第十三話 大狩猟祭当日
大狩猟祭当日。結局俺は一人でこっそり参加することにした。
皆には出店があるところをウロウロしてると伝えた。
「こうしておけばもしもの場合、力を出せるからな」
いつもの仮面と服を着て大狩猟祭の魔獣を迎え撃つ場所まで移動した。
陣を敷いている先は魔族の領地ではなく自然の森が広がっている。その奥で大発生した魔獣達が飛び出してくる。どういう原理で起きているのかわからないが、毎年この時期に発生する。
隠れやすい大木を見つけ出店で買った串焼きの肉にかじりつきながら観察を始める。
「お、イリスとカレンが真剣な顔で話をしているぞ」
二人で作戦会議かな? その周りには冒険者達がかなりの数がいる。お祭りが好きそうな人が多かったから今日を楽しみにしていたに違いない。
「ボーマンさん元気だな」
冒険者を叩いて回るボーマンさんを見つけた。最近のボーマンさんのテンションはかなり高かった、よほど楽しみにしていたのだろう。
魔界各地から祭りに来た人もたくさんいる。その後ろで控えているのは王宮騎士団と魔道士達。メナト王があらわれスピーチを始めた。
「今年もいよいよこの時がやってきた。三千年続いている祭り大狩猟祭だ!」
参加者から割れんばかりの歓声が起こる。
そうなんだよな、俺が魔王時より更に前からやってるんだからホント長いことやってるんだよね。
もともと魔獣駆除のために人数を総動員していたのがいつの間にかお祭りになってたという、魔族らしいエピソードを聞いたことがある。
「奴らが来たら狩りまくれ!」
メナトの気合の入った宣言に盛り上がる会場。
さて、どうなるか。ブックの話からして雲行きが怪しい。
「グォォォォーーーーン」
森の奥から大きな獣のが発したような咆哮が響き渡る。しかも特大だ。
それを合図に森から魔獣達が飛び出してきた。
「やられんじゃねーぞお前ら!」
ボーマンが大声を張り上げ魔獣の群れに突っ込んでいく。後ろについてレヴィアとシェリルのパーティ、イリス、カレンも突っ込む。他屈強そうな冒険者達も後に続いた。
凄まじい魔獣の数だ、こんなに出てくるんだね。数が数なため後方にも魔獣が流れ込む。
「お父様、前線へ行っても良いかしら?」
「わかった、行って来い。無茶はするんじゃないぞ」
「はい!」
ルーナが魔力をほとばしらせて、一人駆け出していった。ガードもそれを追いかける。うまいこと魔族がいない所へ突っ込み、魔獣を狩り始める。いいな、皆楽しそうだ。
「クォォォォーーーーン」
先程より咆哮が大きく聞こえる。何かが接近してきているようだ。ただの狩猟祭で終わりそうにないな。
念の為ブックには何かあるまで付近で待機してくれと言ってあった。そろそろ動く頃か。
「バキッバリバリ」
前方の森でブックが巨大化した。接敵したな。
が、瞬間吹き飛ばされるブック。一山はあろう巨体が舞った。強い魔獣かもと予想はしていたが一瞬で吹き飛ばされるとは。
更に何者かが吹き飛ばされる。先程の咆哮を確認しようと森に入ったか。
あれはルーナだ。まずい、大怪我をしている。魔獣の前を高速で通り抜け、俺も飛びながらルーナをキャッチ、体を回転させ魔獣を見据えながら優しく着地。
魔獣の前に立っている魔族が居る。周りを四体の精霊が飛翔、あれはエレメンタルマスターか。
そのまま戦ってくれそうだな、ありがたい。ルーナの治療を始めてしまおう。
腕は粉々、全身打ち身だが致命傷ではないな。
「『奈落戦器』No.50『冥界の水』」
ルーナの上下に魔法陣が出現、下から水が湧き出しルーナが浮き上がる。
上から緑色の液体が注がれ水と交わりゼリー状となる。ゼリーはうねうねと動きながら彼女の体の周りに集まっていく。徐々にゼリーがルーナの体に浸透、その後赤い液体が彼女の体から流れ出す。
「こ、これは……」
ルーナが意識を取り戻した。ちょっとまずいかな? いやもう少しで治療が終わる、そのまま続けよう。
(この方が私の治療を? いえ、そんなことより)
(この武具は『奈落戦器』! ということは……)
よし終わり。うーん、恐怖の魔王であることがバレたかな? ルーナは恐怖の魔王嫌いだったよね、このまま去るか。
治療が終わり足早にここから去ろうとした。
「あなたが助けてくださったんですね、ありがとうございます。冒険者の方ですか?」
立ち去ろうとした俺の背に声を掛けるルーナ。
おや? 恐怖の魔王とわかればこちらに牙を向いてくると思ったが。そうか、奈落戦器だと気づかれなかったかな? とは言えここは慎重に、声色を変えて会話しよう。
(『奈落戦器No.25『不義の変声』)
小さな金属の塊をを口の中に入れる。これで発した声は元の俺の声とは全く違うものとなる。仮面はつけたまま振り返りまルーナに答えた。
「ええ、そうです。怪我をしている王女様を見て治療させていただきました」
「ありがとうございます。是非お礼をさせてください。今度お会いできませんか?」
「いやしかし」
「是非! 是非!」
むう、ちょっと断り辛い状態だ。そうだな、厳しい条件、俺が動きやすい条件を飲んでもらえるなら会おうかな。
「少々忙しい身でして。こちらの時間に合わせていただけるのならお会いできますがいかがですか?」
「それでかまいません」
「では来週の午後4時、ヴァーンの森の中にある休憩所でお願いできますか?」
「午後4時ですね、わかりました」
「それでは失礼します」
ヴァーンの森なら、もしもの場合すぐ逃げられる。街中だと力を使うと住人に被害が出てしまうかもしれないしね。我ながらうまく切り抜けたぞ。
お辞儀をし、俺はその場を去った。




