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そうだ転職しよう

 キッチンから自室に戻る。


 次に何をするかも決めないまま着替えを済ませ、双短剣に盗賊の七つ道具が下がったベルトを装備した。


 遺憾ながらミミッ子がクリーニングしてくれた服はとても着心地が良かった。


 すぐに下の階から「ほらほら早く行きますよ~! これからロジャーさんとミミッ子とイル美ちゃんの大冒険が始まるんですから!」と、箱娘が俺を急かした。


 やれやれと頭を掻きつつ一階に戻る。二人とも旅装束姿だ。


 ミミッ子は赤系統の染色がされたタイトドレスで、スリットの入ったスカートから太ももが眩しく露出していた。さらに胸元も開襟で谷間がのぞいている。素晴らしいプロポーションでつくづく中身の問題児ぶりが残念でならない。


 イル美はといえば首元まですっぽり覆ったタイツのようなピッチリスーツにスパッツである。身体のラインが丸わかりな密着具合なのでこれは逆にエロくなっている気がしてならない。


 その上からマントを羽織っているのだが、露出狂の変態さんチックじゃなかろうか。


 たぶんミミッ子のコーディネートだろう。


 共に武器は持っていなかった。まあミミッ子に関しては武闘家も真っ青な腕力とすばやさである。


「その服はどうしたんだ?」


 イル美が「身を削ってお金をつくったデスから」とうつむき気味に呟いた。


 広い王都である。朝早くから店を開けている冒険者向けの装備品店や道具屋もなくはない。


 二人はじっと俺を見つめた。口火を切るのはミミッ子だ。揉み手をしながら俺に訊く。


「それでロジャーさん。今日はどんな冒険をするんです? この世のありとあらゆる財宝を奪ってやりましょうよゲッヘッヘ」


 舌で唇をなめ回してのゲス顔ありがとうございます。


「ゲッヘッヘデス」


 イル美までミミッ子を真似る。ミミッ子のようなゲス顔ができていない所が愛らしい。


「お前らは三下の悪党かなにかですか? ったく」


「ロジャーさんだって盗賊王だから悪に染まってますよね? わたしとイル美ちゃんのハートを奪った悪い人なんですから」


「デスですから」


 二人が俺に詰め寄った。迫り来るダブルのおっぱいについ、半歩下がる。


「落ち着け二人とも。結局何が望みなんだ?」


 ミミッ子がえっへんと胸を揺らした。


「そんなの決まってますよ。ロジャーさんと面白おかしく一緒に過ごしたいだけですから」


「え、えっと……よろしければおそばにおいてほしいデス」


 一方イル美は肩身を狭くしてうつむき気味に背中を丸める。こちらもこちらで胸が二の腕に押し出されるような格好になり、胸元の伸縮性のある密着した服の布地が伸びていっそう盛り上がった。


 これを計算してイル美に着せたというならミミッ子は相当な策士だ。


 俺自身はといえばどうしたいのだろう。


 ミミッ子という魔物界のモンスターを世に解き放ってしまったことについては俺のミスかもしれないが、責任の所在については忘れることにしよう。


 逃げも隠れもする盗賊王の俺をミミッ子は地の果てまでも追ってくる。それは容易に想像できた。


「二人とも俺なんかのどこがいいんだ?」


 これには普段ならミミッ子の後から意見を言うイル美の方が先に答えた。


「や、優しいところデス。ロジャー氏は黄金像のボクを傷つけるどころか気遣ってくれたデス。財宝を目にした人間の欲望にまみれた目じゃなかったデスから」


 ぽっと頬を赤らめるイル美に、俺は指で自分の頬をぽりぽり掻いた。


「いやあアレはそのだな……」


 ミミッ子に襲われていたイル美が不憫でならなかっただけだ。


「はいはいはーい! ミミッ子ちゃんも意見具申いいですか?」


 ミミッ子がびしっと手を上げた。


「はいどうぞミミッ子さん」


「ロジャーさんのすべてが愛おしいです!」


 臆面も無くなんてことを言うんだお前は。無条件に全肯定とか……ちょっと本当にやめてくれお前を好きになりかけたじゃないか。


「俺が訊いているのは理由だ」


「んもー! そうやって好きになったことを具体的に言わせるなんてプレイの一環ですかロジャーさん? この寂しんぼうのドSご主人様!」


「ご主人様デス!」


 ほらまた純粋なイル美が変な言葉覚えちゃったじゃないかバカー。


「恥を忍んで教えてくれ。俺じゃなくても良かったんじゃないか?」


「運命の出会いってヤツですよ受け入れてくださいロジャーさん。盗賊の手で宝箱が開けられてしまうっていうのは、完全服従屈服調教済みってことなんですから」


「調教済みデス!」


 余計な言葉を引き算してざっくり言うと、ミミッ子の場合は盗賊王の俺に開けられたから好きになったというわけだ。


 あっ……閃いた。


「よし。次の目的地が決まったぞ二人とも」


「ど、どどどどこに忍び込んでお宝をゲットするんですかロジャーさん?」


「わくわくデス」


 俺は二人に告げた。


「王都から北西の街道を進んで三日の距離にある山岳地帯……そこにあるソーマ神殿だ」


「神殿で窃盗ですねわかりました。露払いはこのミミッ子ちゃんに任せてください」


「ぼ、ボクは硬くなってその……お二人を守るデスから」


 二人とも勘違いしているようだが、このソーマ神殿は廃虚でも迷宮でもなんでもなく、今も普通に冒険者たちで賑わっている。


 転職を司る神聖な場所だった。




 三日の旅程で途中途中の村や町にて休息をとりつつ、街道沿いで出くわした魔物と戦い路銀を稼ぐ。


 ミミッ子もイル美も魔物なのだが、襲ってくる連中には容赦が無い。


 イル美は自分自身の身体を黄金に変える特技で文字通り、時には身を挺して敵の攻撃を受け止めてくれた。


 ミミッ子は放っておけば次々と魔物を倒していく。もうこいつ一人でいいんじゃないかと思いつつ、俺は得意の盗賊スキル“盗む”で魔物から小銭やらアイテムをスティールしながら、路銀に余裕を持たせていった。


 王都を出て三日後の昼には、俺たちは山間にある白亜の大神殿――ソーマ神殿にたどり着いたのだった。


 ふっふっふ。まんまとこの地にやってきてしまうとは。ミミッ子との因縁はこの神殿でつけてみせる。


 俺が“無職”になることで。

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