いきなり騎士団長直属の団に入団が決まりました 5
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
聖魔法騎士団に入団して九日目。
今日は王都内の病院に慰問に行く日である。
ちなみに猫の手販売は順調で、伯父が容赦なく追加発注をかけてくるため、お父様はひーひー言っている。
アイディアグッズ二号の湿布薬の方はまだ完成していない。
最初は前世のようにぺたっと貼るタイプを作ろうと思ったのだが、乾燥防止するためのビニールとか諸々の問題にぶち当たり、発想転換を余儀なくされた。
そこで考え付いたのが、ゲル状のクリームを作って、それを布に塗って患部に張り付け包帯で固定して使うというものだ。現在ゲル状クリームを開発中であるが、こちらは何とかなりそうである。試作品ができたら父で実験する予定だ。
今日の慰問は、聖魔法騎士団から、フリードリヒ様、ミヒャエラさん、わたし、それから四名の聖魔法騎士が向かうことになっていた。
団長は忙しいので滅多に慰問に向かわないそうで、今日フリードリヒ様が一緒に行くと聞いて首を傾げた団員も多いらしい。
慰問先は、わたしが実技試験で訪れた病院ではなく、別の病院だ。
合否に関係なく、留学組は聖魔法の扱いに慣れているため、実技試験の日だけで二十人以上の患者が快癒した。そのため、聖魔法騎士団が慰問へ向かう順番は最後に回されるのだ。
今日向かうのは、実技試験の日に一番快癒患者が少なかった病院だ。
「マルガレーテ、君は私と一緒に来なさい。ミヒャエラはほかの聖魔法騎士たちと重病人以外の病室を回れ。私たちは重病人の病室を重点的に回る」
……え⁉
まさかの、教育係から引き離されてフリードリヒ様と行動ですか⁉
わ、わたしの心臓、持つかなあ……。
ディートリヒ様と直接会うのは、入団初日の挨拶以来だ。
憧れの人に対する免疫がまだ構築されていない状況で、二人っきり(患者さんはいるけど)ですと⁉
「二時間後に一階の待合室に集合だ。私たちが今日ここに来ることは通達してあるので、今日に合わせて来院している患者も多いだろう。余裕があれば通院者の治癒もするように。以上」
行け、とディートリヒ様が軽く手を振ると、聖魔法騎士たちが「は!」と敬礼して示し合わせたようにばらけていく。
「マルガレーテ、君はこっちだ」
平坦な声で言って、ディートリヒ様がすたすたと歩きだした。
階段で四階まで登る。四階に重症患者の病室があるようだ。
「例のポーションは、今日も持って来ているのだろう?」
「は、はいっ。持ってきました! ご指示通り多めに持って来ています」
「結構。この端の病室には、君が入団試験のときに担当したように胸の痛みを訴え咳が続いている患者がいる。院長によると、最初は一人だったが病室全員に同じような症状が現れたそうだ。血痰も出ている」
……あ、もしかして、それってただの肺炎じゃなくて結核じゃない⁉
わたしはさっと青ざめると、反射的にはしっとディートリヒ様の腕をつかんだ。
ディートリヒ様が足を止めて弾かれた様に振り返り、じろりとわたしを睨みつけてくる。
「……なんだ」
その低い声に、わたしはびくりとした。
何故かものすごく怒らせてしまったようだ。
「あっ、あの……! そ、その病室に入る前に、いくつか聞いておきたいことがあります」
「……わかった。だが、先に行っておく。私には無暗に触れるな。いいな」
「は、はい!」
どうやらわたしがディートリヒ様の腕をつかんだから怒らせたようだ。
……そうだったあ! ディートリヒ様は女性嫌い! そりゃあ触られたくないよね!
わたしはディートリヒ様から急いで手を放して、「失礼しました!」と謝罪した後で、深呼吸をしてから訊ねた。
「今から向かう病室ですが、出入りする病院の職員の中にも同じ症状が現れた人はいませんか?」
「清掃員と、それから入院中の患者の身の回りの世話にあたる介助者に同じ症状が現れた人間がいる。それがどうした?」
医者は聖魔法使いだ。聖魔法使いなら具合が悪くても自分で治癒できるので症状がひどくなる前に何とかしたと思われるが、清掃員や介助者は聖魔法使いの使い手ではない。
……これ、ちょっとまずいかも。
まだ病院全体に感染が広がっているわけではなさそうだが、放置しているとこの病院に入院中の患者、通院してきた患者を通して爆発的に感染者が増える可能性があった。
「……あの。聖魔法騎士団の入団試験を受ける前に資料で読んだんですが、十数年に一度、胸の痛みと血痰を訴える患者が爆発的に増えることがあるそうですね」
「そうだが、それがどうした? あまり立ち話に時間を使いたくないのだが」
「これは! 重要なことです! 急がないと、その患者が爆発的に増える年が今年になってしまうかもしれませんよ!」
「……なんだと?」
ぐっとディートリヒ様が眉を寄せた。
だが、これは怒っているのではなく真剣に話を聞こうとしてくれている表情だ。
その証拠に話を続きを促される。
「今から向かおうとしていた病室の患者さんは、結核という人に移る病気にかかっています」
「ケッカク? はじめて聞くが……。まあいい、それで、そのケッカクというのが問題なんだな」
「そうです。結核は人に移ります。おそらく、この病院内にはその結核菌……病気の卵がたくさんあると思います。急いでこのポーションを量産し、入院患者、病院の職員、それから通院者……とにかくこの中に入った人に全員配るべきです。そして、しばらくの間それを続けなくてはいけません。もしかしたらすでに病院の外で罹患してほかの病院にかかっている人もいるかもしれないので、できれば王都中のすべての病院にポーションを配って、同じように、病院を訪れる人全員に飲ませることを徹底しなくてはいけません」
「ずいぶん大掛かりなんだな……」
「そうおっしゃいますけど、何百人、何千人という人が罹患したら、聖魔法の治癒が追いつかなくなりますよ。聖魔法の使い手は限られるんですから」
「……一理ある。しかしその場合、君のそのポーションの製造法が外部に漏れることになるぞ。それは君が研究した、君のポーションだ。人に知られるのは面白くあるまい」
確かに、それだけのポーションを作ろうとなるとわたし一人の手では足りないので、レシピを公開して手伝ったもらう必要があるだろう。
聖魔法の使い手は、独自で編み出したポーションのレシピを秘匿にしたがる傾向にある。
……でも、そんなことを言っている場合じゃないの!
わたしは首を横に振った。
「治療が間に合わず死ぬ人が出るくらいなら、わたしはポーションのレシピくらいいくらでも公開しますよ」
わたしがまっすぐにディートリヒ様の藍色の目を見つめて告げると、彼は驚いたように瞠目した。
そのまま数秒、瞬きすら忘れたように動きを止めたディートリヒ様は、ゆっくりと息を吐き出すと、「いいだろう」と告げる。
「まずは、君が今日持って来ているポーションを今から向かう病室の患者に渡す。院長からは病がかなり重症化していると聞いているので、彼らの治癒は急いだほうがいいだろう。そのあとで、聖魔法騎士団で君にポーションを量産し、病院に配ると同時に、市井調査を行いそのケッカクの症状が出ている人間がどのくらいいるのかを調べる。状況に応じて、貴賤問わず王都に住まう民全員にポーションを配ろう。それでどうだ?」
王都には約二万人の人間が住んでいる。それだけのポーションを作るのはかなり大変だが、それで感染が抑えられるならそうすべきだ。わたしは大きく頷いた。
「はい、わたしも団長の意見に賛成です!」
「よしわかった。では急ぎ病室へ向かう。そのあとで私は院長に君から聞いた話とこれからの計画を伝えよう。慰問から戻った後で、第二から第五の団長にも通達し、全聖魔法騎士団員でポーションの製造にあたる。……それから、やはりそのポーションは君が苦労して編み出したものだ。さすがに無償でレシピを奪い取ることは気が引ける。よって、そのレシピを国で買い取らせてもらおう。金額は陛下と相談した後になるのと、こちらが提示した金額を呑んでもらう形になるが、それで構わないだろうか」
……むしろ、お金もらえるんですか⁉
買い取ってもらえるとは思っていなかったのでわたしが目を見開くと、ディートリヒ様がふっとわずかに笑った。
「部下のレシピを無償で取り上げるほど、私は鬼畜ではない」
「ありがとうございます!」
「礼を言うのは私の方だ。君が気づかなければ大変なことになっていただろうからな。……このタイミングで君を聖魔法騎士団へ入団させることができたことを、嬉しく思う」
行くぞ、とディートリヒ様が制服の裾をひるがえして急ぎ足で階段を登っていく。
わたしは駆け足でそのあとをついて行きながら、顔がにやけるのを止められなかった。
……うぅ、憧れの人、カッコよすぎだよ‼







