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AGI(回避)型主人公ですがなにか?

 スタート地点となる独房のような小部屋を出てすぐのことだ。


 石造りの城塞のような通路を埋め尽くす魔物の群と出くわした。


 風船のようにふわふわと宙を漂う半透明なクラゲバルンという魔物である。それが六匹、二列縦隊でこちらに向かって飛んできた。


 見た目はてるてる坊主のようで、タコのように丸い頭(?)とおぼしき部分に単眼のような紋様が浮かんでおり、ぶっちゃけ弱点である。


 一本道で通路も狭く引き返す他に逃げ場はない。


 俺は腰の後ろに手を回すと双短剣を逆手に抜き払った。


 背後でミミッ子が叫ぶ。


「ロジャーさん逃げないんです!? 得意のとんずら煙幕しなくって大丈夫なんですか?」


 振り向かず少女に返す。


「到着早々引き返すわけにもいかないだろ。それに煙幕は勝てない相手用の装備なんだ」


「つまりミミックリスペクト……わたしの実力を評価したが故の煙幕だったんですね!」


 なんとも嬉しそうにミミッ子は声を上げた。


「そういうことだ。危ないから俺の後ろに下がっててくれ」


 人間に擬態した状態のミミッ子の戦闘力は不明だが、彼女は戦闘要員として連れて来たのではない。


 そうこうしている間にも魔物の群が迫り来る。


 退かずにこちらから敵陣に向かって打って出る。逃げ場がないのは俺も魔物もお互い様だ。


 通路は狭くふわふわと不規則な動きで翻弄するクラゲバルンは、その回避の特技を封じられた格好なのである。


「双剣連舞陣ッ!!」


 俺は独楽のように身体を回転させながら、次々とクラゲバルンの急所である目の紋様に刃を突き立て、斬りつけ、蹴散らした。


 意識を解放し俺の短剣の間合いに入ったものを自動攻撃する技である。肉体の反射で動くこともあり、この攻撃には“思惑(おもわく)”がない。殺意や敵意を読んで攻撃をかわすサトリや読心術の使い手も殺すことができた。


 ただしその場に足を止める迎撃専用――と、使いどころが限られるため、時には危険を冒してでも相手の間合いに飛び込まなければならないのが難点だ。


 白刃が閃く度に、リズミカルにクラゲバルンがパンパンパンパンパンパンっと弾けて消える。


 が、群れの影に隠れていたもう一体飛び込んできた。六体だと見誤ってしまった。


 七匹目はどうやら気配を遮断していたらしい。本当にいやらしい魔物の編成をしてくれるな、この迷宮は。


 俺の技の出し終わりの、ほんの一瞬出来てしまった隙を突いてクラゲバルンが後背のミミッ子に体当たりを仕掛ける。


「避けろミミッ子!」


 振り返り短剣をクラゲバルンに投げ放ったが、空気の揺れを感知してクラゲバルンはふわりと俺の投擲を回避した。


 そのままミミッ子に突撃する。ミミッ子は人差し指を立てるとクラゲバルンに指先を向けて狙いを定めた。


中級火炎(ヴァーナム)魔法ッ!」


 火球が少女の指先で生まれるとクラゲバルンに放たれる。


 勢い良くつっこんできたクラゲバルンは火球と衝突して盛大に爆ぜて消えた。


「やったー! やりましたよロジャーさん! ミミッ子ちゃん大勝利ぃ!」


 Vサインで俺に笑顔を返す少女に確認する。


「お前、魔法が使えたのか?」


「ミミックにとって中級火炎(ヴァーナム)魔法は基礎ですよ?」


 俺はミミッ子に駆け寄ると正面から両肩を掴んで揺らす。


「ほ、ほ、他には!? 何ができる!?」


「待ってください興奮しすぎですってば。あぁん♥ こんなに情熱的にアプローチされたらミミッ子の蝶番がパカパカのバカになっちゃいますよぉ」


 しまった。つい冷静さを欠いてしまった。彼女の肩を解放して訊き直す。


「わ、悪かった。ええと……それで他には何ができるんですか? 当パーティーに参加ご希望ということですのでミミッ子さんにはぜひ、特技欄の項目についてお話願いたいのですが」


 おもいっきり下手したてに出てみると、ミミッ子はフフンと鼻を鳴らしてまんざらでもなさそうだ。


「えー知りたいんです? ミミッ子に興味津々になってくれたんですね。けど、女の子ってミステリアスな方が魅力的っていうじゃないですか。だから秘密にしておきたいなぁ……その方がロジャーさんが追いかけてくれる気がするし……ね?」


 ウインク&舌をペロッと出してVサインを自分の目尻にピタリと当てるミミッ子に、俺は胸元で扇ぐように手を振った。


「いやいやいや、この先の冒険の成功率を上げるためにも、ミミッ子がなにが得意かは知っておきたいんだ。全部じゃなくていいから教えてくださいお願いします」


 俺が頭を下げると少女は「しょうがないにゃ~」と譲歩の構えを見せた。


 そして俺に告げる。


「舌でなめ回すのは得意ですよ?」


 さっき暗黒領域で俺がされたのはミミックの技だったのか。腰砕けになって動けなくなるのだが……魔物相手にも有効なのだろうか?


「他には?」


「あとは素早いので普通の人や魔物の倍は動けます」


 二回行動……だと!?


「そ、それから?」


「弱点を突く攻撃でズバッ! と」


 必中の痛恨的な一撃だ。これを得意とする魔物が俺は超がつくほど苦手だった。高い敏捷性によって文字通り“回避が命”の戦闘術スタイルなのだから。


「あとまだ何かあれば!」


「他にもいくつか魔法が使えます」


「もう一声! 回復魔法とかあると助かるんですけど」


 ミミッ子は腰に手を当て胸を張ってふんぞり返った。


「はっはっはー! あるわけないじゃないですか神官でもあるまいし。こちとらミミックのミミッ子ちゃんですよ? はいじゃあ今度はこっちから質問です」


「俺に? わ、わかった。こっちばっかり訊くのもフェアじゃないよな。なんでも答えるぞ」


「好きな体位はなんですか?」


「よし、次行くぞ次」


 俺は投擲した短剣を拾って鞘に納めるとミミッ子に背を向け先を急いだ。


「あーずるいですよぉロジャーさんってばぁ! もう! 秘密にするなんて、ミミッ子はますますロジャーさんに興味津々で夢中になっちゃうじゃないですか?」


 教会の聖典か神樹の枝でも箱に収めれば、ミミッ子も少しは敬虔さや貞淑さを覚えるかもしれな……無理だなきっと。

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