第五十一話 神皮機関
「魔王様。人間界にある組織、神皮機関から手紙が来たのですが」
「あの怪しい組織の」
「『高濃度の魔力を放出した人物とお会いしたい』とのことです。それからこれがその手紙です」
手紙を受け取り読む。
「俺のことか」
「かと思います」
「うーん、会いたいというだけで目的がはっきりしないな」
「手紙にはこちらから出向いても問題はないと書いてあったので友好的に物事を進めようとしているところは見受けました」
「そうだな、一度会ってみるか。念の為こちらへ来てもらおう」
「かしこまりました。ではそのように手配します」
やれやれ、何やら面倒なことになりそうだな。
2週間後。ハリル邸に神皮機関代表者が訪れる。到着日はゆっくりさせて次の日に会議をすることになった。
「お気遣いありがとうございました。ここの温泉は素晴らしいですね。食べ物も美味しい」
「はっはっは、楽しんで頂けたのなら幸いです」
ハリルがこちらに話を振る。
「こちらが、強力な魔力を持っている方です」
「コルデル・ダッシュだ。よろしく」
事前にハリルと打ち合わせて適当な名前を決めておいた。
「クラス・リヤドです。この度は私どもの誘いに応じていただきありがとうございました」
「まずはそちらの神皮機関について聞きたいんだが、どのような活動をしているのかな?」
「はい、主な活動は強すぎる者を管理、監視、封印することが目的の組織です」
「ほほぉ、そんなことをしていたのか。とするともしやあなた方も強大な力を?」
「はい。少々アナタには及びませんが」
「人間族にそんな強力な者がいたとは」
「人間族の中で極々稀に脱皮を行う者がおり、脱皮後は強大な力を所持します。現在神皮機関に所属している人間は全て脱皮を行った者ですね」
「それで率直なお願いなのですが、コルデル様には我々の機関に属していただきたいのです」
「それを断ったら?」
「……申し訳ありませんが我々の最大戦力で叩き、最悪死んで頂くことになります」
「ふぅむ、死とはまた穏やかではないな」
「強大な力を持つ者から世界を守ろうということが目的です。例えば我々と一般市民ではお話にならないレベルの差がありますからね」
「ですから貴方には機関に属していただいてその人生を穏やかに過ごしていただきたい」
「暴れるのを防ぎたいというわけだ」
「我々レベルでは簡単に世界を滅ぼせますからね」
ん~、活動は立派なことなんだが、正直動きを規制されるのは辛いな。とは言ったものの、暴れてるのは良いことではない。コイツは難しい問題だな。
「神皮機関初代の長は強大な力を持っており、その力を使って人間界だけでなく3界の支配、征服を目論んでいました。ところが、世界に大災害が起こります。隕石が降ってきてこの世界はもう駄目だと思った時、隕石を破壊し世界を救った方がいらっしゃいました。その力を見て己の小ささ、己の弱さを知り、その後は今の活動を行うことになったとのことです」
そうだよな、力に溺れることは誰にでもある。
いや、そうじゃなくて隕石?
(魔王様、もしや)
ハリルが小声で俺に話しかけてきた。
「その隕石を破壊したのって1800年前?」
「そうです、歴史にお詳しいんですね」
「いやあ、まあ」
(俺だな)
(やはり)
閃いた。多少強引に行けば自由を手に入れることができるかも。
(ここだけの話、隕石退けたのは俺だ)
(は?)
(あれからまだ生きてたのさ)
適当な嘘を付く。
(ううーん)
いぶかしそうな目つきでこちらを見る男。
(そういえば歴史書には魔王様が隕石を破壊したとは書かれていませんね)
(ここがややこしくてな、皆には内緒にして破壊しにいったんだよ。だが部下の一部がこっそりと俺の後をつけてきたようなんだ。ついていったことがバレちゃうから書かなかったんだろう。後怖がられてたし)
(なるほど)
ここまでは予定通り。軽く咳払いをし再びクラスに小声で話しかけた。
(後でその力を見せようじゃないか)
(そうですか、そこまでおっしゃるのなら確認させていただきます)
後日、力を開放、彼を納得させた。
「どうだい? 信じてくれたかい」
「は、はい。それはもう」
「それでどうだろう? 隕石ぶっ壊したってことで自由をもらえないかな?」
「もちろんです! 世界を救った英雄を拘束するなんて我々には出来ません! あ、それからサイン下さい」
「あ、ハイ」
彼ら神皮機関は隕石を破壊した者をそれこそ神のように崇めていたため、本人登場で興奮、現在俺の前に人だかりができ、機関の人達にサインを書いているところだ。
(まあまあ、良かったじゃないですか。争いになった場合大変なことになりますから)
(そうだな。よしとするか)
なんだかんだで自由にはなったからな。
サインを書き上げ、熱狂的な彼らに見送られながら俺達は魔界へ帰った。




