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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
トルペン編
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第27節 水のパレード

 水のパレードは、トルペンランドの両端から中心の大噴水に向けて行進していく。俺たちはトルペン城からやって来るパレードの行列を見に行くことにした。

 俺たちが着いた頃には大勢の観客が道の両脇に集まっていた。


「すごい人の数ですね」


「水のパレードはトルペンランドの中で一番人気のショーですから」


「せ、先輩、私その、背が小さくてパレードが見えません……」


「大丈夫だ。パレードはそういう人たちのために高い場所でパフォーマンスをする人もいる」


「それではダメなんです!私はパレードの全てを楽しみたいんです!」


 ルナは背伸びをしながら俺に文句を言ってくる。確かにルナの身長では道を歩く役者達を見ることはできないだろう。

 そうこうしている内に陽気な音楽が道の奥から流れてくる。


「ルナ、これに乗って」


 するとアオは青幻素で階段状の台を作り、最上段を広くして周りに柵を取り付けた。


「アオちゃんこんなの作っていいの!?」


「大丈夫……多分」


「お姉ちゃんたちずーるい!」


 やはりこんな人の多いところでは目立ってしまい、近くにいた子供達が階段の周りに集まってきた。


「君たちも登ってきなよ!」


「いいの?」


「もちろん!」


 子供達はそれを聞くと皆我先にと階段を駆け上がっていく。


「ルナ、私一旦降りるね。道沿いにこれ増産してくる」


「え、でもアオちゃんパレード見なくてもいいの?」


「うん、お客さんに楽しんでもらうことが優先だから。それよりルナはその子達をよろしくね」


「……うん!」


 アオは階段から降りると道沿いに次々と同じものを作っていく。


「すいません……うちの子が勝手に……」


 階段に登っていった子供達の親が申し訳なさそうに俺たちに頭を下げてくる。


「いえいえ、大丈夫です」


 それに対してシオンが丁寧に対応していく。元々俺たちの我儘で作った物なのでむしろ怒られるのではないかと俺は内心ヒヤヒヤしていた。

 だが階段の上にいるルナと子供達の笑顔を見る限り、その心配は要らなそうだ。


「あ!見て!」


 上にいたルナが何かに気がついたようだ。俺とシオンはルナが指差している方向を見る。そこには巨大な帆船が列を作って道を進んでいた。

 船の周りでは役者たちがカラフルな水をまるで波のように動かし、船の上では船員たちが陽気な音楽に合わせて面白おかしく踊っている。時折観客に向かって手を振るなど、ファンサービスも欠かさない。


「先輩、あの船多分水でできてますよね」


「船体は茶色、帆は白色に着色してるんだろうな」


 青幻素にあんな使い方があるなんて、トルペンランドは随分と青幻素を研究しているようだ。


「あと先輩、船の先端にいる子、あれルーさんじゃないですか?」


「え、マジ?」


 俺は船の先端に急いで目を向けると、そこには船長のような格好をした女の子が船員たちに指示を出しているように見える。

 確かにルーそっくりだが、それにしては少し背が小さいような……。


「もしかしたらルーが言ってた妹さんかもしれない」


「なるほど。ルーさんに似ていますね」


 先頭の船は俺たちの前を通りすぎると、中心の大噴水の前で停止した。人が多くて気がつかなかったが、どうやら俺たちは噴水に近い場所で見ていたらしい。


 するともう片方の道から何やら禍々しい形をした船が噴水に向かってやって来た。先頭の船は9本の長い足と風船のような頭をもつ怪物のような形をしている。その船には魚の格好をした役者達が帆船に向かって何かを叫ぶ仕草をしている。

 その船の先端には、厳つい魚の格好をした青髪の青年が立っていた。


「おいシオン、あれはルーの兄じゃないか?」


「そうかもしれません。クラウズのバッチはつけてませんが」


 青年を乗せた船は帆船同様噴水の前で停止した。すると先端にいた2人が何やら言い争いをしているようだ。


「なんか物語っぽいな」


「どうやらこの街の童話がモデルらしいです」


 シオンはアオから預かったパンフレットをまじまじと見つめている。


「シオン、そろそろ船を見た方がいいぞ。どうやら言い争いが終わったようだ」


 俺がそう言うと、シオンは顔を上げて船の方を見る。


 2人は言い争いをやめてとうとう戦うことにしたようだ。2人の乗る船から茶色に着色された水のロープが放たれ、互いの船に絡まる。その上を互いの船員が渡りそれぞれの船で戦いが始まった。


「がんばれーーー!」


 子供達はやはり帆船に乗っていた船員を応援している。最初は帆船の船員たちが優勢だったが、魚達も必死の抵抗をして両者共に次々と倒されていき、ついに船長同士の一騎打ちとなった。


 2人はロープの上で剣を素早く交えている。ロープの上という足場の悪いところで2人は飛び跳ねたり片手で逆立ちをするなど高度なパフォーマンスを披露する。それと同時に観客の声援も大きくなっていくと、とうとう魚の船長が足を崩されロープにぶら下がる状態になってしまった。


 魚の船長はどうやら命乞いをしているらしい。帆船の船長はそれを受け入れると、魚の船長を引っ張り上げてロープの上に立たせる。すると2人は互いの船員に何かを呼びかけると、船員たちは起き上がり、仲良く手を取り合って踊り始めた。


「ハッピーエンドだな」


「そうですね」


 しばらくして、先端で踊っていた2人の船長が両手でハイタッチをすると、なんと全ての船が弾けて水に戻り、その水は空中に彩り豊かで豪華な道を作り出した。その道の上を役者達が観客に手を振りながら歩いていく。


 その道はトルペン城にまで続いているようだった。



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