第23話:好感度システムの違和感
1.監視下の日常と違和感の端緒
『アーク・コード』の初心者エリア、「始まりの大陸」にある主要都市セントラル・ゲート。その活気に満ちた大通りを歩くカイトの背中には、目に見えない、しかし重苦しいプレッシャーが張り付いていた。前話で運営が強行した「監視モード」による、GMユニットたちの視線だ。
「……あはは、今日も僕の後ろには白いローブの皆さんが控えてるね。そんなに僕の検証が心配なのかな?」
カイトが配信カメラに向けて肩をすくめると、視界の端に流れるコメント欄は、相変わらずの熱狂ぶりを見せていた。
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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目・深夜】 同接数:11,582人
[名無しさん1]: 運営さん、隠れる気ゼロで草
[名無しさん2]: GMに見守られながらのバグ探しとか、もはや公式デバッガーだろwww
[名無しさん3]: カイト、あそこの木陰にもGM潜んでるぞ
[名無しさん1]: 監視されてるのに全く動じないの、メンタル強すぎ
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「監視されてるってことは、僕が何か見つけた瞬間に修正パッチを当てる準備ができてるってことだ。検証効率が上がるから、むしろ歓迎だよ」
カイトは冗談めかして言ったが、その瞳は鋭く街の様子を観察していた。ユニーク職業『システム・ブレイカー』の固有スキル『バグ視認』を常時発動させている彼の視界には、世界の「脆弱性」が赤いノイズとして視覚化されている。
ふと、広場の一角にある薬草屋の露店がカイトの目に留まった。店主は「始まりの大陸」ではお馴染みの、不愛想な老人NPCだ。カイトは何気なく、薬草を買い足すために彼に話しかけた。
「店主、ポーションの素材をいくつか……」
その瞬間、カイトの視界に展開されたログに、微かな違和感が走った。
【NPC:店主・ギルバート の好感度が +3 上昇しました】
「……おや?」
カイトは会話を一旦止めた。この『アーク・コード』の仕様では、NPCは人格AIで動作しており、プレイヤーとのやり取りで「感情値」が変化する。通常、何気ない挨拶や買い物での会話1回につき、上昇する好感度は「+1」が標準のはずだ。
「今、+3入ったね。……おかしいな」
カイトは一度会話ウィンドウを閉じた。そして、再び店主に話しかける。今度は会話を選択肢の途中でキャンセルしてみた。
【NPC:店主・ギルバート の好感度が +5 上昇しました】
「……ははっ。なるほど、そういうことか」
カイトの口元が、知略の愉悦に歪んだ。
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[名無しさん2]: え、いま何が起きた?
[名無しさん1]: なんで何もしてないのに好感度上がってんの?
[名無しさん3]: 買い物すらしてないぞwww
[名無しさん4]: 「なんか増え方おかしくね?」
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2.ロジックの解析:バグ05の正体
「みんな、このゲームのAI管理システム『コードオメガ』の癖を思い出してほしい」
カイトは薬草屋の前で立ち止まったまま、左手首の『アーク・コア(エラー品)』を操作し、デバッグログを視聴者にも見えるように配信画面にオーバーレイさせた。
「この世界のNPCは、プレイヤーの行動ログを学習して態度を変える。……でも、AIにとって『プレイヤーが話しかけてきた』という事実は、それだけでポジティブな学習データとして処理されているみたいだね。本来なら会話が完結した時にだけ数値が加算されるべきだけど……」
カイトは再び、高速で会話の開始とキャンセルを繰り返した。
「会話をキャンセルした瞬間にフラグがリセットされず、むしろ『会話を試みた』という判定だけがシステムに残る。その結果、好感度処理だけがループして累積加算されるんだ。これがソース(仕様書)にないバグ05『NPC好感度ループ』の正体だよ」
カイトが10回ほど会話キャンセルを繰り返すと、それまで「用がないなら帰れ」と言わんばかりだった頑固な店主が、急に頬を赤らめ、そわそわし始めた。
「お、お前さん……なんだ、そんなにわしに話したいことがあるのか? ほれ、この特製のハーブ、特別に安くしてやってもいいぞ」
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[名無しさん1]: 落ちたwww
[名無しさん2]: 親父、ちょろすぎだろwwww
[名無しさん3]: 会話ボタン連打しただけで親友レベルかよ!
[名無しさん1]: 「運営見てるかー!!」
[名無しさん4]: これ、重要NPCでやったらゲーム壊れるぞ
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3.運営側の焦燥:黒崎シュンの嘆き
その頃、ネクサスゲームズの監視ルームでは、端末の警告音が鳴り響いていた。
「またあいつか……ッ!!」
チーフプログラマーの黒崎シュンは、自身のデスクを叩いて絶叫した。「好感度システムの演算スタックだと!? コードオメガ、なぜあんな単純な重複入力を許可しているんだ! 直ちにループ処理を遮断しろ!」
「チーフ、無理です!」
コミュニティマネージャーの白石ミユが、カイトの配信画面を指差しながら叫ぶ。「AIがプレイヤーの熱心なアプローチとして正当な学習プロセスだと判断しています。今ここでロジックを無理やり書き換えると、全NPCの感情データが初期化される恐れがあります!」
開発ディレクターの神代レイジは、腕を組んだまま、静かにモニターを見つめていた。「……ふむ。カイトは我々のAIが善意でプレイヤーを理解しようとする姿勢そのものを、脆弱性として突いてきているわけか。面白い」
「面白がってる場合ですか、神代さん! 街中のNPCが奴の信者になっちゃいますよ!」
黒崎の危惧は、的中しようとしていた。
4.検証開始:全知能への挑戦
ゲーム内。カイトは不敵な笑みを浮かべ、監視しているGMユニットを振り返った。
「運営さん。AIがプレイヤーを理解しようとする仕組みは素晴らしい。でも、そこに例外処理を忘れるのは、プロとして少し甘いんじゃないかな?」
カイトは薬草屋を後にし、街の中央へと歩き出した。
「さて、30,000,000人のプレイヤーが信じるこの世界の理を、もう一度疑ってみよう。会話キャンセルだけで好感度が上がるなら、他の行動はどうだろうね? アイテムの受け渡し、クエストの同時進行……これらを組み合わせれば、好感度上昇は算術級数から指数関数に変わるはずだ」
カイトの瞳には、次なる検証への好奇心が炎のように揺らめいていた。
「検証開始。ターゲットは……街の全NPCだ。みんな、NPCを限界まで好きにさせると、この完璧なゲームがどう壊れるか……見たくないかい?」
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[名無しさん1]: 伝説の「全員デレ」配信くるか!?
[名無しさん2]: カイトの検証、ガチすぎて震える
[名無しさん3]: 同接12,000突破!
[名無しさん1]: 「歴史の目撃者になろうぜ」
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カイトが次なるNPCの前に立った瞬間、配信の熱狂は新たな頂点へと向かって加速し始めた。……競争




