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魔法のスイーツ店  作者: 緋色唯
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5話 千の愛の葉

『死』とはなんですか


鳥のさえずりと共に店長がいつも通り店を開こうと外に看板を出しに出た時、1人の男性が店を訪れた。


「いらっしゃいませ。早いですね?あなたが今日一番のお客様ですよ。」


「『死』…って、なんですか?」


「え…?」


まだ暖かい季節だが、2人の間を走り去った風は何処かさみしく冷たく感じた。

まぁ、話は中で…と男性を中へ案内した。


「どうしまし…」「『死ぬ』ってなんですか?」


「死ぬ…ですか…?」


「私、死にたいんです。」


「それまたどうして。」


「生きてる意味ないと言うか。なんで生きてるのか、なんでこの世に生まれて来たのか。わからないんです。…なにを目標に生きたらいいのかすら…」


店長は仮面の奥からじっと男性を見つめていた。カップを拭いていた手が震えて、たまらず作業場に置いた。


「…どうしてそう思うんですか?」


「彼女が…亡くなったんです。」


店長は何を思ったか、手を滑らせ皿を割ってしまった。そのあと、驚きもせず拾おうともせず、ただただ、男性を見つめていた。


「…癌です。見つかった時には遅かった。末期…ってやつだったんです。」


「…そ……それは……」


「22歳でした。結婚も考えてました。…俺は…彼女を愛していた…。仕事は辛かったけど、彼女の為にと、辛い仕事も乗り越えられた。…俺は……」


「…心の中…話してくださいませんか…」


男性は涙を流した。


ーーーーーーー



「末期の癌です。もって1ヶ月でしょう…」

「そ、そんなぁ…!!?せ、せ、先生…!!どうにかならないんですか!?り、リサは死ぬんですか…!?」

「延命治療はありますが、ここまで癌が進行していると、辛いだけで効果があまり期待出来ないかと…残念ですが…」


俺は目の前がまっくらになった。

真っ暗闇の中にただ、彼女の笑顔が光っていた。俺は絶望を知った。


「…延命治療受けません。」

「な、なんでだよ!!お。おれは生きて欲しいんだっ…」

「うんん。いいの。お金、高いしねっ あなたに迷惑かけられない。残りの時間、悔いなくすごすごとにするよっ…。」


俺は彼女に笑顔を見せることは出来なかった。

病院から帰った後俺は泣き崩れた、大声だして泣き叫んだ。彼女を…失いたく無かった…。


次の日から、彼女のカウントダウンと共に過ごすごとに俺は笑えなくなっていった。

彼女の顔を見るたびに辛くて辛くてしかた無かった。


余命2週間を切った時。彼女から長文のLINEが飛んできた。


『あの日からあなた、全然笑ってくれなくなったね…

あたし悲しいな…

癌とか怖くてさ辛くてさ、泣いたりもしたけど、一番辛かったのは…

あなたが笑ってくれなくなった事だよ…

あたしはもう少しで死んじゃうから、あなたとの残り少ない時間楽しく過ごしたいの。

それとも、もう少しで死んじゃうあたしなんて嫌いになっちゃった…?

あたしは、あなたのこと愛してるよ。とっても。誰にも負けないくらいに!!!ほんとだよ!?自身あるんだよ?

あたしは死んじゃうけど…死んじゃったら、あたしじゃない、違う人と幸せになってね!あたしがあなたのこと支えて行きたかったけど、無理っぽいからさ…。だから、あなたが死んで悲しんでる時、隣にいてくれるようなそんな女性見つけてね!


…んじゃ。おやすみ。』



俺はバカだった。彼女のことを考えてるつもりが、自分のことばかり考えてた。

辛くて辛くてしかたなかったから。

だけど、一番辛いのは彼女だった…

俺にはわからない、『死』が、迫って来るという恐怖。

俺は…彼女を愛してる。愛してる。


今俺に出来ること…それは、彼女を愛し続けることだった。愛して、愛を伝えることだった。


それから彼女との付き合いも変わり、彼女もいつにもない可愛い笑顔を見せてくれるようになった。

彼女はこの前のメールに触れようとしなかった。だから俺も心にしまっておいた。


余命宣告されて5週間がたった。が、彼女は生きている。笑顔で死を跳ね返しているかのように…


しかし、別れは突然にやって来た。

俺が仕事から急いで病院にもどって来た時にはもうすでに危篤状態だった。今が峠と宣告された。

彼女の綺麗な手を握り、俺は…泣き叫んだ。


「死ぬな!!死なないでくれぇぇぇ!!!!かえってきてくれぇぇ!!!お願いだぁ…!!」


その時、もう目を開けないだろうと言われたはずなのに、彼女は少し目を開けたのだった。

俺は名前を必死に叫び続けた。


「リサっ…!!!!!リサ、リサ!!!!」


そして彼女は目を細めて、弱った唇をそっと、ゆっくり動かした。


「けん………。あり…が…とう…。」


彼女は目を再び閉じた。そして、

ピーーー。という不協和音が病室を包んだ。


ーーーーーーーー


「店長…おれは…もう…生きててもしょうがないんだ…

彼女にちゃんと『愛してる』と伝えられたのか…

彼女が俺の人生だった…俺はっ…!!」


「彼女さんは…!!!

…彼女さんは…幸せだったと思います。とっても…!」


男性は泣き崩れた。


「俺はなんの為に生きてるんだ…彼女が居ない今、俺の生きてる価値はなんだ…意味は…」


「しらなくていいと思います…」


「…え?」


「初めから、生きてる意味、価値なんて知って生まれてくる者など居ないんですよ。

みな、不安なんです。自分はなぜ生きてるのか。

私もです…


…私は事故で妻を亡くしました。」


「えっ….」


「だからあなたの気持ちがよくわかります。

生きてる意味があるのか。自分を問い責めました。

その時なにかが私を包み込んだのです。未だにわかりませんが。妻…だったのかもしれません。

なにかを語りかけ、守ってくれているようなきがしました。

それから私は4年前に店を始めました。彼女の大好きだったスイーツの。」


「そーだったんですか…

今も変わらず、愛していらっしゃいますか…?」


「…もちろん…。」


「よかったです…ここ来て。

店長さんも辛い過去思い出させてすみません…

あの。ミルフィーユください。

…彼女の大好物なんです。」


「昔の人は葉を紙代わりに手紙を書いたそうですよ。ミル枚のフィーユ…『ミルフィーユ』どうぞ…愛の言の葉届くといいですね」


四角い板のような生地が、クリームと交互に重なり、上にはミントがのって、華やかに演出されている。

食べ方は難しいが、がんばって口に入れた時はとてもほっとする味わいだ。


「りさ…欲張りなところあって、『ミルフィーユはまるでケーキが3つ重なっているかのような満足感があるから好き』と言っていたことがあるんです。

悔いなく、行けたかな…」


「大丈夫です。彼女さんは。

いつまでもあなたのこと見守っていますよ…」


「そのまま、お返しします…」


「…ありがとうございます。」


店長は皿とコップを棚に戻すふりをして、仮面の下で涙を流したのだった。

第5話も閲覧ありがとうございます!


次作で完結です。

第6話、最終回よろしくお願います。!

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