腰痛には湿布薬ですね 2
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
騎士の訓練場は城の裏手にある。
訓練場はとても広くて、オリンピックで陸上競技が行われそうなグラウンドの、二倍とか三倍ほどの広さがあった。
年に一度、年明けに剣術試合が行われるから、楕円形の訓練場はぐるりと観客席で覆われている。どこの世界もスポーツ大会は好まれるようで、この世界ではそれが騎士団の剣術試合というわけだ。
わたしとミヒャエラさんは、観客席の一番下の席に座って待機である。
待機中は暇なのでポーションを作る。今日作るポーションは、結核の感染拡大を抑えるために王都中の人に配った、わたしが国に売ったポーションだ。無償配布は終わったけれど、医療機関から注文が入っているんだって。
……そう言えば、当初は家でもポーションを作って販売してお金を稼ぐ予定だったけど、ずっと湿布薬作りに夢中になっていてすっかり後回しにしていたわ。これは何が何でも湿布薬で儲けないと割に合わないわね。
早くも湿布薬が必要になりそうな人は現れないものかと訓練場を眺めていると、タイミングのいいことに、ちょうど訓練試合で木刀を肩に受けた騎士を発見した。
訓練場に待機しているときに聖魔法騎士が出動するのは大怪我の場合だけなので、あの程度なら普通は無視されるのだが、被験者としてあんなに都合のいい人を放置するわたしではない。
「ミヒャエラさん、ちょっと行ってきていいですか?」
「あの程度なら無視していて構わないのよ」
「いえ、聖魔法じゃなくて、これを試したいんです」
わたしが湿布薬のジェルを詰めた瓶と、それを塗って貼るための布を取り出すと、ミヒャエラさんは不思議そうな顔をする。
「それは何?」
「湿布薬です!」
「シップヤク……」
なんでも魔法頼りのこの世界には、湿布薬も存在しない。
……魔法は確かに便利だけど、聖魔法の使い手が少ないんだから、魔法以外に頼れるものがあれば頼るべきだと思うのよね!
ミヒャエラさんは首をひねっていたが、怪我をした騎士の手当ては訓練場に待機している聖魔法騎士の任務の一つであるため、「あの程度で大袈裟ね」と言いながらも止めはしなかった。
わたしが湿布薬を抱えて走っていくと、肩を押さえた騎士が驚いた顔をする。
「おやお嬢ちゃん……ええっと、マルガレーテだったな。この程度なら気にしなくても構わないよ」
肩を打った騎士は二十代半ばくらいの騎士だった。
笑っているところを見ると、ミヒャエラさんの言う通り、いつもはこの程度の怪我は無視して訓練を続けるのだろう。
……だけど、そんなもったいないことはしませんとも!
「あの、これを使ってみてほしいんです」
「……これは?」
「湿布薬です」
「シップヤク……」
ミヒャエラさんと同じような反応をされる。うん。耳なじみのない単語だよね。
「新しく作ったものなんですけど、よかったら使って感想を聞かせてほしくて」
「ふぅん? ま、肩の腫れが引くまであっちで冷やそうと思ってたから、そのくらいなら別に構わないよ」
右肩を強打したため腕が痺れて木刀が握れないので、しばらく休憩を取る予定だったらしい。
わたしは騎士と共に訓練場の端に移動すると、肩を出してもらった。
……うわあ、真っ赤に腫れてる。痛そう……。
わたしは湿布薬を布に取ると、そっと腫れているところに乗せた。
「うぉ⁉」
冷たかったのだろう。騎士が一瞬、ぴくりと肩を震わせる。
「ごめんなさい。痛かったですか?」
「痛くはないが……、シップヤクだったっけ? なんなんだ、これ。冷たいし……なんだか気持ちがいいな」
湿布薬は結局聖魔法を使って作ったので、鎮静作用と痛み止めの効果も付与してある。はっきり言って、魔法のおかげで前世の湿布薬の何倍もの効果が期待できる優れものだ。
「痛み止め効果はすぐに効きはじめると思いますが、そのまま一時間はつけておいてください。一時間後には腫れがおさまっていると思います」
「へえ、すごいな。こんなものがあるのか。だが一時間も訓練に参加できないのはつらいな」
……いやいや、この状態でまだ訓練を続けるつもりだったんですか。脳筋? 脳筋なの? あり得ないから!
「無理をしたら悪化して長引きますよ。本当は今日一日安静がいいんですが、それが無理なら湿布が取れる一時間はおとなしくしていてください。いいですね?」
「お嬢ちゃんは可愛い顔をして厳しいな」
「普通です!」
この状態ですぐに訓練を再開しようとする方が非常識なのだ。理解してくれ、脳筋!
騎士団の訓練に聖魔法騎士が待機していないといけない理由がわかった気がする。この調子で訓練をしていたら、大怪我をするのは目に見ていた。
「訓練が再開できないのはつらいが、確かにこれは気持ちがいいな。痛みも引いてきたし、腫れも落ち着いたんじゃないか? 一時間……」
「まだ十分しか経ってません。あと五十分」
「やっぱりお嬢ちゃんは厳しいよな?」
「普通です!」
見張っておかないと脳内で勝手に一時間経ったことにして飛び出しかねないので、わたしは時計を見せて「この針がここに来るまではダメ!」と念を押した。
年上の騎士に子供のように言い聞かせていると、転んだ拍子に足をひねったという騎士が休憩のためにやって来る。
……はい! 被験者二人目! おっとまた一人! はい被験者三人ゲット!
今日はいいデータが取れそうだ。
わたしは嬉々として騎士たちに湿布薬を貼っていく。
最終的に十四人のデータが取れ、騎士たちが湿布薬に多大なる興味を示したところで、本日の待機任務は終了した。







