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ちょっと留守にしていたら家が没落していました  作者: 狭山ひびき


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王妃のお茶会とフリードリヒの元妻の噂 3

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 女性が三人集まれば姦しいとは言うけれど、貴賤問わず、それは共通の認識らしい。

 品よくはじまった王妃様主催のお茶会だったが、品よく「うふふ」「おほほ」と笑いあっていたのはものの十分足らずなものだった。


「そうそう、聞きまして? エリオール伯爵のところのお嬢さんのお話!」

「婚約者の浮気相手のところに乗り込んで、取っ組み合いのけんかになったって言うあれね!」

「エリオール伯爵のお嬢さんが買ったんでしょう? 可愛い顔をしてなかなかやるわね! わたくし、実際にどんな風だったか見て見たかったわ。誰か詳しいことをご存じでないかしら?」

「噂では、ドレスの下にくさび帷子を着てサーベルを持って乗り込んでいったんだそうですわよ」

「まあ! なんて勇ましい!」

「それで、浮気相手の髪をバッサリ切って、首筋にサーベルを突きつけて、もう二度とわたくしの婚約者に近づかないと誓いなさいと、血判まで押させたんだそうです」

「まあ、素敵ね!」


 ……いやいや、素敵とか言ってるけど、それが事実だとしたらめっちゃ怖いよ。


 わたしは、同じテーブルのご婦人方がぺちゃくちゃと楽しそうに話しているのを、何とか顔に笑顔を張り付けて聞いていた。

 何故かわたしの席は王妃様と同じテーブルで、公爵夫人だの大臣夫人だのに囲まれてとんでもないことになっている。とてもじゃないが、口なんて開けそうもない。

 それにしても、こういう、夫だか恋人だかの浮気相手にざまあする展開にきゃっきゃうふふと盛り上がるのは、どこの世界でも共通なのだろうか。


 ……前世でも、この手のざまあ系めっちゃ流行ってたのよねえ。


 ただ、それは物語の中だからいいのであって、実際にサーベル持って乗り込んでいくのは怖すぎる。

 そして、それを「うふふ」「おほほ」と楽しそうに話しているご婦人方も怖すぎる。

 もしかしなくても、自分の夫に思うところでもあるのだろうか。


 わたしのお父様はお母様一筋ののんびりした性格の人なので浮気なんてしたことはないのだろうが、貴族男性の浮気なんて、そう珍しい話でもない。

 よそに愛人を作っただの、使用人に手を出しただの、よく耳にする話なのだ。

 貴族の結婚も離婚も国王陛下の承認が必要になるので、そう簡単に離婚はできない。

 そのため、夫の不貞に泣き寝入りする女性は多いという。


 ……最近では、その逆もあると聞くけどね。


 エリオール伯爵令嬢の話で盛り上がっているご婦人方は、もしかしなくても、自分も同じことをしたい願望でもあるのだろうか。


 ……想像したら怖いからやめておこうっと。


 王妃様は、そんなご婦人方のお話をにこにこしながら聞いている。

 ちなみに、お茶会の丸いテーブルの上には、見覚えのある小型冷凍庫がどーんと鎮座していた。中にはもちろんアイスキャンディーが入っていて、本日のお茶会のデザートである。

 王侯貴族が、アイスキャンディーを食べながらお茶会とは、なんともシュールな絵面である。紅茶とスコーンどこ行った。


「そう言えばこのアイスキャンディーは、本当にいいわね。暑いときにいつでも食べられるように、わたくしも、このレイトウコだったかしら? これがほしいわ」

「ねえマルガレーテさん。注文したら、作ってくださるのよね、このレイトウコ」

「え? ええ、もちろんです」


 ……お父様ごめーん!


 このお茶会のあとで、冷凍庫の大量注文が入りそうな予感がする。

 心の中でお父様に謝って、わたしは「ほほほ」と作り笑いでティーカップに口をつけた。

 うぅ、この席、ほんとつらい!

 王妃様はお優しそうだけど、なんだかずっとじろじろ見られているし、わたし、何かしたかなあ?


「……そう言えば、例のあの人が、この国に戻って来たらしいわね」


 王妃様が、ぽそりと呟いた瞬間、ぺちゃくちゃと盛り上がっていたご婦人方がぴたりと口をつぐんだ。


 ……例のあの人?


 首をひねっていると、王妃様がにっこりと笑う。


「マルガレーテさんは、フリードリヒ様の元奥様のお話をご存じかしら?」


 え? まさか、お茶会でその話題⁉

 それ、もう八年くらい前の話じゃなかった⁉

 しかし王妃様に訊かれて黙っているわけにもいかない。


「う、噂程度なら……」

「その噂って?」

「ええっと……、フリードリヒ様の奥様が、浮気相手と蒸発して、その後離縁された、と……」


 噂と言っても、わたしはフリードリヒ様とは少し年代が離れているので、詳しいことは知らないのだ。

 ただ、それが原因でフリードリヒ様が女性嫌いになったと聞いたくらいなのである。

 王妃様は冷凍庫からアイスキャンディーを一つ出して、それを食べながら言った。


「大筋はその通りよ。例のあの人……ヘンリーケは、先王陛下が決めたフリードリヒ様の結婚相手だったのだけど、シュベンクフェルト公爵邸に来ていた行商人と恋仲になって出奔したの。ヘンリーケは実家から縁を切られて、その行商人と国外に逃亡したと聞いていたのだけど、最近になってね、戻って来たらしいのよ」

「あら、ではその行商人と別れたのかしら?」


 公爵夫人が首を傾げると、王妃様はゆっくりと頭を振る。


「そこまでは知らないのだけど……。ねえ、図々しいことだと思わない?」

「は、はい……」


 王妃様に訊ねられたら「はい」しか答えはない。否定なんてできようはずがないからだ。


 ……でもまあ、王弟を裏切って浮気相手と蒸発しておいて、国に戻って来るのはすごい度胸だとは思うけどね。


 国王の妃なら、そのようなことがあれば「不義密通」と罪に問われるが、臣下に下った王弟であれば適用されない。しかし、世間は許さないだろう。この国でのうのうと暮らせるとは思えない。


「わたくし、心配なのよ。あの図々しい女が、フリードリヒ様に復縁を迫ったらどうしましょうって」

「え? 復縁ですか?」

「浮気相手と出奔するような図々しい人よ? そのくらい、してもおかしくないじゃない」


 王妃様はよほどそのヘンリーケという人が嫌いらしい。

 まあわたしも、顔は知らないけれど、尊敬するフリードリヒ様を裏切ったその女性にいい感情は持っていないけれど。


「マルガレーテさんはフリードリヒ様の部下でしょう? 最近、様子がおかしいなんてことないかしら? どんな些細な事でもいいのよ。なんだか心配で……」

「そう、ですね……」


 わたしはふとフリードリヒ様を思い浮かべた。

 部下と言っても、春からの付き合いなので、まだ四か月くらいしか一緒にいない。


 ……あ、でも、入団当初から比べるとよく笑うようになったのよね。よく見ていないとわからない程度だけど。


 最初のころと比べたら、少し、雰囲気が柔らかくなったような気がする。


 ……もしかして、元妻のヘンリーケさんが戻って来たからなのかしら?


 二人は密かに連絡を取り合っていて、復縁の準備を進めているとか?

 だからフリードリヒ様は雰囲気が柔らかくなったのだろうか。

 顔のも知らないヘンリーケさんとフリードリヒ様が寄り添って微笑みあうところを想像したわたしの胸が、もやっとする。


 もしそうなら、ものすごく面白くない。

 だって、そのヘンリーケさんという人は、フリードリヒ様を一度裏切ったのだ。

 フリードリヒ様を裏切って、傷つけて、女性嫌いにまでしたその女性が、再びフリードリヒ様の妻になるなんて、どうしても納得できなかった。


「……これと言って、とくには」


 だから、フリードリヒ様の雰囲気が柔らかくなったのはヘンリーケさんのおかげだとは思いたくなくて、わたしが首を横に振ると、王妃様は「そう……」と頬に手を当ててそっと息を吐く。


「ヘンリーケがフリードリヒ様にちょっかいを出さないうちに、フリードリヒ様にはほかの女性と再婚してほしいわね。別れてもう八年も経つのだもの」

「あら、それじゃあマルガレーテさんがよろしいのではなくて? 王妃様も、そのおつもりでこの場に呼んだのでしょう?」


 ……ええ⁉


 爆弾発言を投下した大臣夫人に、わたしはぎょっと目を剥いた。


「フリードリヒ様とマルガレーテさんが仲良くしていると噂になっていますのよ。今日のドレスも、フリードリヒ様が用意してくださったものでしょう? ふふっ、藍色のドレスなんて、これは独占欲に表れだと見ていいのではないかしら?」


 ……いやいやいやいや、違うと思いますよ⁉


 わたしなんかを押し付けられたらフリードリヒ様は大変迷惑するはずだろうから、噂でもやめて上げてほしい。

 わたしは助けを求めるように王妃様を見たが、王妃様はふふっと楽しそうに笑っていて助けてくれない。

 このままではこの席の話題のネタにされかねないと、わたしがあわあわしはじめた時だった。


「あら、時間切れみたい。この話題をこれ以上続けたら怒られてしまうわね」


 王妃様が心の底から残念そうに肩をすくめて、視線を上げる。


 王妃様の視線を追って振り返ると、フリードリヒ様がこちらに向かって歩いてくるところだった。





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