第十九話 運が良い日
今日はクラス全員、王宮に呼ばれた。
「魔法特選科の諸君、よく来てくれた。今日は他でもない、君たちにお願いがあってね」
主に外交の仕事をしている外交官の方だ。
「もう知っている者もいるかも知れないが先日獣人族王女の短期留学が決まり、その留学先に君たちの学園が選ばれた。そしてクラスはそう、君たち魔法特選科のクラスだ」
ほぉ、これは凄いことだな。これまで魔族と獣人族は仲が良いとは言えなかったはず。メナトが王になるまではたまに戦争もしていた。
ここへきて学生の交流、しかも王女様とは。
「それから獣人族の方なので当然魔力は所持しておらず扱えない。知らずとも知識を得るための勉強ということで皆と一緒に学んでもらう」
獣人族は魔力を持っていない。そのかわり、『破力』と呼ばれる力を有しており主に身体能力向上に使われる。
「それからこれも当然、ルーナ様と同じように学園にいる間は身分の上下は無しとする。皆気軽に話しかけるといい」
「私からは以上だ。あまり肩肘をはらず自然体で頼む。それではメナト王、よろしくおねがいします」
メナト王の話が終わり、今日は解散となった。
9時か、まだまだ早い時間だな。
「イリス、宿屋でオヤツでも食べよう」
「賛成!」
最近ハマっている食べ物がある。揚げ物料理鶏のから揚げ、他の店とは明らかに違う、とにかくうまい。週5で通っている。
「子供の頃毎日ここで食べたよ。あ、カレンと来たんだったね」
「ああ、それ以来常連だ」
「ここおいしいからね」
行列とまではいかないが、すでに並び始めている。俺達は最後尾につけた。
「鶏のから揚げセットもいかがですか!」
お客さんにバンバン買ってもらうための言葉だろう、商魂たくましい。
「あ、少々お待ちください!」
新人の店員さんか。わからないことをさっと先輩に聞きに行ったりしているようだ。そうこうしている間に俺達は席につく。新人の店員さんが俺達の所へ注文を取りに来た。
「鶏のから揚げセット2つください」
「はい! それと鶏のから揚げセットもいかがですか!」
「え?」
「鶏のから揚げセットははいかがですか!」
しばらくして鶏のから揚げセットが3つテーブルに並ぶ。
「ん~、オリハルコンの剣が欲しいんだけど売ってないのよねぇ」
「希少金属の中でも更に希少だったね」
「そそ、そもそも流通してないの。前は高くて買えなかったんだけど、あの時無理してでも買えばよかったな」
オリハルコンか。あっ、ちょっと前にブックと一緒に鍛錬した時、岩山壊してそこにキレイな金属の塊、オリハルコンの塊があったような。
イリスには世話になってるし、何かしらプレゼントでもと考えていたんだよね、ちょうどいいかも。
数日後、ブックと一緒に破壊した岩山へ向かう。
「おー、まだ残ってたか。よかったよかった」
この辺りは魔族があまり侵入しない山奥。だから残っていたんだな。
『魔獣達は金属なんざ興味ねえからな』
「ははっ、それもそうだ」
剣一個分、いや二個分にしておこう、余裕を持って採掘。ちょっと無理があるけど、依頼中山で偶然見つけたことにしておこう。
早速ギルドで山関連の依頼を受け攻略、またギルドへ。
「こんなもの見つけたんだけど、オリハルコンだよね」
「へぇ、凄く運がいいわね。滅多に見つからないんだけど」
こうしてたまたまみつけたと周りにもアピール、ある意味ここが重要だ。ふふ、策士だな。
「ってレイ君、それレッドオリハルコンじゃない!」
「ん、レッドオリハルコン?」
薄っすら赤く光っているな、今気づいたが。冒険者達が俺と受付の話を聞いてざわめき始めた。
「とにかく! とんでもなく希少なものだから取扱に気をつけてね!」
皆からの視線が痛い。これは辛い、一旦家に帰ろう。レッドオリハルコンを隠すように抱え込みギルドから出た。
夕飯の時間、ボーマンから俺に話を振ってきた。
「おう、レイ。レッドオリハルコンを手に入れたんだって? ついてたな!」
「いや~、普通のオリハルコンだと思ってたんですけどね、イリスの武器に丁度いいかなって」
「そうだな、ここは俺も金を出すからイリスの武器にしちまおう」
「やったー! レア武器ゲット!」
「残りはこの家に収めようかと」
「いやいらん。そいつはお前が好きなように使え」
「そうですか。それならしばらくそのままにしておこうかな」
「良いアイデアだ。特段欲しいものがなければそれがいい。後で武器、防具、金に出来るしな」
少し目立って恥ずかしかったが、良い拾い物をしたようだな。そうだ、後で採掘した山に行ってむき出しで放置してあるレッドオリハルコンを隠しておこうかな。隠し財産的な使い方ができる。
うーん、誰かに見つかってないか心配になってきた。
「ありがとうレイ」
「喜んでもらえてなにより」
イリスには色々世話してもらったからな。これくらい安いものだ。
その夜、気が気ではなく皆が寝静まったのを確認し、急いでレッドオリハルコンのもとへ駆けつけたのは言うまでもないことであった。




