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夏夜の夢  作者: 十月十日
7/7

5

「――何やってるんだ」

 ぱっと目の前が開けて、葵は瞬きをした。白狐の面が見下ろしてくる。

「あ……キツネ」

 忌々しそうな舌打ちをした青年は、手に持った黒い面を無造作に放り投げた。少し離れた地面で、からんと音がする。

「えーと……あれ?」

 辺りを見回してみると、いつの間にか随分暗くなっていた。鳥居に吊るされた提灯にぼんやりと明かりが灯り、暗闇を薄赤く照らしている。

 状況がわからずにぽかんとしていると、妙に不機嫌そうな青年が答えた。

「お前、ぎんに化かされたんだよ」

「ぎんって……あの女の人?」

「そう。厳密には女の「人」じゃないけど」

 不機嫌なのはそれが原因らしい。苛立ったような雰囲気を滲ませて、青年は葵の手を引く。促されるままに立ち上がって、二人で並んで歩き始めた。

 いつかのように、何となく黙り込んで歩く。前を行く背中はいつの間にか随分と大きくなっていた。

「ねえ……キツネ」

「何」

「十二年前、落し物しなかった?」

 虚を衝かれたのか立ち止まったキツネは、困惑したように彼女を見返してくる。葵は巾着袋を探って、古い写真を取り出した。

「ごめんね。ずっと返しそびれてた」

 それを受け取った青年は、しげしげとそれに見入っている。

「ああ……これ、見つからないと思ったら。持っててくれたのか」

「それ、写ってる男の子ってキツネだよね。その女の子は誰?」

「この子は……」

 言い差して、青年はふと言葉を止めた。写真と葵をじっと見比べている。

「え、何?」

 上から下まで眺められた葵がむしろ狼狽するが、彼がそれを気にする様子はない。

「…………ああ、そういうことか」

 そして勝手に何かに納得してしまったような彼は、持っていた写真を葵に返した。

「これは返すよ」

「でも……これはキツネのでしょう?」

「君が持っていた方がいい」

 それと、と言って、青年は頭の後ろに手を回した。結んでいた紐が解かれる。

「……これも持って行ってくれないか」

 その顔が見えたと思った瞬間、視界は暗闇の中に閉じ込められていた。両肩を優しく掴まれて、後ろを向かされたのがわかる。

 あの白狐の面をつけられたのだろう、少し狭くなって視界には長い鳥居の道の果てが見えていた。

 振り向いて青年の顔を見ようとするが、しっかりと押さえられていてそれもできない。その間にも道の終わりは近づいてくる。

 もう少しというところで、不意に青年が立ち止まった。

「……ごめん」

「どうしたの? いきなり」

「ぎんのこととか、俺のこととか。俺には隠し事ばかりだ」

 それまでとは少し違う、困ったような声音。葵はつい笑ってしまった。

「そんなもんじゃない? 隠し事なんていっぱいあるもんだよ」

 まあでも、追々話してくれると嬉しいけど。

 そう付け足すと、キツネは小さく笑った。



 鳥居が途切れた。

 いつかのように、背中に手が触れる。

「また来年も来るよ」

「気長に待ってるよ。……その浴衣をくれた人にもよろしく」

 驚いて振り返るよりも先に、彼女は鳥居の外に足を踏み出していた。

 後ろを振り返る。

 背の高い青年が、こちらを見て微笑しているような気がした。

まだまだ未熟で読みづらいかと思いますが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

だいぶ色々書ききれませんでしたが、キーワードを見てわかる人はある程度わかるかと。

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