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憧れの庭付き戸建てマイダンジョン

「黄金悪魔像改め、なんて呼べばいいんだ? 名前はあるか?」


 金髪を揺らして少女は首を左右に振った。


「ぜひロジャー氏に名付けてほしいデス」


「ロジャー氏って……ん? 名付ける?」


 ミミッ子が隣で「美少女の命名権なんてなかなか得られないお宝ですよ? ネーミングライツでがっぽがっぽですよ!」と、訳のわからないことを言いながら鼻息を荒くした。


 が、ともあれこのままでは呼びづらい。


 ミミッ子の同類のガーゴイルということで――


「わかった。今日からお前はイル美だ」


 すると少女は目をまん丸くした。ちょっと安直すぎただろうか?


「な、なんだ? 気に入らないっていうなら自分で考えてくれよ。俺はこういうの苦手なんだよ」


 ずずいと金髪少女は俺に近づいて顔をのぞき込んできた。


「イル美……とっても素敵デス。ボクは今日からイル美としてロジャー氏を守るデスから」


「守るって言われてもなぁ」


「よかったじゃないですか淫乱像改めイル美ちゃん!」


 ミミッ子はイル美と抱き合った。二つと二つの膨らみがお互いにぶつかり押しつけ合われてこぼれんばかりの状況である。


 イル美はイル美でされるがままだが、恥ずかしそうにうつむきながらも表情は穏やかだ。


 いったいこいつらの間に何があったんだろう。


「ええとミミッ子さんや。俺が逃げたあと二人の間でどんな話合いや取り決めが行われたのか教えてくれませんかね?」


「お? それ訊いちゃいます。しかたないですねご説明いたしましょう!」


 抱きしめたイル美を一旦解放してミミッ子はイル美を藁山の上……というか、俺の隣に座らせると、前に立ち講義でもするように語り出した。




 結論から言うと、無限の地下迷宮で一人ボッチだったイル美にミミッ子が同情したというのが発端だそうである。


 宝物と宝箱というのは元来相性が良かったらしく、ミミッ子の母性本能にイル美が刺さったのだとか。


「だからこの子はわたしが守って育てるんです!」


 と、ミミッ子は胸を張った。


 俺はイル美に向き直る。


「お前はいいのかイル美?」


「ええと、とっても嬉しかったデス。こうして外の世界を知ることができて、ぼくは幸せデス」


 先ほどからイル美と話していて一つ気づいたことがある。


 こいつ、ミミッ子に比べれば遥かにまともな精神の持ち主だ。口振りこそ変わってはいるが、引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、かといって受け答えは普通にできる。


 俺はミミッ子に視線を向けた。


「ミミッ子はいつ野生のミミックに戻るんだ?」


「わたしはもうすっかりロジャーさんの飼い犬ですよワンワン! あ、けど覚えて置いてくださいね、飼われていてもわたしの方が強いですから」


「それは承知している。つまり、俺につきまといのを止めないってことか。いやーしかしまいったなぁ。盗賊王のロジャーさんとしては、今後も無限の地下迷宮を攻略していくつもりなんだが、せっかくイル美が外の世界に出たのにまたあのダンジョンに挑まなきゃいけないわけで」


 イル美がうつむくとプルプル震える。ちょっと脅しが過ぎてしまったか。


 俺はミミッ子に続けた。


「ミミッ子が母親になるというなら、お子様の健全な育成のためにも、世界中を巡って見聞を広める方がいいんじゃないか?」


 イル美が俺に涙目で訴えるように告げた。


「ロジャー氏……ごめんなさいデス」


「なんでイル美が謝るんだよ?」


 落ちこむイル美がいる一方で、ミミッ子が人差し指をピンッと立てて左右に振った。


「それがですねロジャーさん。ご報告が遅れたんですけど、無限の地下迷宮の入り口がどっかいっちゃったんです。消えた? みたいな」


「はい?」


「詳しいことはわたしにはわからないんでイル美ちゃんどーぞー!」


 自分の名前すら知らない……というか存在すらしていなかったイル美が、目尻に涙を溜めるという以上は、ミミッ子が言う通り“情報”を持っているのだろう。


「無限の地下迷宮がどうなったのか教えてくれイル美」


「は、はいデス。ぼくはあのダンジョンを生成する迷宮核(ダンジヨンコア)なのデス」


 聞き慣れない単語だが、核というだけに重要な役割を担っていたようだ。


「それで?」


「ボクの機能は迷宮世界を構築することデス」


「なんのためにそんなことをしたんだ?」


「わからないデス。人間はなぜ生きるのデスか?」


「哲学だな。ともあれイル美が外に出たから迷宮が消失したってことか」


 どこまでも潜って行ける宝の尽きることがない迷宮ってのはロマンがあったんだが……ん?


 待てよ。イル美ならどこでも迷宮が作れたりするんだろうか?


「なあイル美。例えばこの馬小屋に地下迷宮を作ったりなんかもできるのか?」


「や、やってみるデス」


 すっくと立ち上がるとイル美は呪文らしき言葉を紡いだ。


 が、何を言っているのか聞き取れない。高位の魔法使いが行う高速詠唱を十倍速にしたような言葉の羅列が終わると――


迷宮作成(ラビレイシヨン)デス!」


 馬小屋の壁に小さな木の扉が浮き上がった。


 ミミッ子がペタペタと扉に触れる。


「わぁイル美ちゃんすごいじゃないですか? ロジャーさんほらほらさっそく不法侵入しちゃいます?」


「今からかよ!」


 と、ツッコミを入れたそばからイル美が「あ、あのお気に召しませんデスか?」と不安げな眼差しで俺に訴えてきた。


 据え膳ならぬ据えダンジョン潜らねば盗賊王の恥だ。


「わかったわかった。様子見だけだぞ」


 俺は腰を上げると木の扉を開いた。


 闇がぽっかり口を開けているのは相変わらずだ。


 二人が背後から俺に近づき、左右で挟み込むようにすり寄ってきた。


 両手に華ならぬ両手にお宝系魔物だな。


 両方の二の腕をそれぞれ微妙に感触の違う胸の谷間にうずめられる。ミミッ子の方がハリと弾力がある感じでイル美のはぽわぽわと柔らかい。


 って、しっかりしろ俺。


 ミミッ子が右隣で声を上げる。


「仲間も増えましたし今度こそ攻略ですねロジャーさん。ほらイル美ちゃんもえいえいおー!」


「えいえいおーデス!」


 攻略とはいうがイル美が作り出した迷宮なので、自作自演も甚だしいな。


 闇の中を抜けるとその先は――


 真っ白な空間に一軒家が建っていた。


 二階建ての城壁のこぢんまりとした家屋だが、古びた様子もなく外観は綺麗なものだった。


「家……だな。この中がさらに迷宮になってるんだろうか。二人ともちょっと待っていてくれ。中の様子をうかがってくる」


 ミミッ子は「死ぬ時は一緒ですってばロジャーさん」と着いてくる気満々だが「イル美を守ってやってくれ」となんとか説得した。


 イル美はイル美で「ロジャー氏、どどどどうかご武運をデス」と、自分で作った迷宮世界なのにこの調子である。


 俺は左手に双短剣の片方を構えつつ、家の中へと踏み込んだ。




 一回の玄関からリビングやダイニングにキッチンなども確認する。


 なんとトイレに風呂までついており、どこからか流れてくるお湯が浴槽を満たしていた。


 魔物の気配は感じられない。


 二回には部屋が三つ。どれも寝室で家具も一通り揃っている。


 その一室から窓を開けると、外で待機するミミッ子とイル美を俺は呼んだ。


「罠や魔物の気配は無さそうだ。入ってきていいぞ」


 ミミッ子が両腕を万歳させた。


「魔物ならここにいるじゃないです? まったくその油断が命取りですよロジャーさん!」


 いやまあ、そうね。そうなんだけどね。


 二人が玄関の扉を開けるのを確認して、俺も一階に降りた。


 ミミッ子がリビングのソファーに寝そべってゴロゴロしている。一番居心地の良さそうな場所を速攻で確保するあたり、さすが元祭壇に祭られし宝箱だ。


「わああ! 外から見た感じより広いですね。イル美ちゃんこれ、本当に迷宮なんです?」


「ははははいデス。えっと、ミミッ子さんに一度食べられちゃったからかもしれないんデスけど、今のボクだとこれが精一杯みたいで……」


 ソファーの前に立ってイル美はもじもじと膝をすりあわせながらうつむいた。


「逆に言えばこの空間をいつでもどこでも出せるってことか?」


「はいデス。これでも迷宮核デスから」


 ミミッ子がソファーから跳ね起きると、キッチンに向かった。


「ロジャーさんロジャーさんお宝発見伝です!」


「どうした騒々しい」


 イル美を連れてダイニングと併設されたキッチンに足を運ぶと、コンロの火をつけたり消したりしながらミミッ子が笑顔になった。


「部屋の灯りは魔力灯だしマジックコンロにマジック冷蔵庫にマジック上下水道完備ですよ? 住めますここ!」


 確かに。あれ? イル美ってもしかしてすごくない?


 イル美が戸棚を開く。中から紅茶の茶葉が入った小瓶を取り出した。


「二人ともお茶にしませんデスか?」


 ミミッ子がすかさず食器棚から白磁のティーカップとポットを見つけてきた。


「今夜は寝かせませんよロジャーさん、うっへっへっへ」


「そのオッサンみたいな笑い方やめなさい。せっかくの美少女が台無しだぞ」


「うっへっへ……コホン。わたしはそんな下品な笑い方なんていたしませんことよ。さてとお湯を沸かさなくっちゃ。イル美ちゃんもお手伝いしてくださいね」


「はいデス、ミミッ子氏」


 二人が仲良く紅茶の準備をする間、俺はこれから先の事をぼんやり考えた。


 魔王を倒す勇者でもなく、盗賊王を名乗ってはいるが一冒険者のソロ専な俺に宝箱と宝物が仲間になってしまったわけだが……。


 考えがまとまらないままダイニングテーブルに着いていると、ほどなくして紅茶の良い香りが鼻孔をくすぐった。


 とりあえず馬小屋の藁よりは寝心地の良さそうなベッドもあることだし、今夜一晩ゆっくり休んでから考えることにしよう。


 幸い、二階の部屋は三つあった。一人一室使える計算だ。

令和もよろしく~

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