流れ者
別視点です
「うぁう、あぁああぃっ、ぅっ、あっあっあうかあぁあっ」
血が止まらない。
「か、ふぁっあぁ」
汚れが落ちない。
――たすけて
いみがわからない。
潮騒の音が暗い中でずっと聞こえていた。
村では毎日聴いていた音だ。
間違いはない。
……だけど、随分久し振りに聴いた気がする。
辺りがだんだん赤く、いや、明るくなってくる。
重く濡れた瞼をぱちりと開けた音が聞こえた。
あぁ、僕は眠っていたのか。
ぼんやりとした視界に入るのは白い――
ザパッ、ドッドッ。
「っくぷぅッ、ごはっゲボっぉおぉ」
水、いや、海水を吐き出す。
波に捕まったのか。
瞬時に冴えた目で辺りを確認する。
砂浜の波打ち際だ。
頭から海水を被ったようで視界の端にで髪から水が滴し、襤褸切れの服は濡れて体に張り付いている。
五感がやっと戻って来たのか、口の中に塩の味と入り込んだ砂が感じられ再び咳き込む。
そして海と生き物、そして血の匂いが急に押し寄せてくる。
咳き込み、小さな光で視界がチカチカするが、また波が来ると、そして異様なしかし慣れ親しんだ血臭を明らかにする為、重い体を瞬時に起こし無理にでも立ち上がる。
太陽に焼かれた砂に足をとられながら海から離れる。
太陽の位置や空気感からして昼過ぎ、一番暑さを感じる頃だろうか。
近くには流れ着いたのだろう白木と崖。
崖下には若干の植物が生えているが膝下にも届かない小さなものだ。
崖上はよく見えないが……森だろうか。
海岸線には崖と砂浜がずっと続いている。
人工物や人は見られない。
そして血臭は、海を見ればわかる。
あぁ、部隊の奴等だ。
仲間等とは思ったことはないが、俺と似た様な奴等には同情するぐらいの心持ちはあった。
中には唾棄すべきゴミもいたが。
難破船。
故郷では度々話を聞くし、一度見たこともあったが、自分が難破することになろうとは。
乗っていた船の前半分がここに流れ着いたか。
ここに居る死者は十数人ってところか。
全員体が切られていたり、穴が空いていた。
余り水死体って感じはしないな。
血も海水で流れて居るのが殆どのようだ。
改めて嗅覚に意識を向ければそれほど血臭はしなかった。
微かな血臭に急ぎ飛び起きるとは、随分慣れたものだなと心の内で自嘲する。
「はぁ。俺が生きていて、どうしろってんだよ」
口から溜め息が零れ、やるせなさになんとも言えない気持ちになる。
「そうだねぇ、取り敢えず事情を教えてくれるとありがたいかな」
背後から俺の独り言に応えた声に、即座に距離をとる。
あぁ、これも染み付いちまったどうしようもねぇ癖だ。
しかし実際、気配も感じず、背筋が海水に当たるよりも余程冷たくなったのだから仕方ない。
見遣れば異国風の男がオーガーとリザードマンを連れてそこに居た。
いや、本当にいつ現れたんだ。
「君、そこの船の人だろう。
この当たり所じゃ見ない感じだけど何処の人かな」
あぁここじゃ俺の方がが異国地味てるのか。
「あ、あぁ、神聖サルヴァトーレル王国の者だ。
……とは云ってもそこの爪弾き達だが」
なぜ要らぬことを付け加えたのか自分でも分からない。
だがきっと、もうどうでもいいのだろう。
「成程、ここはファルデーニャ王国の南端だ。
海流の関係で難破船は珍しいらしい。
あぁ、私もこちらには来たばかりで又聞きの話だけどね」
ファルデーニャ、聞き覚えがあるが……。
あぁ。
「塔のある鉄の島か、随分遠くまで流れたものだ」
「ふふっ、そうらしいね。
まぁここにいてもしょうが無い。
こっちに来るといいよ、ご同輩」




