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説明しよう……変態魔物調教師とはッ!?

 燦然と輝く一覧の調教師の文字に、ミミッ子が呼吸を荒くし始めた。


「だ、ダメですよロジャーさんは盗賊王になるって夢があるんですから。調教師なんてなっちゃダメですからね! 絶対に、絶対にならないでくださいよ?」


「なんだその新手のツンデレみたいなのは。安心しろならないから」


 頬を赤らめつつ眉尻を下げてミミッ子は残念そうな表情を浮かべた。そんな銀髪の少女にイル美が訊く。


「チョウキョウシとはどんなお仕事デスか?」


「よくぞ訊いてくれましたイル美ちゃん! ずばり女の子を立派なメスド……」


「はいストップ。曲がりなりにもここは教会が管轄する神殿だぞ」


 手遅れな気がするが一応、止めておこう。


 女神官が俺に「曲がりなりではないのでありますが……むしろ教会組織の中では大きくて立派な施設でありますし」と困り顔だ。


 イル美は俺の服の裾を掴んで軽く引っ張った。


「ロジャー氏、チョウキョウシとはなんデスか?」


 純粋なルビーの瞳がキラキラと俺を見つめた。


「んーまぁそうだな。先生みたいなものだ」


「知らないことをたくさん教えてくれるのデスね! ロジャー氏はボクやミミッ子氏に色んな事を教えてくれる先生……ううん、立派なチョウキョウシデス!」


 ミミッ子がイル美の後ろで俺の顔を指さしながら「プハー! クスクスプリプリ! カパパパクパー!」と、人間では発音しかねる謎の笑い声を上げた。


 あとでくすぐりの刑だなこれは。


 女神官が中指で眼鏡のブリッジを上げながら俺に告げる。


「ではロジャー殿は変態魔物調教師に転職でよろしいでありますか?」


「よろしくない! それにだいたいなんで変態ってつくんだ? 魔物が変態なのか? それとも調教師が変態なのか?」


 もし俺が変態だとすればミミッ子の望む通りの事を……い、いかん静まれ俺の理性。いや、理性が静まったらまずいだろう。


「お、俺は冷静ですから」


「何も言ってないでありますよ」


「で、変態なのはどっちなんですか?」


「もちろん魔物の方に決まっているであります」


 普通、変態と言われたら落ちこむだろうにミミッ子は誇らしげに胸を張った。人差し指で鼻の下を軽くこすると「まあ、わたしくらいの箱になるとむしろ褒め言葉ですから」とご満悦だ。


 が、女神官は付け加えた。


「変態とは形や状態が変わることであります。今のミミッ子殿とイル美殿は、人間の姿に変身できる魔物と魔族の中間くらいの存在と言えるのでしょうな」


 いやてっきりそっちの変態じゃなくて、倒錯している方の変態だと思っていたのだが……。


 俺は女神官に確認した。


「ということはミミッ子とイル美はその……魔族になりかけているってことなのか?」


 小さく頷き彼女は続ける。


「そして、そんな行き場のない子たちを受け入れ導くのが変態魔物調教師であります。ちゃんと教師と入っているので先生なのでありますよイル美殿」


 イル美の純粋なルビーの瞳がキラキラと俺に尊敬の眼差しとして向けられた。やめて眩しすぎて死んでしまうから。


 女神官は再び俺に向き直る。


「さらに転職を司る大神樹の芽の鑑定情報によると……」


 女神官の眼鏡のレンズに魔法陣が浮かび上がった。そこから情報を読み解いて女神官は俺に告げる。


「どうやらロジャー殿には特別な才能があるようであります」


「も、もちろんそれは盗賊スキルに関係するものだよな? なあ! そうだと言ってくれよ神官さん!」


 柔和な笑みを浮かべたまま、女神官は俺から視線を逸らした。


「ロジャー殿は生まれながらに変態魔物好感度がMAXのようでありますから、変態魔物ハーレムが出来てしまうのは自然なことであります。一方、類い希なる才能の反動もあってパーティーメンバー運が最低値なので、変態魔物以外とパーティーを組んでも上手くいかないのでありますよ」


「お、おい待ってくれ待ってください神官さん。才能の反動ってことは、それを捨てたら人並みのパーティーが組めるってことですか?」


 ミミッ子が俺の背後から抱きついて耳の裏に吐息を吹きかけながら囁いた。


「それを捨てるなんてもったいない」


 がっちりとホールドしながら胸を俺の背中に押しつけてくるんじゃない。色々揺らぐだろ人間としての尊厳とか踏み越えてはならない一線とかが。


 女神官の眼鏡のレンズが神殿内を照らす魔力灯を反射してキラリと光る。


「ロジャー殿の場合、変態魔物調教師以外の他のどの職業に転職しても好感度MAXがなくなってしまうのでありますよ。だから本職の盗賊に転職しなおしても、文字が光らないのであります」


 普通の盗賊に……なれるってのか。


 普通の仲間とパーティーを組んで、普通に冒険し、普通に宝を見つけて仲間たちと喜びをわかちあい、普通に……普通に……普通に……。


 ミミッ子がそっと腕を離すと、イル美といっしょに祭壇の隅ッ子で膝を抱えて座る。


 心細そうな瞳でミミッ子は女神官を見つめた。


「すいません神官さん。わたしとイル美ちゃんがちょうど中に入って座れるくらいの木箱かなにかありませんか?」


「ええと、どうしたのでありますか突然?」


 ミミッ子が俺を指さした。


「あの人がっ! ロジャーさんとかいう人が、拾っておいてわたしとイル美ちゃんを捨てるつもりなんですよ! 捨てられたら箱の中で膝を抱えて座って、拾ってくださいって看板を出すしかないんです」


 イル美が「そ、そうなのデスか?」と、驚いたように目を丸くする。とりあえずミミッ子の行動を真似てから考えるのがイル美である。


 途端にイル美まで泣きそうな顔になった。


「ボクらの力が足りないばかりに、己のふがいなさに涙が出るのデス」


 ミミッ子が「ここならたくさん人が通るからいつか……数百年か数千年経てば、運命の人に出会える可能性が万に一つあったりなかったりもしますから」と、慰めた。


 女神官まで俺をじっと見据える。いや、あんたが言ったことがきっかけだろうに。


 ちょっと心動かされそうにはなったが……。


「なあミミッ子。またいつもの冗談だよな?」


「べ、別に冗談なんかじゃないんですからね! ツンツン!」


 ツンデレのツンを擬音で表現するのかよ。だが、ミミッ子は膝頭におでこをぺたんとつけて顔を伏せてしまった。


「あのですねロジャーさん。ぶっちゃけロジャーさんといっしょにいられて、わたしもイル美ちゃんもとっても幸せなんです」


 イル美もうんうんと何度も首を縦に振る。


「だけどもし、本当にロジャーさんが嫌なら、こ、こ、こっちからロジャーさんなんて願い下げなんですよ! むしろ捨ててあげますから!」


「お、おぅ……」


 ミミッ子ががばっと顔をあげた。泣き顔だ。涙がポロポロと真珠の粒のように頬を落ちる。


「ばかああああ! そこは『うるせぇ! 行こう!』みたいな感じにしてくださいよお!」


 王都で人気の絵物語に出てくる海賊じゃないんだぞ俺は。


 しかしまあ、なんというか……。


 こいつらをうっかり拾ってしまうお人好しが気の毒だ。


 それにこんな問題児の面倒を看られるのも、世の中広しといえど自分くらいなものなのだ。


 女神官に告げる。


「俺は今のままで……いや今のままがいい」


 柔和な笑みを浮かべて女神官は無言で頷いた。


 俺は祭壇の隅ッ子に肩を寄せ合って座る二人の前に膝を着く。


「おやおやーこんなところに財宝と宝箱があるじゃないか。盗賊王の俺としては拾っていかないわけにはいかないな」


 ミミッ子の涙がぴたりと止まった。


「わ、罠かもしれませんよ?」


「俺はこう見えても超一流の盗賊なんだ。罠感知のセンスだってずば抜けてる。この宝箱からは青いオーラを感じるな。つまり安全ってことだ。中身は黄金像みたいだな。さすが堅固で堅牢な宝箱の中身だけあって素晴らしいお宝じゃねぇか」


 イル美が耳の先まで赤くなった。それを守る宝箱の方まで一緒に頬を染める。


「だからウダウダ言わずに俺のモノになれ」


 壁がないのでエア壁ドンで俺は二人に申し込んだ。


 二人は立ち上がると俺の胸に飛び込み、抱きつき押し倒してきた。


「神様の見ている前で結ばれましょうロジャーさん! まずは親愛の証のペロペロを!」


「ボクもお願いデス! ロジャー氏のモノにしてくださいデス! ぺ、ペロペロしたいデス」


 いかん二人の目が獲物を狩る野獣のソレだ。


 助けを求めようと俺は女神官に声を掛けた。


「あ、あの! 助けてくれ!」


「あっ……そろそろ休憩の時間なので失礼するでありますね。転移(ラポタル)魔法」


 フッと女神官の姿がかき消える。




 このあと、二人にめちゃめちゃに(舐め回)された。

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