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魔法のスイーツ店  作者: 緋色唯
3/6

3話 ほろ苦いガトーショコラ

乙女心、男心、両方100%わかり合うのは難しいですね。

今は春。小春日和だ。ポカポカ日差しで土筆が目を覚ました頃、

ある若い女性がこの店にやってきた。


「いらっしゃいませ」


彼女はカウンター席にゆっくり座った。すると彼女は顔をあげずに、


「ホットミルクください…。」


と注文をした。どこか暗く、少し震えた声で。


店長はマグカップにホットミルクを入れ、彼女の前にそっと置き、


「そんなに下を向いてらしてるとせっかくの綺麗な顔が見えませんよ。」


彼女は少し驚きな表情で顔を上げた。が、すぐ口を一文字にした。

彼女は膝の上でなにか箱らしきものを両手で強く掴んだ。


「誰かにプレゼントするのですか?」


「はっ…!あっ…。あのっ…はっ、はい…。」


挙動不審に彼女は返事をし、顔を赤らめた。


「もしかして…片想いの

人ですか?」


彼女は目をすごく見開いて店長を見た。


「な、なんで、そそそそうおもったんですかっ」


「顔に書いてあります」


「っ〜…////」


「ここに来たということは何か悩みをお持ちで?」


「…はい。」


彼女は落ち着きを取り戻し、店長に話した。


彼女はとても大人っぽく見えたが、まだ高校2年生だった。

もうとっくに春休みに入ったそうだ。


ー 片想い。

中学の時からずっと片想い中の男の子がいるらしい。

その男の子を追いかけるために一生懸命勉強して同じ高校に入った。

告白しようと何度も挑戦しようとしていたが、いずれも未達成のまま。

そして今日は、その男の子の誕生日だそうだ。

今日こそはと手作りのお菓子を作ったみたいだ。


「友達もたくさん応援してくれてて…今日こそは頑張ります!

で、気合入れるために闇とか取り除いてくれるっていうこの店に来ました!

本当にミルク飲んだら勇気が湧いてきましたよ!

頑張ります!!」


と言って彼女は軽い足取りで店を後にした。

その姿をどこか不安げに仮面の奥から見つめていた。




その日の夕方。彼女がもう一度やってきた。

重い足取りで店を歩き、同じ場所に力が抜けたように座った。


「渡せたのですか?」


その言葉を聞いた瞬間、彼女はうつ伏せで声を張り上げ泣きだした。

店長は少し驚いたが、状況を理解しホットミルクをそっとそばに置いた。


「…渡せなかったんです。いや、受けとってもらえなかったんです…」


「なぜですか?」


「彼女さん…居たんです。それで受けとってもらえなかったんです。」


「…」


店長は磨いていたコップを食器棚においた後、彼女にガトーショコラを差し出した。


「…それはとても悲しいですね。

恋は甘く、そして苦い。

まるでガトーショコラのようですね…。

私のガトーショコラはふわふわでは無いんです。しっとり…ですかね。名前はクラッシック・ガトーショコラ…だったかと思います。

ふふっ ガトーショコラでしか言わないので、本当の名前は定かでは無いんですがね…

外は乾いているのに中は濡れているかのようにしっとりなんです。

まるで涙を溜め込んで居るかのよう。

『失恋』と一言で言ってしまうと後味が悪いですが。その涙、いつか良い思い出となりますよキット。

あなたはまだ若いのだから…」


彼女はただただ真剣に店長の言葉を聞いていた。彼女は今悲しみにくれているのか。いや。


「…そうですよね。たった一回の失恋を引きずってはだめですよね!

…私、あのひとを忘れません。彼に恋したこと忘れません。だって…あいつに恋してた時私、楽しかったんです。

叶わぬ恋…だったけど、男の人なんて、彼だけじゃ無いですもんね!! 星の数ほど居るんですから!!!!」


彼女は赤い瞳を細めにっこり笑った。

彼女は後悔などしていない。逆に前向きになったのだ。

失恋はした人にしか分からないほど辛いものだ。神様からの試練かもしれない。たが、神様は越えられない試練などあたえない。


店長はそんな彼女をみて、つられて微笑んだ。


次の日彼女はガトーショコラを食べにまた店に来た。


彼女はガトーショコラを美味しそうに食べながら、ふと店長に話し掛けた。


「私あれから色々考えたんです。やっぱり彼のことが好きです。実感しました!とても…

…だけど!またアタックしようとか、そんな風には思いません。なんででしょうね??店長にはわかりますかぁ???(笑)」


あはっと元気良く笑った彼女はさらりと独り言のように言った。

「にしても!男はなんで女心が

分からないんでしょーね?」


その言葉に店長の手が止まった。


「…店長どうかしたの??」


「…いや、なんでもない。昔のことをすこし思い出しただけです…

あ、その飲み物代オマケにしときますね。」


「あ、うん。ありがと…?」


それからの2人の会話は特には無かった。まるで彼女が店長を気遣っているかのように…


彼女が笑顔で店を出た後、店長は持っていたカップをおろし、ただただ一点を見つめ突っ立っていた。




第3話も閲覧ありがとうございます!


第4話もよろしくお願いします!

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