未知なる宝が知りたくて
そんなこんなでソーマ神殿でミミッ子とイル美が転職して一ヶ月――
俺たちはとある遺跡の地下迷宮を探索していた。
洞窟というか鍾乳洞タイプである。俺もミミッ子も暗視スキル持ちだが、普段は魔力灯で周囲を照らして探索するようにしていた。
その光に吸い寄せられるように、洞窟の魔物に襲われるのだが――
「わたしの拳が光って燃える! 勝利を掴めとむせび泣く! ミミッ子シャイニング炎上拳!」
と、拳に中級火炎魔法を纏わせて、ミミッ子はスライムスラッグという大ナメクジ系の魔物を燃やし尽くした。
武闘家に転職したことで俊敏さと打撃力にさらなる磨きがかかり、魔法に関しては遠距離に放てなくなった代わりに近接打撃の火属性付与(炎ちやんとファイア)として活用するようになったのである。
「ふっ……またつまらぬ事で炎上させてしまったですね」
炎を纏ったこぶしにフッと息を吹きかけ消すと、ミミッ子は俺にウインクする。
俺は抜き払った双短剣を腰の後ろの鞘に納めた。
「なあ、今のは別に硬い魔物じゃなかったんだし俺でも倒せただろ」
「いいですかロジャーさん。あの粘液まみれのスライムみたいな形をしたナメクジ……明らかにロジャーさんに色目を使ってましたから」
「はぁ?」
「アレはロジャーさんにキュンってなってました。もう少し自覚してくださいよ。今、ロジャーさんは人生において最高のモテキが来てるわけですよ。魔物が放っておくわけがない」
「モテキでなくとも魔物は洞窟で襲ってくるぞ。な? そうだろイル美」
俺とミミッ子が戦う間、イル美は基本的には魔力灯を持って後方待機である。が、いざというときは彼女が文字通り、身を挺して俺やミミッ子をかばい、守ってくれた。
完全無敵の黄金像モードはすべての攻撃を弾き返す鉄壁の盾だ。
おかげで全滅を免れたのは一度や二度ではなかった。
そんな陰の功労者が純真なルビーの瞳で俺の顔を見つめる。
「ボクはロジャーさんが素敵だから魔物が来ると思うデス」
ミミッ子がえっへんと胸を縦揺れさせた。
「ほらほらほらほら、イル美ちゃんだってそう思ってるんだし。ともかくこのロジャー軍団に入団したいとい魔物は、わたしとイル美ちゃんを倒せるくらいの実力者じゃないとお断りですからね!」
「それ、誰に言ってるんだ。というかいつの間に軍団になったんだよ俺たちは」
溜息交じりの俺にイル美が「今日はいっぱい冒険したデスから、一泊休憩するデス」と笑顔を見せる。
彼女は鍾乳洞内の壁面に“無限の地下迷宮”の扉を貼り付けるように生み出した。
ダンジョンINダンジョン。徒歩0分で帰宅である。
扉を開けて中に入ると、そこにはどこまでも続くかのような広い広い庭付きの一戸建てマイホームがある。
冒険を中断してシャワーを浴びたりふかふかベッドで眠ることができるのだ。
盗賊として堕落してしまいそうだが、定期的に町や村で食料などを補充すればダンジョンを長期間探索できるのである。
さらに――
「見てくださいロジャーさん! ナスとキュウリがこんなに立派に育ってますよ」
イル美の提案で庭に作った家庭菜園では、ナスにキュウリにカボチャにインゲンやらトマトにジャガイモ、トウモロコシなどなどなど、イル美が育てたいものが増える度に作付面積も増加中である。家の周囲はすっかり農園だ。
しかもそれらは種を蒔けば数日で育ってしまう。水やりは俺たちが一晩寝ている間に雨が降り、連作障害なにそれと言わんばかりに土地が痩せるようなこともない。
これも“無限の地下迷宮”の力なのだと納得するより他無かった。
ひときわ大きなナスに頬ずりしてミミッ子が頬を赤らめる。
「黒々して逞しくってまるでロジャーさんのアレがアレになった時のアレみたいな」
ふわっとした言い回しだが良からぬ事を考えているのだけは理解できた。
イル美が指でチョキを作るとミミッ子が頬ずりしているナスのへたのあたりを挟む。元々黄金像というか金属化する肉体を自在に操るイル美にとっては指をハサミにするくらい朝飯前だった。
「あん! イル美ちゃん収穫しないでくださいってば! この子はもっと大きく太く隆々とさせてからじっくり味わう予定だったのに!」
「ミミッ子氏、あんまり育ちすぎると皮が厚く固くなって食べてもおいしくないデスよ」
「んもーしょうがないですね。あ! こっちのズッキーニなんて曲がり具合がもうまさにアレじゃないですか!」
ナスを取り上げられたミミッ子が今度は瑞々しい緑のズッキーニに頬ずりを始めた。
そっとしておこう。
イル美がナスを手に俺の元に駆けてくる。
「今夜はラタトゥイユとカポナータのどっちがいいデスか?」
「俺には違いがわからんのだが」
「お料理の本にはナスでこってりがカポナータでズッキーニであっさりがラタトゥイユって書いてあったデス」
家庭菜園を営むようになると、イル美は料理に興味を示し今ではすっかり料理長だ。
本当にミミッ子とどうして差がついた。二人を取り巻く環境に差はほぼ無いため、単にイル美の嫁力が高かっただけか。
ズッキーニに夢中だったミミッ子がいつのまにやら俺とイル美の元に戻ってきた。
「ロジャーさんイル美ちゃん! これだけ広い土地があって秘密で色々栽培できるなら、わたしに良い考えがあります」
「なにを育てるデスか?」
「えっとね、葉っぱです」
「ハーブかなにかデスか?」
「そうそう。幻覚草っていうハーブで、乾燥させたものを燻して煙とかを吸引するとハッピーな気持ちになれるっていうんですよ。大量に生産して世界の流通に乗せて、みんなを幸せな気持ちにしてあげるんです」
「そ、それはいいことだと思うデス。ボクもお手伝いしますデス。世界の平和に貢献したいデスから」
幻覚草には依存性があって、王国では栽培はもちろん所持することすら法律で禁じられていたはずだ。密造を前提にしているあたり、知ってて言ってるなミミッ子のやつ。
「却下だ。俺は盗賊王になりたいのであって、別のジャンルの犯罪王になりたいわけじゃないぞ」
ミミッ子は口を尖らせた。
「ちぇーっ……我ながらグッドアイディーアだと思ったのに」
やたら巻き舌気味でミミッ子は俺を批難した。
「王国を転覆させるような陰謀を家庭菜園で張り巡らせるんじゃねぇよ。そんなことより飯にしよう。まだパンの買い置きはあるよな?」
「それならわたしのお腹の中に保存って……冗談ですよちゃんと別の場所に保管してますから~」
まあ、食べ物も自由に出し入れできるのがミミッ子の特技ではあるのだが、時間を巻き戻すように食べ物が口から逆再生されるのは、ちょっと問題ありだ。
イル美が「さっそく食べ頃の野菜を収穫するデス! お料理はボクに任せてくださいデス」と、両手を握ってグッと脇を締めた。
まあ、最近はずっとこんな感じである。恐らく世界中のどんな冒険者パーティーよりも、深く長く地下迷宮に潜っていられるのだが、それでも先駆者というのはどこにでもいるもので、財宝が眠ったままの迷宮というのは珍しい。
食卓を三人で囲みながら、俺はぼんやり呟いた。
「どこかに誰も……それこそ勇者様ですら踏破してない迷宮ってないもんかな?」
イル美は首を傾げて「――?」と不思議そうな顔をしていたが、ミミッ子がテーブルに両手をパアアアンッ! と叩き着けて立ち上がった。
「だったら魔王城なんてどうですロジャーさん?」
「魔王城って……お前、どこにあるのか知ってるのかよ?」
「知りませんけど、勇者より先に魔王城のお宝をとっていっちゃえばロジャーさんって伝説の盗賊王になれると思うんです」
スプーンを口にくわえてイル美がうんうんと同意する。
「お前ら適当に言ってくれるなぁ……けど……このまま誰かの手垢がついたダンジョン巡りするよりはいいかもしれん」
俺一人では無理でもミミッ子とイル美がいれば、案外たどり着けてしまうかもしれない。
イル美も立ち上がってテーブルの天板に身を乗り出し、俺の手をとった。
「やるデスよロジャー氏! きっと魔王城には素敵なお宝があるデスから」
ミミッ子が自身の胸元に手を添えて笑う。
「ま、ロジャーさんにとってはどんなお宝よりも、このミミッ子ちゃんとイル美ちゃんこそが人生の友でありかけがえのない財宝なんですけどね!」
「おいおい、自分で言うセリフじゃないだろうに」
そのあとは、ミミッ子が中心になって「まずは魔王城の場所について聞き込み調査しましょう」と、食事の席が作戦会議に早変わりした。
いつか……いや、案外早く魔王城にたどり着き秘宝を手にすることになるかもしれないな。
こいつらと一緒なら。
読了ありがとうございました。第1部完とさせてくださいませ……orz




