第十八話 魔王の怒り
「おはようカレン、あー体調悪いわ」
「お姉ちゃんも? わたしも調子悪くて」
「朝から寒気がして体が震えるんだよね」
二人の声が聞こえた。二人共病気かな? あ、俺が原因か。いかんいかん忘れてた。
居間に誰も居なくなったのを確認して、書き置きをテーブルに置き家から去った。
「あら、何かしらこれ?」
『3日ほど用事で出かけます。 レイ』
一年に一日ほど、魔力のコントロールが完璧に行えない期間がある。ルーナとほぼ同じ症状かな? 魔王時代からこの問題があった。原因を探るべく色々調べたけど結局わからなかった。
対処としては、人里から離れるしかない。
街からはレイとして出て、人の気配がなくなったところで魔王ファッションにチェンジ、猛スピードで移動を開始した。
目的地に到着、魔族領から離れた地域の砂漠。魔王時代に見つけた生命がほとんどいない場所だ。
『おっ、やっぱ来てたか。大将~』
小さな物体が砂煙を上げながらこちらに向かってくる、ブックか。
『毎年ここへ来てたもんな。しっかし相変わらず禍々しい魔力が出てるぜ? 俺も最初の頃は失神しちまったな』
「ハッハッハ、今は大丈夫なんだよな。慣れなんだろうか」
『慣れたけど油断すると失神すると思うぜ』
「そうか……」
二人で毎年過ごしていたオアシスに向かう。そこそこ大きな水源があり、果物、魚も取れ3日過ごすには丁度いい場所だった。
『あの建物はなんだ?』
オアシスに簡単な砦がつくられていた。去年まではなかったはずだ。
ガラが悪く鍛えられた肉体を持つ魔族が、戦闘用の装備を身に着け門の前に居る。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
『なんか走ってきたぞ』
嫌な予感が的中、人を詰め込んで乗せた馬車が砦に向かって走っている、それも5台も。人さらい、盗賊団に間違いないだろう。
門番のチェックを受け、馬車は砦の中に入っていった。
『やれやれ、つまんねー奴らが居るようだな。どうする? たい――』
俺から急激に魔力が吹き出す。
『まって、まって! 怒るのはわかるけど落ち着いてくれ!』
「ああ、すまない」
馬車にはまだ年端もいかない子供達が多数乗っていた。それを見た時どうしても怒りがこみ上げた。
『で、どうする。大将』
「当然潰す」
砦に向かって歩きだそうとしたところをブックに止められた。
『いやいや落ち着けって言ってんだろ! そのままいったら全滅だろうが!』
ああ、そうだったな。魔力漏れしているんだから今行くのは得策ではない、か。
暴走がおさまってから行くか? いや、3日後では遅い。救助は早いほうが良いな。なんとか手を探さなくては。
「ブック、砦の様子を見てきてもらえるか」
『お安い御用だ』
しばらくして、ブックが帰ってきた。爪で地面に簡単な見取り図を書いた
『連れられてきた魔族の人達はここに集められていた。これなら救出はたやすいかも』
「わかった。決行は夜に。その間に一番近くの街の衛兵達に応援を要請しよう」
ここから一番近い街でも移動に半日はかかるだろう。現在お昼前、今から向かって応援を呼べば丁度全てが終わったくらいに到着かな。
「ブック、ここは任せたぞ」
急いで街に向かい、30分程で到着した。
「応援要請します、っと」
街の前にいた衛兵に書状を渡し、俺は戻った。
「お、おかしな魔力をもった人から、書状をいただきました。あ、俺ちょっと休憩してきます」
「さきほどから体調不良を訴える者が多かったがそいつが原因か。なになに『盗賊団のアジトを発見これを殲滅する。応援要請す 恐怖の魔王より』……これは」
街のお偉いさんに手紙が渡ってから遠征の準備をしてくれているな。よしよし、これなら来てくれるだろう。昔から俺の偽物、語るヤツがおおかったからな。このくらいまでは確認しないとね。魔力暴走のおかげで俺だと気づいてくれたのなら少々皮肉だが。
砦に戻り様子をうかがう。
『特に変わりはないな』
日が沈み、砦に明かりが灯される。決行のときだ。
「まずは人質を救出する。安全が確保できたところで盗賊たちを一網打尽にする」
『わかった』
砦への侵入は簡単だった。なんせ一番近い街でも馬車で半日はかかる距離だからな、油断している。しかもさらってきた魔族達がいる場所に見張りがいなかった。遠くで盗賊たちの声が聞こえる。酒盛りを始めちゃったんだな。
その後は簡単。砦に大穴を開け、荷車をいくつも連結しそこへさらわれた人を乗せブックに引いてもらい脱出。ここから近くのオアシスを目指す。
さて、こっちはブックに任せて俺は盗賊をやるか。
「ハッハーー! 酒がうまいぜ、良い稼ぎになったな!」
「でもよ~、気味が悪いやつだったよな。子供がたくさん欲しいとか」
「どんなやつでも、商売は商売よ。なっ親方」
「おうとも。オメーはわかってきたな」
賑やかに笑いあう盗賊たち。
「それにしてもよ、なんだか寒くねぇか? こんな時期なのに」
「俺もそう思ってたところだ、ちっと背筋が寒いな」
『そいつは俺のプレゼントだ』
「なにも、ガァー!」
酒盛りをしている場所へ入口から侵入。近くに居た盗賊が俺になにか言おうとしたが途中で失神。
周りにいる盗賊たちは武器を構える。しかし動けない。
「あ、あんたはいったい!」
『恐怖の魔王だ』
奥にいる盗賊のボスであろう男に向かってゆっくり歩く。一人、また一人と俺との距離が縮んだやつから倒れていった。
「あ、あんたも極悪人だったんだろう? 何人かやるから見逃してくれ!」
『お前達と一緒にするな』
最後に魔力を大きく開放。盗賊たちは皆もがき苦しみ意識を失い崩れ落ちた。
遠くから馬車が走る音がする。いいタイミングだ、俺はこの場を離れた。




