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第二十三話 秘密の特訓

「う~暑くなってきたわね。フロイアは平気なの?」


「まだまだ涼しいくらいだね。僕が住んでいたところはこんなもんじゃなかったよ」


「聞いてはいたけそこまで暑いのかぁ、うへぇ」


「あ~はやくプールが開放にならないかしら」


「はい、授業始めますよ」


 一日の授業が終了、帰路につく。

 プール、水泳か。困った、ああ困った。イリスの言葉を思い出して悩んでいたところを声をかけられた。


「どしたのレイ?」


 う~ん、恥ずかしいけど協力を要請しようかな。


(実はね)


 イリスに小声で話す。


(えぇ~、ホントに~? その運動神経で)


(いつの日かと考えていたんだけどここまで来ちゃってね)


(いいわ、私が教えてあげる)


(助かるよ)


(明日水着を買って次の日休みだからそこから練習しましょ)


(秘密ってことで頼む)


 次の日、学園にて。


「ふっふっふ、まさかレイがね~」


(イリス、秘密で頼むよ)


「むふ~」


(ねえメリア。イリスの様子なんか変じゃない?)


(ん~、二人で秘密を共有して舞い上がってるってところかな。今のイリスは気になる子にイジワルしている初等部の子みたいになってるけど)


(そうよね。秘密を握ったからといってそれを使ってあんなことやこんなことをする訳にはいかないわよね)


(イリスはそゆことしないんじゃない? ルーナ)


(あぁ、ゴメン忘れて)


(?)


 帰りに服屋で水着を買う。


「男性物は向こうね、それじゃまた後で」


 店員さんに聞いてできるだけ無難なところを探す。ここへ来て2ヶ月、ファッションは正直まだわからない。店の前にあるベンチに腰掛けイリスを待った。


「おまたせ~、ゴメーン時間かかっちゃった」


「いいよ、良いものみつかったかい」


「ふふふ、明日のお楽しみよ」


 次の日は朝早くに起き出発。


「いってきまーす」


「いってらっしゃい」


 眠気眼のカレンに手を振って家を後にする。


「練習するならちょうどいいところがあるのよ。川だけどね」


 俺の田舎は近くに川がなかったな。


「ひとけの無いところだから秘密の練習ができるわよ」


 それはありがたい。カッコつけってわけじゃないけど恥ずかしいのは確かだからね。


「とうちゃーく。人っ子一人いないでしょ」


「少々山に入るからね。一般の魔族の人は入ってこないかも。それじゃ着替えよう」


 木に隠れて着替えを済ませた。川のせせらぎを聞きながらイリスを待った。


「お、おまたせ~。どうかしら?」


 ほとんど紐で大事な部分をちょっとだけ隠した水着でイリスが姿を現した。


「イ、イリス。流石にそれは刺激が強いというか……」


「そ、そっかー! 刺激が強すぎたかな。は、はっはー、冗談よ。もっかい着替えてくるから!」


(店員さん、私には無理だったわ。「二人っきりで泳ぐ? ソレなら断然これね。え? これじゃすぐ脱げちゃう? 脱げちゃったならしょうがないでしょ! 見せつけちゃいなさい! その後はどうするって!? GO!」)


 ブツブツ独り言をつぶやきながら木の陰に隠れるイリス。


「今度こそおまたせー」


「はっはっは、さっきは驚いた。その水着似合ってるよ」


「ありがとう」


 この水着でも十分刺激的だが先程と比べれば問題ない。ハッ、まさかここまで計算して!?


(ハァー、ヘタレたわ~)


「さ、川に入りましょ」


 二人で川に入る。水位が腰丈くらいあるところで向き合った。


「ちょっと冷たいけどすぐ慣れると思うわ。じゃ練習始めましょ」


「まずは水に慣れることからね。息を止めて目を開けて川に顔をつけてみよう」


 言われたとおりにする。おぉ、全然大丈夫だ。


「大丈夫ね、次は私の手を握りながら同じように顔を川につけて足を地面から離す。その後川の流れに身を任せて苦しくなる前に元の体勢に戻す、いい、ここ大事だからね『苦しくなる前』」


 これまた言う通り実行する。おー! 体が浮いている!


「次は息継ぎね」


 少々苦戦したが遂には息継ぎが出来るようになった。これもう泳いでるんじゃないかな!


「よーし、お昼にしましょう」


 ちょうどいい場所を見つけお弁当を開く。中にはカレンお手製サンドイッチ。


「それにしても教えるのうまいね。先生とかに向いているのかな」


「私も昔泳げなかったのよ。お父さんに教えてもらって、それから泳げるように」


「なるほど、同じような境遇だったか」


「ほとんどお父さんからの受け売りね」


 少々気まずそうに俺に微笑むイリス。

 サンドイッチをたいらげ一服の後、再び泳ぎの練習。


「あとはこれの繰り返しね」


「明日も来る? それならもう泳げるようになるかも」


「頼めるかい?」


「まかせなさい!」


 ある程度練習したら、今日は帰宅した。そしてまた次の日同じ場所で練習。昨日のおさらいをして次は泳ぎの練習。イリスに引っ張ってもらいながら足をバタつかせ息継ぎ。

 遂には、不格好だがイリスが手を離しても泳げるようになった。


「もう大丈夫ね、よーし残りの時間遊ぶぞ!」


 イリスがものすごい勢いで泳ぎ始めた。まるで魚だ。

 それからしばらくして帰宅の時間。


「あー、楽しかった。そろそろ帰りましょ」


「そうしよう。今日はありがとう」


「あーっはっは、良いってことよ!」


 イリスが獲った魚をお土産に家へと帰る。

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