第22話 決裂
「顔を上げてくれ、彩花」
葉山の顔を見るのが怖い。
怒らせてしまったはずだ、どんな表情をしているのだろう。
意を決して見上げてみる。
すると私の予想と反して彼は穏やかな顔をしている。
「あの時の妻も同じこと言っていたよ。たぶんかなり怒っていたはずだ」
「じゃあ何で……」
「でも自分で決めたものは最後まで貫く。それはお前も同じだろう?」
彩花は正直戸惑った。
何を言いたいのか分からないが、現に葉山が飛び降りた数だけ過去を繰り返してるのは事実だ。
それでも彼がここまで死にこだわる理由が分からない。
美由紀の気持ちすら無下にするほどの情熱はどこから湧いてくるのだろうか。
いや、私と考え方が同じなのだとしたら――
「葉山さん、あなたは天国へ行きたいんですね」
口にしたら思い付きが確信へ変わった。
真面目で合理的なこの男が死にたがる理由はそれしか考えられなかった。
「そうだ」
答えを聞いたら、怒りが沸々と湧いてくる。
これは美由紀さんの想いを踏み躙ったことに対してなのか。
単純に命を無駄にする葉山に対してなのかは分からない。
それでもこんな奴のために私は何千回も時を繰り返していたと思うと反吐の出る思いを覚えた。
「そんなふざけた理由で私を巻き込んだんですね」
「お前が時を繰り返すことができたのは予想外だった」
「あろうがなかろうが関係ない!美由紀さんの気持ちを踏み躙ることに私を巻き込んだことに怒ってるの!!」
あらん限りに声を荒げると店内に私の怒号が響き渡る。
再び店内の視線が私に集まるがそんなことはもう気にすることはない。
いまは目の前の男の馬鹿げた思想を許さない気持ちが混ざっていた。
「提案がある」
「提案?」
ふざけるな、もう一度怒鳴りたい気持ちになるが、歯を食いしばることでなんとか抑える。
ギリギリと骨を伝って軋んでいるのが分かる。
これ以上、こいつを見ていると本当に殺したくなる。
私は店を出るために背を向ける。
「俺を殺せ」
背後から葉山が訴える。
「頑固者2人が正反対な主張をするときは痛み分けしかない」
私は足を止める。
自殺幇助をさせるということ、解釈によっては殺人の強要に等しいだろう。
罪を犯した者は天国に辿り着けない。
私はプライドを諦め、彼は天国を諦めることで手を打とうということか。
「私はあんたみたいな奴でも絶対に殺さないし見捨てない。生きたくなくたって何回でも邪魔するよ、永遠に」
振り向かないまま出口へと向かう。
こちらに注目していた客も私が近付くと順番に目を逸らす。
伝票には手を付けなかった。
会計は一銭も払うつもりもなかったし、葉山が勝手に払ってくれるだろう。
カップの置く音が微かに聞こえた気がした。




