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お風呂でやられたい放題

 濃霧のような湯気が二人にまとわりつくようにして、肝心な部分を隠していた。


「おっじゃましま~すロジャーさん」


「し、失礼しますデス」


 ミミッ子は腰に手を当て堂々と洗い場に入ってきた。その後ろに隠れるようにイル美が寄り添う。


 俺は顔を天井に向けて告げる。


「出ていけ」


 ミミッ子が腕で自分のたわわな胸を左右から挟むようにして、寄せてあげながら声を上げた。


「そんなぁ~! いつもお疲れのロジャーさんを癒やして差し上げようというのではありませんか?」


「誰のせいで俺が疲労困憊していると思ってるんだ」


「まま、そう言わずに背中くらい流させてくださいよぉ」


 浴槽に肩まで浸かった俺を引きずり出すように、ミミッ子は腕を取って引っ張る。


 やばい……馬鹿力なのを忘れていた。


「わああああああ! 待って! 待ってくださいミミッ子様。言う通りにするから無理矢理するのは勘弁して!」


 俺を引っ張る腕の力を抜いて、少女はニンマリ笑う。


「最初から素直にしてれば良かったんです。ねーイル美ちゃん♪」


「え、えっと、一生懸命ご奉仕させていただきますデス」


 ミミッ子はどこから持ってきたのか、真ん中の辺りが妙に凹んだ椅子を浴室に設置した。


「イル美ちゃんはロジャーさんがよからぬことを考えないように、目を両手で塞いでくださいね」


「了解デス。ちょっと目を閉じてて欲しいのデス」


 全裸突撃しておいて今さらなにをという気がしないでもないが、俺が目をつむるとイル美の手がぴたりと両目を覆った。


 そのままイル美が俺を誘導し、先ほどの不思議な凹みのある椅子に座らせるなり、目隠しを解いて背後に立つ。


 この状態なら目の前はタイル壁で二人のあられも無い姿は目に入らない。


 いや、実のところ腕を引かれたり目隠しをされたりと、ボディータッチされる度に俺も少々興奮しつつあるのだが、理性で抑え込む。


 これは罠だ。ミミッ子の仕掛けたエロトラップなことは明白だ。


 もし屈するようなことがあれば、パーティー内のパワーバランスが崩れてしまう。


 変態ミミック娘の独裁を許すわけにはいかないのである。


「では、日頃の感謝を込めましてロジャーさんのお背中を流しちゃいますね。本当はペロペロしたいんですけど」


「普通にしてくれ」


 風呂に入る前に一度自分で身体は洗ったんだが、言って引き下がるミミッ子ではなかろう。


「ひゃん!」


 と、まるで乙女のような声が俺の口を衝いて出る。


 背筋になにやらとろりとした冷たい液体と固体の中間的なものがトロトロと垂れ流された。


「おいいぃ! 俺の背中に何をしたッ!?」


「薬草とか海草とか香油を噛み噛みしてお腹の中でミックスした特製ボディーソープですがなにか?」


 振り返ってミミッ子に抗議しようと思ったが、ミミッ子もイル美も全裸である。


 これ以上、俺の視覚にぷるんぷるんだのぷっくりだので訴えかけられてはたまったものではない。


 背筋をなぞるように冷たいローション的なものがしたたり落ちていく。


 イル美が俺の耳元で呟いた。


「それじゃあ失礼しますね。おっと、これはあくまで入浴のお手伝い。お手伝いですよ」


「誰に向けての言い訳だそれは」


 次の瞬間、ミミッ子の膨らみとぷっくりが俺の肩甲骨にピタリと吸い付いてきた。


「――ッ!?」


「ではいきますね。いっちにーいっちにー。上上下下左右左右っと。ぐるんぐるんと回転なんかもさせちゃいますよ。次はイル美ちゃんの番だから、まずはミミッ子ちゃんのテクニックをしっかり目で盗むように」


「べ、勉強になるデス」


 くすぐったい上にヌルヌルがヌメヌメで背中を大きな舌で舐めあげられているようなゾワゾワ感だ。


「ミミッ子……なあ、これはまずいだろう」


「何がです? えいえいっ! あ! 背中と腰の間の辺りをなぞると、なんだかロジャーさん切ない感じ震えちゃってもう子鹿みたいでカワイイですなぁ」


「ふ、ふざ、ふざけ……真面目にやれって」


「真面目にご奉仕してるじゃないです? それにしてもこの特製ボディーソープ全然泡立たないですね。誰ですかこんなヌルヌルヌトヌトヌメヌメヌポヌポするだけのローション作ったのは!」


「それはお前だろうが」


 ローション的というよりも、そのまんまだったらしい。が、薬草の効果なのか背中がじんわりと温かくなり、コリやハリが解消されつつあった。


 恐るべしミミック調合ローション。


「さあ覚悟してくださいね……ハム」


 俺の耳元で囁いてからミミッ子が耳たぶを甘噛みする。


 もうこれ完全にアウトだろ。


「はいストーップミミッ子よこれ以上は本当にアレだから。終了! 背中流しは終了です!」


「ええぇ。イル美ちゃんがスタンバってるのに中止しちゃうんです?」


 名残惜しそうに密着していたミミッ子が俺の身体から離れていった。


 ぬるりとした粘液がツーっと俺の背中とミミッ子の前面に糸を引くのが感触でわかる。


 イル美が「ざ、残念デス。お役に立てると思ったデスけど、ロジャー氏にご迷惑はかけられないデスから」と、涙声で呟く。


 おいおいこれじゃあ俺が悪役みたいじゃないか。


 というかこの極悪非道な宝箱と宝物コンビは悪い衛兵と良い衛兵か!? 悪い衛兵が俺に脅しをかけて、良い衛兵が同情しながら情報を引き出そうとするパターンのアレといっしょじゃないか。


 だが、ここでイル美に甘い顔を見せるわけにはいかない。


 と、決意したのもつかの間――


「じゃあイル美ちゃん。ミミッ子と洗いっこしましょうね。ロジャーさんは恥ずかしがりな童貞シャイボーイ盗賊王だから、背中以外NGみたいな感じだけど、イル美ちゃんは無制限一本勝負だし」


「は、はいデス?」


「じゃあいくよぉ! 正面からネッチョリぺっとりヌルヌルぐにゅぐにぃ」


「あっ……い、いけないデス……宝箱と宝物がこんなにくっついちゃ……ぬるぬるして変な気持ちになるデス」


「こうやって先っぽと先っぽをくっつけあうとすごいんですよ。イル美ちゃんの敏感なとこカッチカチじゃないです?」


 どことは明言していないが……このままにはしておけない。


 俺の背後で繰り広げられる行為から、純真無垢な元黄金像を救う方法は一つしかなかった。


「イル美、俺の背中を流してくれ」


「は、は、はいデス」


 俺の指示にミミッ子が「ちぇー。せっかく盛りが上がりまくりすてぃんぐだったんですよ?」と、独特な言い回しで抗議してくるが、ここで盗賊王、その発言を華麗にスルー。


 ミミッ子の粘液監獄から釈放されたイル美が俺の背中に両手を当てた。


「おお、そうそう。手で軽く撫でるようにしてくれればいいんだ」


「やってみるデス……けど、なんだか滑ってうまく……はうぅ」


 ドジッ子的な悲鳴をあげてイル美の両手が俺の背中から腋の下を通って胸の方に回ってくると、なんで存在しているのかいまいち用途不明な男の胸の突起物の上をこすり上げていった。


 俺の背中に寄りかかるように胸を押しつけ、両手で胸をまさぐるような格好になったイル美が「ご、ごめんなさいデス」


 本当に申し訳なさそうに呟きながら、俺の胸にしがみついてくるんじゃない。


 ついうっかり手が前に行ってしまって、掴んじゃったって……それなんて逆ラッキースケベ?


「落ち着いて力まずゆっくりと手を離してくれないかな?」


 と、優しく言い含めたところへミミッ子が飛び込んで来た。(物理)


「おっとミミッ子ちゃんも足が滑っちゃいましたテヘペロ!」


 テヘペロするヤツの八割がわざとである。 ※盗賊王ロジャー調べ


 俺の左腕に抱きつくようにして二の腕を胸の谷間で挟み込み「危うく壁か床に激突するとこでしたよ。ちょうどいいところにロジャーさんがいてくれたおかげでミミッ子は九死に一生を得ました。恩人のロジャーさんに恩返ししたいんですけどぉ」と、ますます密着してくる。


 いつの間にやら場所を譲るようにイル美も俺の右腕に抱きつくような格好になっていた。


 主にミミッ子が暴れたおかげで床一面ローションでぬるぬるだ。


「なあ、これって迂闊に立ち上がれないんじゃないか?」


 イル美がコクコクと頷く。


「お風呂のお湯を吸ってますますヌルヌルが広がってるデスよロジャー氏。このまま立ち上がったら転んじゃってあぶないデス」


 ミミッ子が目を丸くする。


「おお、それは危険ですね。こんなこともあろうかと、ミミッ子ちゃんは密林地帯で見つけたゴムの木の樹液でこんなものを作っておきました」


 自身の口に手を突っ込んでずるんとミミッ子が引きずり出すように取り出したのは、ゴム風船のマットレスだ。


 というか、取り出し方がなんかグロイな。


 ミミッ子は胸を張った。


「このマットレスがあれば万が一転んでも空気のクッションが守ってくれますね。さあまずはロジャーさんから脱出を試みてください」


 言いながら口からローション的なものをマットレスに垂らして伸ばすのやめなさい。


「なあミミッ子。お前はどうしてほしいんだ」


「もっとロジャーさんと仲良くなりたいなぁって思ってますよ本気(ガチ)で」


「仲良くってどれくらいだ?」


「そりゃあもう親密度マックスハートブレイクショットくらいですね。もちろんイル美ちゃんとも!」


 途端にイル美が顔を赤らめてうつむいた。モジモジしなさんな俺の二の腕が谷間に挟まれてヌルヌルでもう大変なんだから。


「わかった。じゃあそうだな。三人で寝るか」


「えっ!?」


 俺の提案にミミッ子が目を丸くした。さらにイル美はというと。


 ぷしゅ~! と頭から湯気を出してミミッ子の出したゴムマットの上にどさりと倒れ込む。


「た、たたた、大変ですよ! ツンデレのロジャーさんがデレた途端に、イル美ちゃんが大破轟沈しました!」


 敬礼するミミッ子に俺は告げる。


「要救護と認める。イル美をこのヌルヌル地獄から救出するために、ミミッ子よ……ローションすべて箱の中に収納してくれ」


「お任せあれ!」


 ハアアアアアっと息を吐ききったかと思うと――


 ズモモモモモッ! と、吸引力が衰える様子を一瞬たりとも見せることなく、ミミッ子は床のローションを吸い上げた。


 まるで透明な麺類をすするかのような勢いで、あっという間に床やゴムマットからローションだけが取り除かれた。


 もはやミミッ子はミミックを超えた何か別の存在にしか思えない。


 俺はフルなチンのまま、意識を失ったイル美を抱き上げる。


 できるだけ視線を天井方面に上げて、イル美の裸を見ないよう努力をした。


 まあ、密着されたり胸を(俺が)揉まれたりと、手遅れ感はいなめないが。


 黄金像だったのが嘘のように少女は軽く、いわゆるお姫様抱っこで俺は浴室から彼女を連れ出した。


「あ! いーないーなぁイル美ちゃん♪ ロジャーさん今度ミミッ子もお姫様抱っこしてくださいね」


「機会があればな。おっと、わざと倒れるのは無しだぞ」


「はーい! あとあと、今度わたしとイル美ちゃんの髪の毛を洗ってくださいおなしゃっす!」


 意外な提案だが、まあそれくらいならできなくもない。


「わかった。落ち着いたらな」


「はーい! はーい! やったぜ!」


 返事だけはいいなまったく。


 ともあれ風呂からの脱出には成功したのだが、これから向かうのは二階の寝室である。


 あれ? 事態が悪化してないか?

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