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彼らの永遠 2


ともりの叔母、智枝美さんから送られて来たお茶っ葉の詰め合わせの中にカフェインの入ってないリラックス効果のあるものがあったらしく、ともりはそれを淹れてくれた。お礼を言って二人で飲んで、おやすみ、いい夢が見られるといいねというやさしい言葉に笑み返し、自室へと入る。

しんと静まり返ってーーー足音を殺し、足早に鏡台に歩み寄った。

「……」

呼吸が乱れるのを隠した。ともりはもう部屋だろう。さっきドアを閉める音がした。だから少しの息遣いくらい廊下まで漏れたりしない。大丈夫ーーーでも念のため、殺す。

鏡に映る自分。いつもより青褪めた顔。……顔色が悪いとともりも言っていたが、最近不健康な日常だからと誤魔化した。あながち間違いではない。

部屋の明かりを受け色を変えた自分の髪を見て、頭から毛先まで両手で確かめるようにするりと撫でてーーー安堵し、電気を消してベッドに潜った。枕に突っ伏し、完全に殺した状態で深く深く息を吐く。

よかった。

幻聴だった。

夢だった。

「……」

たっぷりと息を吐き終え、寝返りを打ってーーーさらさらと耳元で髪が流れる微かな音がして、心の底から安堵する。

よかった。現実じゃなかった。この髪はきちんとあり、誰にも切られていたりしない。




「はは、すげー顔色」

「……そんな馬鹿な。今日は頑張ったのに」

ぺた、と頰に触れる。今日はメイクを頑張った。ナチュラルなのはナチュラルなまま、けれど顔色をいつもと同じレベルまで持っていくために。……朝起きても顔色は良くなく、むしろ夜より悪くなっているように思えたから。

大しておもしろくなさそうにけらりと笑った鉢峰はふーっと紫煙を吐き出しながら、

「ばっか、どんなナチュラルメイクもどれだけさり気なく整形したアイドルでも俺は一目見てわかる人間なの。女の子至上主義。どんな変化も見逃さない」

「いつも思うんだけど鉢峰の言う女の子ってどこからどこまでの範囲?」

「その女の子にもよるけどね。二十代半ばまでじゃないの。それ以上だと俺は女性として見るようにしてるから」

「そうなんだ……」

「とはいえ、御影を女性として扱うのは何年後になることやら。俺が言うまでもなく周りもみんな思ってるけどね、御影は二十五過ぎても今のままだよ。見かけは十代、いつまで経っても」

「……」

一瞬黙って。それからゆるりと、首を横に振る。

「まさか。その頃には私は大人の落ち着きを備えた素敵淑女になってるからそれは絶対にないよ」

「現実って残酷なんだ。それくらい知っとけ」

くつくつと笑う割には大しておもしろくなさそうな鉢峰を眺め、嘆息した。

鉢峰 逸は監督志望の、そして本人の言う通り女の子至上主義だ。しかし友人をそういう風には絶対に見ない、そういう男。そんな彼の人間を表わすように、彼の書く脚本には一筋縄ではいかない少女たちが出て来る。

惚れ込んだ。

脚本に惚れ込んだのははじめてだった。

ああ、おもしろいとーーーこれは本当におもしろいと、呑み込まれた。

監督コースと技術コースは合同授業が多い。混合の班で主に実習に取り組むことが多いのだけれど、それでも二年生までは担当教授たちが割り振るものが全てだった。

三年生からは違う。三年生実習では一年かけて脚本撮影現像編集上映まで自分たちで創り上げるのだが、その班構成は自由でいい。監督一名、撮影一年、録音一名の計三人で一組。それが大体三組くらいで一つの班になる。A組の作品を撮っている時はB組のメンバーは助監督や撮影助手、照明担当となる。B組が撮影の時はその逆に。録音の人数が少ないため録音部はひとりニ、三本掛け持ち、撮影部は基本一本、まれに二本掛け持ち。去年はミユキも二本掛け持ちしたのだが今年は一本に絞った。三年時と四年時の組構成は変更可能だ。三年生は十五分、四年生の卒業制作では三十分作品が目安になる。当然班内で全ての仕事が賄えるわけではなく、撮影期間中は後輩の手伝いを募り大団体になった。自分も昔真野や他の先輩の組に参加したなあ、と思い出す。

鉢峰との二年目になり、去年と比べものにならないくらい夏のあの修羅場だった撮影期間を乗り越え、監督たちがひぃひぃ言う編集をクリアし、そして撮影部に回って来たグレーディングーーー色調の整え。これでがらりと味が変わるのだから一カットも気が抜けない。毎日九時から六時、編集室が開いて閉まるまで籠りっぱなしだった。ーーーいや、籠りっぱなしになるのには他にも理由があったのだが。

「なあなあなあなあ、御影」

背後から迫って来た気配は、声をかけられるまでもなく気付いていた。視界に入れたくはなかったがそうもいかないーーー警戒するにおいてーーー振り返り、僅かに眼を眇める。

「おはよ髪くれる気になった?」

「ならない」

脱色のし過ぎでその色になったのか、それとも違うのかーーー染めたこともないのでわからないが、ぱさぱさに痛んだオレンジの髪。

「なんで?」

「絶対に嫌だから」

「なんで?」

「答えることすら嫌だから」

「納得が出来ない」

「だとしても構わないよ。私のものなんだから私が決める」

その髪の下で同じように眇められる、切れ長の目。

ふうん、と肩をすくめ、一度間を置いてーーーにこり、と笑う。

「んー、でもあきらめられない。髪の毛ちょうだい」

何事もなかったかのように繰り返され、ばれないようにそっと、喉の奥で呼吸を止めた。


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