怖いものの話をしようか 9
風呂から出て彼女とバトンタッチしたあと、ソファーに腰掛けてパソコンから通話アプリにログインした。グループトークで林場と綾瀬を呼び出す。幸い、すぐに二人とも応答してくれた。
『どうしたー? お祝い最中じゃないのかー?』
「うん、実はさ」
駅のホームで父親を見たことを告げた瞬間林場と綾瀬が息を呑んだ。
『とりくんっ、御影さんは? 御影さんはそこにいるの?』
「今はいない。風呂入ってる」
なんで? と訊くより早く、綾瀬が深い深い息を吐いた。林場も吐いたその息と音が重なる。
『良かった・・・・・・一緒にいるならいいの。一緒なら・・・・・・あのひとがいてくれたら、とりくんはもう全部『大丈夫』だから』
『今この瞬間なにも心配することがないってことだからな。・・・・・・良かった。先のことは、これから手を打てばいいんだ』
「・・・・・・俺も同意見なんだけどね。やっぱすごいな、みーさん」
『当たり前でしょ。・・・・・・あのひとは、言葉も行動も、全部ぜんぶでとりくんを今まで助けて来てくれたんだから』
『とりを任せるにあたって御影さん信頼しなくて誰をするんだよって感じだ』
「・・・・・・だな」
やわらかく、三人で笑い合った。
『ゆっくりしな。お祝い明日にしてもらえよ。俺たちはまた後日やるから』
「うん、勝手でごめん・・・・・・」
『これが勝手だったら世の中の勝手は犯罪になるよ。大丈夫、気にしないで明日は楽しんで』
「うん。ーーーうん、ありがとう」
ゆっくり休んで。おやすみ。二人の友人と言い合って、通話を切った。ふう、と息を吐いてーーー落ち着いているはずなのになんだか落ち着かなくて、あたたかいお茶を淹れて飲む。
ソファーでじっとしていると、彼女が戻って来た。
「あ、まだ起きてたんだね」
「うん」
「無理はしないでね。早めに寝なね」
「うん。・・・・・・林場と綾瀬、連絡してた。明日はみーさんに祝ってもらいなって。ゆっくり休んでって」
「そっか。ーーーいい友達を持ったね」
「ーーーうん」
彼女と触れ合わなかったら、きっとこうはなれなかった二人。気付きも出来なかっただろう二人。ーーー気付けてよかった。こんな素晴らしい友人たちに、気付けて良かった。
「・・・・・・ともり?」
「え?」
「どうしたの? 落ち着かない?」
「ぁ・・・・・・」
見抜かれた。ーーー心が、す、と、言葉を選んだ。
「・・・・・・みーさん、笑っていいから聞いてくれない?」
「なあに?」
「・・・・・・眠ってる間に、あのひとが俺を攫いに来るんじゃないかと思うと怖い。ーーー本当に怖い」
笑ってくれてよかった。
そんな馬鹿なと笑ってくれてよかった。ーーー笑って宥めてくれるので、よかった。
が、彼女はそれをしなかったーーーやさしい顔で、うなずいた。
「じゃあ一晩中見張ってるよ。大丈夫、ずっと一緒にいるから。大丈夫だよ」
「・・・・・・みーさん」
「なあに?」
「・・・・・・なにも、しないから。絶対に、しないから・・・・・・お願い」
怖いんだ。・・・・・・抑えられない恐怖が、冷たく震える。
「一緒にいて。・・・・・・朝が来るまでずっと、一緒にいて」
「ーーーうん。わかった」




