↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/39

EP4-1 テキスト

挿絵(By みてみん)

小日向三葉


「一海、起きて」

「ん……三葉?」

 

 俺が目を開けると、遥がベッドサイドに立っていた。……頬を膨らませて。

 俺の頭は一瞬で目覚めたが、次の言葉は出てこない。


「三葉ちゃんがよかったの?」


 やらかした……。俺は布団で顔を半分ほど隠した。


「ねぇ、もう一回起こすところからやらない?」

「もう!」


 遥に布団を剥ぎ取られてしまった。


「今日は学校にちゃんと行くの」


 そういえば、昨日は学校サボったんだったな。


「わかったよ。起きるよ」

「もうみんな朝ご飯食べ終わったわよ」


 俺の分のご飯とみそ汁がテーブルに置かれていた。今日のみそ汁は豆腐とワカメ。よくもまぁ毎日こんなの作れるよな。ほんとに感心する。

 朝ご飯を食べ終えると、部屋に戻って学校の準備をした。

 俺は教科書やノートと一緒に『選手のためのこころの教科書』もカバンに入れた。

 今の俺にとって数学や英語なんてどうでも良くて、授業中はずっとその本を読んでいた。こんなに真剣に本を読むのは生まれて初めてかもしれない。

 休み時間になっても、俺は自分の席で本を眺めていた。


「一海、熱心になにを読んでるの?」


 三葉が隣の席の机に腰掛けながら話しかけてきた。


「スポーツ選手のメンタルケアの本だよ」

「ふーん。遥さんのため?」

「そうだよ」


 俺は本を閉じて、三葉の方を向いた。


「調子悪いの? 遥さん」

「あぁ、タイムが伸びないそうだ」

「一海もさ、大会前にどうしたらもっと速くなるんだろうって言ってたね」

「そう……だったかな」

「あ……ごめん。また昔の話しちゃった」

「……あぁ」


 そりゃ、こんな本を読んで、陸上の話をしてたら思い出したくもなるよな……。


「便所」


 俺はそう言って立ち上がった。


「ね、ねぇ一海?」

「あぁ?」

「遥さんにもっと色々教えてあげたら?」

「俺より速いヤツになにを教えるんだよ」

「選手の方が速いに決まってるじゃない」


 そうか。遥の方が速いから教えられないんじゃないんだ。俺がなにを教えればいいか、わからないだけなんだ。


「サンキュー三葉」

「やっと笑った」

「あ?」

「一海が難しい顔してたら、遥さんも不安になるじゃない」


 俺は三葉の頭を撫でようと手を伸ばしたが、途中で思いとどまった。


「なによ?」


 三葉が怪訝な顔で俺を睨みつけている。

  そんな顔を見ていると、結局止められなくて、三葉の頭を撫でてしまっていた。

 三葉も三葉で、こちらを睨みつけてはいるが、手を払ったりはしない。

 こんなことをしてるから、遥も不安になるんだとわかっている。これがもう最後かもしれない。そう思うと、いつもよりゆっくりと、三葉を感じながら撫でてしまっていた。


「いつまでやってんのよ……」


 赤い顔をした三葉は立ち上がって、俯きながら自分の席に戻っていった。

 ありがとう三葉。俺のするべきこと……いや、やりたいことができた。

 俺はそのまま学校を抜け出すと、書店へと向かった。


「公式テキスト……」


 陸上競技のコーチングについて、連盟が公式に出版しているテキストもあるようだ。

 スピードを高める練習。スプリントの鬼。こういう本っていっぱいあるんだな。知らなかった。

 良し悪しはわからない。俺は目についた本を三冊買って家に帰った。


 ソファーに寝転がって、とりあえず公式テキストを開いた。

 当然だが、思っていたよりずっと難しい。誰よりも速かった俺は、速くなる方法をよく知らなかった。

 本を閉じて天井を眺めていた。そういやまた、学校をサボってしまった。朝から遥に怒られたと言うのに。帰ってきたらまたうるさいだろうな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。