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恋物語  作者: ゆうこ
おまけ
77/77

木田祐真のひとりごと

連載を開始して、本当に沢山の方に読んでもらえて、感謝しています。



「おう、久しぶりだな。」


後ろからポンポンと頭を叩くと、あいつは文字通り飛び上がった。


「ギャッ!?」


と乙女らしくない悲鳴を上げて振り返ったあいつは、目をまん丸にした。


「ききき木田先輩!?」

「おう。」

「あれ?木田先輩。どうしたんですか?」

「おっ。真田も一緒か。一年間よろしくな。」


ふと気がつくと、あいつは真田の背中に隠れていた。

相変わらず素早い事だ。


「一年間と言うと・・・。」


真田が眉間にしわを寄せた。


「おう。もう一回、3年生やりなおすから。」

「!!!!」


真田の後ろであいつが盛大に体をびくつかせた。


「と言う訳で、よろしくな。雅。」

「!!!?」


ぶるぶる震える雅を見ていたら、出会った頃の事を思い出した。

雅に初めて会ったのは、去年の交流会だった。

受付に座っている、特に目立つところもない女子生徒から奴の匂いがして驚いた。

奴、貴島晴可とは一年前から口もきかない仲だった。

なんでこんな女に?

最初に頭に浮かんだのは素朴な疑問だった。

華やかな容姿に華やかなバックグラウンド。

そんな学園のアイドルに不釣り合いな容姿の女。

愛想笑いの一つもない仏頂面。

晴可に釣り合った女なら興味も持たなかっただろう。

だが、残念ながら雅は俺の興味を引いた。


晴可のガードは万全だった。

常時、誰かが雅に張り付いていた。

雅さえ大人しく守られていたら、俺が接触するのは難しかっただろう。

だが、雅はガードを掻い潜り、俺の前に一人で現れた。

誰もいない裏庭で、一人満足そうにパンを頬張る雅。

なんでこいつこんなに無防備なんだ?

見ていたら無性にイライラしてきて木のてっぺんに掻っ攫っていた。

そこで交された会話に俺は愕然とした。

あるものをあるがまま受け入れるおおらかさ。

その垣根のない思考。

晴可が入れ込む理由がはっきりと分かった。

と同時に晴可のものだという事実に強烈な嫉妬を感じる。

美月。

自分を裏切った女の顔が頭を掠めた。

気がついた時には、俺は雅の背に回した腕をほどいていた。

どこか不思議そうな顔をした雅が落ちていく。

飛び込んでくる晴可の気配。

あぁ、間に合いやがったか。

俺は心のどこかで酷く安心していた。

その後、晴可に殺されかけたのは苦い思い出だ。


それから俺は美月を探し、真実を知った。


元日の朝、家族水入らずで過ごすという美月から離れ、久しぶりに帰った寮で血の匂いが鼻をついた。

その匂いを辿り、食堂に入った俺は愕然とした。

キッチンの中には右手に包丁を持ったまま、左手の指から血を流す雅がいた。

そのまま放っておけば、死に魅入られてしまいそうで俺は雅の元に急いだ。

左手に流れる血を舐めてしまったのは、本能としか言いようがない。

甘い。

口の中に広がる芳香に思わず蕩然となる。

慌てて指を取り戻す雅の頬が真っ赤に染まった。


「?」


血の匂いで分からなかったが、晴可の匂いが薄い?

これでもか、というくらい付けられていた晴可の匂いが雅からほとんどしない。

よくよく見れば雅は一回り小さくなったようだ。

顔色もよくないし、確実に痩せている。

なんかあったな。

さっきの様子と合わせて、二人の間になにかトラブルがあったのだと確信した。

その途端、むらむらと怒りがこみ上げる。

あいつ、俺の事、殺しかけたくせに、簡単に放りだしやがって。

その行為が俺の前から姿を消した美月のそれに重なる。

ようし。

思い知らせてやる。

俺は雅を連れ出す事にした。


学園を出て、行先を考える。

そういや美月が雅に会いたがっていたな、と思いつき病院に行った。

それから昼飯を食い、しばらく時間を潰したが、晴可の気配はない。

くそっ。俺だから安心してやがるのか。

それならばと、寮に戻り嫌がる雅の手を引いて自室へ連れ込む。

雅を放っておく晴可にも、

何の警戒心も持っていない雅にも、

俺のイライラは最高潮に達していた。

ふざけるな。

俺はいい人なんかじゃねえ。

雅をベッドに放り投げる。

起き上がろうとする雅の体の上に素早く跨る。

その時、ようやく雅の顔に恐怖が浮かんだ。

震える声。

気丈に俺を睨みつける涙で潤んだ目。

劣情を誘うのに充分だった。

その前に血を舐めたのもいけなかった。

俺の中に雅の芳香が甦る。

じりじりと後退する雅を追い詰め、俺は雅にくちづけた。

ついついやりすぎてしまったのは反省している。

殺気立った晴可の気配に気がついた時には、雅は腕の中でぐったりしていた。


だから仕方ないんだけどなあ。

真田の後ろで震えている雅を見ると愉快で仕方ないのはどういう事だろう。

美月を喪った胸の空虚を何かが埋めていく感覚。

これは、晴可のものだ。

だが晴可はここにはいない。

仕方ねえ。

ここは晴可の代わりに守ってやるか。

俺は素早く雅の後ろに回り込んで、その耳元にくちびるを寄せた。


「って訳だから、先輩はなしな。雅?」

「ひゃっ!?」


真っ赤になって涙目で耳を押さえる雅に笑いがこみ上げる。

この一年、楽しくなりそうだ。



~おしまい~


木田先輩。

意外に作者のお気に入りでした。

また小説の神様が降りてきてくれたら、書きたいと思います。

こんな話、読んでみたいなど、感想&ヒントをいただけると嬉しいです。

長い間お付き合いいただいてありがとうございました。


                       ゆうこ


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