第21話:GMからのメッセージ
1.「空白」への進軍
同時接続者数、10,000人。
『北限の霊峰』の頂から、重力を無視した空中歩行で雲海を突き抜けるカイトの姿は、いまや『アーク・コード』全プレイヤーの注目の的となっていた。彼の視界には、ユニーク職業『システム・ブレイカー』の固有スキル『バグ視認』によって、世界の「継ぎ目」が鮮明な赤いノイズとして映し出されている。
「さて、10,000人の共犯者のみんな。いま僕が向かっているのは、公式マップでは完全に空白とされている座標……つまり、AI『コードオメガ』がまだ風景を生成しきれていない、未実装領域の入り口だ」
カイトが空中に透明な足場を生成しながら進むたびに、周囲の空間が読み込みエラーを起こし、テクスチャが引き裂かれたような極彩色のノイズが走る。空の色は紫からドブネズミ色へと変色し、遠くの山々はポリゴンの角が剥き出しになったまま静止していた。
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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目・深夜】 同接数:10,245人
[名無しさん1]: 景色がヤバイことになってるwww
[名無しさん2]: 完全に「世界の果て」じゃん。
[名無しさん3]: 運営、これ放置してて大丈夫なのか?
[名無しさん1]: 同接1万超え……。これもう一つの「事件」だろ。
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2.鳴り響く「システム警告」
その時だった。
カイトの視界中央に、これまで見てきた赤い警告ウィンドウとは明らかに質の異なる、重厚な紫色のウィンドウが割り込むように展開された。
【緊急通知:システム管理権限(Level 05)による直接介入】
【送信元:アーク・コード運営局(GMユニット)】
『プレイヤーID:カイト。あなたの現在の行動は、サーバーに多大な負荷を与え、物理演算プロセスの想定外の挙動を引き起こしています。ただちに移動を停止し、正常なエリアへ帰還してください』
一瞬、配信画面が静まり返った。それは、単なるAIによる自動警告ではない。運営会社のネクサスゲームズが、直接カイトに対して「メッセージ」を送ってきたことを意味していた。画面の端では、運営の介入を示す特殊なシステムログが高速で流れ、サーバー全体がこの異常事態に身を縒り合わせているのが分かった。
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[名無しさん2]: !?!?!?
[名無しさん1]: GMメッセージきたああああああああ!!
[名無しさん3]: 「想定外の挙動」www 運営がガチで困ってるぞ。
[名無しさん4]: カイト、これマジでBANされる前触れじゃね?
[名無しさん2]: 完全に運営と戦ってるなこの実況者……。
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3.検証者の「笑顔」
普通なら、ここで顔を青くしてログアウトするのが一般的なプレイヤーの反応だろう。だが、カイトは違った。彼はそのGM専用メッセージの枠組みを、まるで興味深い標本でも見るかのようにじっくりと観察し、ふっと口角を上げた。
「……想定外の挙動、か。いい響きだね」
カイトは配信カメラの向こう側で自分を凝視しているであろう神代レイジや黒崎シュンたちに向けて、静かに、しかし挑発的に言い放った。
「ネクサスゲームズの皆さん。わざわざメッセージありがとう。……でも、一つだけ確認させてほしい。……僕の行動で想定外の挙動が起きているということは……」
彼は一呼吸置き、楽しげに笑った。
「つまり……そこには、まだ僕の知らないバグがあるってことですよね?」
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[名無しさん1]: wwwwwwwwww
[名無しさん2]: その返しは予想外すぎるだろ!!
[名無しさん3]: 「つまり…まだバグあるってことですよね?」
[名無しさん4]: 煽りスキルMAXすぎて草。運営、発狂してそうwww
[名無しさん1]: 検証を止めるどころか、ヒントにしてやがる!
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4.配信続行
「よし。運営さんが危ないと言うからには、この先に最高に面白い仕様の穴があるのは確定だ。……検証、続行しようか」
カイトはGMからのメッセージウィンドウを視界の端に無造作に追いやり、加速スキルを重ねがけした。彼の背後では、追いかけてくるGMユニットの監視の目――不可視のプロトコルが激しくノイズを撒き散らしていたが、カイトはそれを無視して、色彩の崩壊した未実装領域へと真っ逆さまに飛び込んでいった。
運営と配信者。
『アーク・コード』という名の盤上を巡る、知略と屁理屈の戦いは、いまや誰にも止められない領域へと突入していた。




