0時間目:お姉さん
ピロン、とスマホのメールの着信音が鳴った。私は作業を中断して、スマホを手に取る。
見ると、メールは親友からのもので、あと一時間くらいで着くよ[ビックリマーク]と書いてあった。
私は事故らないでよ、と返事を打った。その数十秒後にまたメールが来て、今度は敬礼をしたような顔文字だけが表示されていた。
私は顔文字を使ったりしないから、あの子らしいなと思った。スマホを机の上に戻し、作業の続きにとりかかる。
今は引越しのための荷物を整理している最中なのだ。とはいえ、持っていく荷物はそんなに多くない。
段ボール箱三つと、かつて思い出を詰め込んでいた金属の箱一つ。あっという間に作業は終わってしまった。
まだ最後の作業が残ってるけど、それは後回しにしておく。心の底からやりたくなかったことだから。
私は金属の箱を大事に抱えて、自分の部屋に入った。
箱を机に置き、回転式の椅子にもたれかかる。机も椅子も小学生の頃から変わっていないから、窮屈で仕方ない。
箱の中には半分に折りたたまれた絵と二枚の作文用紙が入っている。
本当はもっとたくさんの宝物が入っていたけれど、ほぼ全て消えてしまった。
破かないように絵をゆっくりと開く。その絵には、私の大好きだった一人の怪物が描かれていた。
どこかの高校の制服を着ている怪物は、袖から黒い触手が飛び出していて、やたら真ん丸な頭部は鉛筆で塗りつぶされたように真っ黒だ。
見た目は本当に恐ろしいけど、本当に優しかった、彼女。
私は彼女のことを「お姉さん」と呼び、毎日のように会いに行っていた。
そんな怪物がいるわけない、夢でも見たんだろうと思うかもしれない。でも、お姉さんは確実に存在していたのだ。子供の空想の産物なんかじゃない。
ほんの半年くらいの付き合いだったけど、お姉さんは決定的に私を変えたのだ。
小学三年の夏休み初日、私は怪物と呼ばれる存在に出会った。




