突入、そして 3
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「お嬢ちゃんが心配なのはわかるが、そうイライラすんなって」
ホルガーが住んでいる家の近くのカフェのテラス席。
懐中時計で時間を確認しながら、コツコツとテーブルの上を叩くフリードリヒに、マクシムがあきれ顔を向ける。
フリードリヒやマクシムは目立つので、あまり家の近くには近寄れない。
そのためこのカフェで、家を見張らせている騎士から連絡が入るのを待っている状態だった。
マルガレーテたちの身の安全のために、できることはしたつもりだ。
しかし、いくら騎士を潜り込ませようと、詐欺師かもしれない人間の家を探るのは危険には変わりない。
ホルガーに煮え湯を飲まされたハインツェル伯爵一家が、自らの手で証拠をつかみたいと願うのは理解できるが、マルガレーテが怪我でもしたらと居ても立っても居られない気分になる。
「お前ってさ、案外過保護だったんだな」
「どういう意味だ」
「いや、だってさ。元の嫁んときは、放任主義だったじゃん。まあ、聖魔法騎士団長になったばかりで忙しかったのもあるんだろうが、ほとんど家にも帰らなかっただろ、お前」
「あの頃は各地への遠征が多かったんだ。ちょうど魔物が活発化していた時期でもあったからな」
聖魔法騎士は騎士団の討伐遠征には支援部隊として必ず同行する。
フリードリヒが聖魔法騎士団長になり、そして結婚したころは、魔物が活発に動き回っている時期だった。魔物は十数年に一度の周期で急に増える時期があって、その頃は騎士が討伐のために各地に散るため、同行する聖魔法騎士も同様に各地を転々とすることになるのだ。
「新婚を理由に、多少でも休めばよかっただろ」
「王族がそんな呑気なことが言えるか」
「言えるだろ。新婚だぞ? ラブラブすんだろ、普通はよ」
「私たちは政略結婚だった」
「いや、それ、関係ねーから」
マクシムの言わんとすることは、わからなくもない。
政略だろうと何だろうと、結婚したのは確かだ。
フリードリヒはもっと元妻のために時間を割く必要があっただろうし、歩み寄ろうとする努力は必要だったようにも思う。
だが、フリードリヒがその努力をする前に、度重なる散財で妻への不信感が募ってしまったのも事実だ。
(まあ、これは言い訳だろうな)
本音を言えば、あの結婚にはフリードリヒはまったく乗り気ではなかった。
貴族だ。結婚するのは義務であるし、父王が決めた相手なのだから自分に拒否権はなかった。
もちろん、妻として丁重に扱う気はあったし、時間と共に夫婦としての信頼も築けると思っていた。
仕事にかまけて家を留守にしがちだったが、魔物討伐が落ち着けば改めて時間を取るつもりもあったのだ。
だが、結局、そんな時間を取ることもなく、妻は消えた。大量の宝石類を持ち出して、男と共に。
(……過保護、か)
もし、ホルガーの邸を探っているのがマルガレーテではなく元妻のヘンリーケだったなら、こんなに不安に思っていただろうか。思わなかった気がする。
(私も大概、薄情な男だな)
おそらく、マルガレーテ以外の女性に対しても、こんな感情は覚えないのだ。
フリードリヒは自分が淡白な人間だと自覚しているし、女性への不信感から、マクシムのように「女性は守るものだ」という認識も薄い。
ホルガーの邸を探っているのが、ヘンリーケでも、そのほかの女性であっても、フリードリヒは淡々と、相手が何らかの証拠を見つけてくるのを待つことができただろう。
マルガレーテだけが、例外なのだ。
「お前、お嬢ちゃんのことはどうするつもりだ?」
「どう、とは?」
「しらばっくれんな。王妃様が茶会にお嬢ちゃんを招いたってことは、王妃様の中でお前の嫁候補に上げてるってことだろ? なら、立場的な障害はない。というか王妃様も陛下も、お前にさっさと再婚してほしがっているからな、諸手を上げて賛成するだろう。性格にも難はないし、借金にしたって詐欺の立件がなくてもこのままなら自力で返済可能。何ならお前が立て替えればいい。顔よし、性格よし、伯爵令嬢で優秀な聖魔法騎士。加えてお嬢ちゃんが考えた商品は、王都の話題をさらっている。借金が消えて領地を取り戻せば、お嬢ちゃんの元にはすぐに大量の縁談が舞い込むぞ。いいのか?」
いいのか、と訊かれればよくはない。
「だが、私は王弟で公爵でマルガレーテの上司だ。……私からの申し込みは、半ば命令になる」
「じゃあ、他の男にかっさらわれんのを、指をくわえて見ているってわけか」
「そうは言ってない」
「いやいや、今のままならそうなる未来しか見えねーだろうが」
その通りなので、フリードリヒは反論できなかった。
ぐだぐだと悩んでいたら、マクシムの言う通り、マルガレーテは誰かに奪われてしまうだろう。
(だが、私が結婚を申し込んだら、困らせるだけではないのか?)
誰かに奪われたくない。けれどもマルガレーテを困らせたくもない。ならば自分は、どうするのが正解なのだろう。
(……悩んでいる時間は、あまりないのだろうな)
ホルガーが詐欺師であれば、ハインツェル伯爵が失った金を取り戻すことができるかもしれない。満額すべて取り戻せるかはわからないが、マルガレーテが開発して販売している商品の売り上げも合わせれば、借金なんてすぐに返済可能のはずだ。
そうなると、マクシムの言う通り、マルガレーテの元には縁談が舞い込みはじめるだろう。
ハインツェル伯爵はどこの派閥にも属していない。ゆえに逆を言えば、どこの派閥も縁談を持ち込みやすいというわけだ。
フリードリヒがそっと息を吐き出したときだった。
ドカアアアアアン‼
大きな爆発音が響き、フリードリヒとマクシムは同時に立ち上がる。
「合図だ!」
「もっと静かなものを持たせられなかったのか⁉」
これは、マクシムがマルガレーテに持たせておいた魔道具だ。
爆発物ではなく、爆発音だけが響くものだが、あまりにけたたましい音に、道行く人が全員立ち止まってしまっている。
何かが起こった時、もしくは証拠を見つけた時に作動させろと言っておいたので、その音を聞いて待機させていた騎士たちも一斉に突入をしはじめただろう。
フリードリヒは、マクシムと共に、勢いよく走り出した。







