っていたはずの魔杖グングニル。

 崩壊に巻き込まれたのか。

 瓦礫の奥へ埋もれたのか。

 それとも――


 それは誰にも分からない。

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