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彼らの永遠 6


「おかえり、みーさん。遅かったね?」

「ただいま。……駐輪場で自転車倒しちゃって。ドミノみたく」

「え、怪我はない? 大丈夫?」

「大丈夫。ありがとう。でも最近肉体労働してなかったから腕が疲れちゃった」

「あはは」

リビングに入ると食欲をそそるいい匂いがした。カレーだった。

「わ、カレーだ。やった!」

「自信作」

「やった!」

「もう出来たよ。風呂も沸いてるけど先に夕飯にする?」

「する!」

「それとも俺にする?」

「しない!」

「輝く笑顔が胸に刺さる」

るんるんで洗面所に向かい手洗いうがいをし顔色を確認した。すぐに興味を失って視線を鏡から外しリビングへ戻る。よそわれたカレーとトマトが多めのサラダ。トッピングに半熟卵とアボガドのスライスが少し。付け合せの辣韮はこないだ大量に漬けたもの。

「ふは、ありがとう! いただきます!」

「めしあがれ。いただきます」

ふうっと冷ましてから口に運ぶと、言っていた通り自信作の名に恥じないおいしさだった。頰がゆるんでやわらかくなる。

「ん、すっごくおいしい! どうもありがとう!」

「いーえ。……まあカレーだしね。派手な失敗は早々ないし」

「でも野菜の煮込み加減とか、ともり相当上手になったよ? じゃがいももやわらかくて味が染みてるけど崩れてないし」

「最初の頃は生が怖くて煮込み過ぎてたからね……野菜も不揃いのばらばらで、見た目も悪かったし。……だからそう言ってもらえるとうれしい、ありがとう」

包丁で皮むくのも少し薄くなったんだよ、と、うれしそうに。

幸せそうに。まだたまに包丁で指を切る時もあるけれど、その傷すら誇らしげに。

「……」

ーーー眩しかった。編集室のディスプレイの光より、ずっと、ずっと。




昨日最後、気になって何度も弄っていたところは、一日置いた今見てもやはり納得がいかなかった。どこがおかしいだろう。

ディスプレイを二つ出し、元の画と今の画を見比べる。……色調も風合いもだいぶ色褪せている。それは狙ってやっているのだからいい。けれど……けれど何だろう。このカット、画角はともかく風合いがしっくり来ない。

「ん……」

眼がじんわりと重く痛み一度眼を閉じた。眼が疲れる……暗い部屋だから特に。でもなるべく上映環境と同じようにしてやらなければ意味がない。

飲み物でも買おう。休憩だ……鉢峰はさっきトイレに行ったからたぶん廊下で会えるだろう。固くなりつつある身体をこきこきとしながら編集室を出て続き間の別の編集スペースへ。山積みの機材と機材の合間にいるであろう機材室担当の久世に「十分くらい出ます」と声をかけ、にゅっと突き出した腕がひらひらと振られるのを見てから廊下へ出る。歩きながら機械熱のない篭らない空気にふはあと大きく息を吐いて、

「ーーーいた! 御影!」

廊下の先から聞こえた声にぎょっとして身体を向けた。他でもない湯川ーーー他であればよかったのに。

だだっとこちらに向かって走って来る。顔が笑顔なのがこの場合異常で気持ち悪い。ぞっとして距離を離そうとした瞬間、背後、反対側の廊下の先から「御影戻れ!」と叫ばれた。ーーー鉢峰の声。その声に従い振り返らずほんの数歩湯川に近付くように走りドアに飛び付いた。一瞬で中に身を滑らせ叩き閉め鍵をかける。

「ーーーなんだ? 騒ぐなら使わせない、ぞ……」

閉めたドアを背に肩で息をするミユキを見て久世は言葉を掻き消した。尋常じゃない状態に映ったのか「ど、どうした……?」と恐る恐る訊いてくる。

「ふ、不審者でも入り込んでたか?」

「……不審者……」

入り込んだというより、そもそもが内部の人間、だ。

ばんっとドアを廊下から叩く音がしてあわてて振り返った。奥にあるミユキが使っていた編集室とは用途が違うのでここは明るく電気がついている。廊下に面した壁は大きなはめ殺しの窓があって、廊下からでも手前の編集室を誰が使っているかわかるようになっていた。

外にいるのはーーー鉢峰と、湯川。位置からしてドアを叩いたのは鉢峰だった。そのことに酷く驚いている自分がいる。

分厚い鉄のドアの向こう、ほとんど聞き取れなかったが鉢峰が何か言って湯川も言い返す。さらに鉢峰が言葉を重ね、話にならないとばかりに湯川がうざったげに首を横に振りーーー

ガラス越しに、眼が合った。

に、と微笑まれる。ーーーまるで会話の通じない当たり前のような笑顔で。

ーーーぞくり、と。

ふっと踵を返し、湯川が立ち去る。ドアの向こうとこちら側と、たっぷりとした沈黙を味わって、こんこん、と小さくノックされる。伺うように久世が視線を投げたのでうなずき鍵を解除した。

「鉢峰」

「あー、見てたからわかると思うけどとりあえず追い返したから」

「あ、うん、見てた……」

「……おっかねえどころじゃねえよあれ、話通じてないぞ……こええよ……」

角度的に見えない位置にいたのか、続いて入って来た日代。怯えるように鍵をかけたが、普段監督と技術コースなら出入り自由なはずのそこに鍵をかけても久世は何も言わなかった。引き攣りかけてそれを押さえ込んだような顔で、ミユキたちを見る。

「……なんだ? 惚れた腫れたの問題なのか?」

まあある意味はそうかもしれないと、頭が痛くなった。


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