↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/201

君の嘘と嘘と嘘と嘘と 4


「ーーーは、ふ!」

かふっと息を飲んで眼が覚めた。がばりを身を起こしきょろきょろと辺りを見渡すーーーミユキの部屋、ミユキのベッドの上。

「ふあ……」

時刻はまだ七時前。とくとくとする胸を撫で下ろし、……気になって視線を下げると、鎖骨と胸元に歯型が付いていた。何度でも思うが、同居人の青年の歯並びの良さをこんなところで再認識したくない。

「……ともり……?」

小さく名前を呼びながらそろそろと部屋のドアを開ける。……いない。ベッドは使った痕跡がなく、リビングも無人だった。

「……」

テーブルの上にあったメモ用紙を手に取る。見慣れた筆跡。


『ごめんなさい。頭冷やします。本当にごめんなさい。

サイズは誰にも言いません。

挿木とは会わないでね』


頭を抱えた。




『怒ってないからちゃんと帰って来てね。怒ってないからね。今日も一日気を付けて』というメッセージに既読を付けたのが数時間前。返信も出来ず何も出来ていないのが今現在。……情けないのはわかっている。

「……蕪木、クマすごいけど」

「……あれから一睡もしてないから」

「なんで……御影さんと何かあった?」

ぴく、と指先が無駄に動いてしまったのは無意識だった。須藤がぎこちなく顔を顰める。

「……何かしちゃった?」

「……」

「……」

「…………」

「…………どこまで」

「……口の中に手入れて、俺も指舐めて、あと鎖骨とか噛んだ」

「うわあ……付き合ってない子にすごいな、流石イケメンやることが違う。そうか、それで授業が終わったのにまだ帰ろうとしないのか」

「……」

がっくりとうなだれる。だって、そうだ。全部そうだ。

「御影さんそういうの全然耐性なさそうだけど」

「……知ってるよ」

いっぱいいっぱいのキャパオーバーになって眠ってしまった彼女を見て流石に我に返った。以前一線を踵で踏んだ時はもう少し持ったのだがそれでも最終的にはくたりと眠ってしまっていたし。

だが今回は確実に一方的に自分が悪いわけで、そりゃ帰りはするけれど、どんな面下げて帰ればいいのかーーー

「あ、いた、蕪木ー」

授業が終わっても尚教室にいた自分の元に見付けたとばかりに友人が来た。

「なに……」

「お前の御影さんが来てるけど」

「……は?」

顔を上げる。友人の背後、机と椅子の空間を置いてドアの外ーーー廊下からほんの少し、ちょこんと窺うようにこちらを見る深い深い色の眼。

「……っ!」

がたんと椅子を蹴倒しながら立ち上がり駆け寄った。

「み……みーさん?」

「あ、あのね、なんだかぎりぎりまで帰って来ないような気がして、ほらだってきっと眠ってないでしょ? だ、だから、帰ろ?」

おどおどと彼女が見上げながら言ってうれしくて抱きしめたい気持ちともどかしい気持ちでぐちゃぐちゃになる。どんな顔して顔合わせたらいいのかわからなかったのに彼女は自らこうやって来てくれて、だから、きっとこれは昨夜のことなんてほとんど気にしていないということで、

「……ごめん、連れて来てくれてありがと」

にまにまとこちらを見る友人にそう言うと友人は首を横に振った。

「いや? 俺はドアの前にいたの見付けて言っただけ」

「……え、じゃあどうしてみーさんここまで来れたの?」

学食ならまだしも授業ごとに変わる教室を知っているはずがない。言うと彼女はこきりと小首を傾げた。教室より少し暗い廊下、ふわりとその髪が色を変える。

「私を見かけたことあるってひとが案内してくれたの。蕪木はここにいますよって」

「……誰? それ」

「名前聞いたけど教えてくれなかった。背の高い明るい茶色い髪の男のひと」

「……」

「……あー、御影、さん? それってひょっとしてこいつ?」

近付いてきた須藤がスマホを見せる。昨日の飲み会で撮った画像。

指先で操りズームさせ、その男をアップにする。

「うん、このひと」

「……」

「……」

頭を抱える。頭痛がした。

挿木は一体、何を考えているのか。




ともりの機嫌が悪い。それも結構、とてつもなく。

「……ともり」

「……なに、みーさん」

それでも返事をしてくれたことにほっとしつつ、ひとつ提案してみた。

「お酒、飲んで帰ろうよ」

「……酒?」

「うん、居酒屋とか。……家で飲むのじゃなくて、外でさ。……あ、でも、眠たい?」

「……や、少しなら平気」

「そっか、なら行こう? 須藤くんもどうですか? ご馳走させてください」

「え、」

少したじろいだように須藤は吃ったが、ともりはこくんとうなずいた。ちらりと須藤を見て、どう? と問うような視線を投げ、中途半端にうなずきかけた須藤が腕時計に目を落とす。

「俺このあとサークル会議顔出さなきゃなんですけど、それが終わったら……あとから合流してもいいですか?」

「もちろん。お店決まったら連絡しますね」

うなずき、キャンパスの片隅で別れる。……残った青年を振り返って見上げた。

「……ともり?」

返事の前に。のびてきた手がミユキの手と重なり、繋がれた。

「うん。ーーー行こ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。