表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コメディ!?シリアス!?記憶操作!? このハッカー、ネーミングセンス皆無につき。~都市伝説《K》の正体は、ミルクティーを愛する無自覚系女子高生~   作者: R.D
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

第六話 探偵と偽物のKとジェノサイド

 とある平日の昼休み。


 私は2年C組の自席で、机に突っ伏して「死体」のふりをしていた。


 先日、生活指導の剛田先生に「今日来ないと留年だぞ」と脅されたため、しぶしぶ登校したのだ。


「……おいっ、秋月が来てるぞ」


「関わるなよ、スマホのデータが消えるってもっぱらの噂だ」 


 ヒソヒソ声が私にも聞こえる……、せめて私に聞こえないことで話してよ!


 ……ああ、帰りたい。家の布団とモニターの灯りが恋しい。


 狸寝入りをしている私の耳に、クラスの女子たちの、別の噂話が飛び込んでくる。


「ねえ、見た? 掲示板の書き込み」


「見た見た! 2組の権田原くん、『俺が『K』だ』って書いてたよね」


「あの人、前から『闇のプログラマー』とか自称してて痛いんだよね……」


 ……へぇ。


 どうやら、私の偽物が現れたらしい。


 まあ、有名税というやつか。放っておこう。


 というか、『K』を名乗ってなんの得があるのよ。


「それより、探偵業で休学していた高校生探偵の西園寺先輩が学校に来てるらしいよ!」


「え、あのイケメン探偵の西園寺先輩!? なんで?」


「その書き込みの捜査だって! 偽物かどうか確かめに来たらしいよ、『K』様々ね」


 私はピクリと眉を動かした。


 探偵。


 一番関わりたくない人種だ。


 さっさと授業を終わらせて、影のように帰宅しよう。私はそう心に誓った。



 しかし、運命は私を逃してくれなかった。



 放課後。


 帰ろうとする私の行く手を阻むように、隣の教室の前が人だかりで埋め尽くされていたのだ。


「フッ……。先日の銀行ハック、あれは少しやりすぎたかな」


 中心にいるのは、指ぬきグローブをはめた男子生徒――権田原ごんだわらくんだ。


 彼は前髪をかき上げながら、陶酔しきった顔で語っている。


「俺の『闇の左手』が疼いてしまってね。セキュリティホールが見えちゃうんだよ、直感でさ」


「へー、すごーい」


 クラスの誰かが、棒読みで相槌を打っている。


 ……うわぁ。


 人垣の後ろで、私は共感性羞恥に震えていた。


 見ていられない。


 あのハッキングは「闇の左手」じゃなくて「オムライスへの食欲」だし、直感じゃなくて地道なポートスキャンだ。


 ───それにそもそも私は銀行には手を出してない。


 あんなのを『K』だと思われるのは、私のブランドイメージに関わる。


 その時だった。


 カツ、カツ、カツ……と、整然とした足音が廊下に響いた。


 人垣が、モーゼの十戒のように割れていく。


「……君か。SNSで『銀行ハックは俺の仕業』と吹聴しているアカウントの所持者は」


 現れたのは、知的な眼鏡をかけた長身の少年。


 この学校の有名人らしい高校生探偵、西園寺玲だ。


 彼はスマホの画面――権田原の痛々しい投稿――を見せつけながら、鋭い眼光を向けた。


「な、なんだお前は! 俺の崇高な儀式を邪魔する気か!」


「西園寺だ。君の話を聞かせてもらおうか」


 西園寺先輩は、冷静に問い詰めた。


「君は銀行のセキュリティを破ったと言ったね。では、どのような手法を使ったんだ? SQLインジェクションか? それともゼロデイ攻撃か?」


「えっ? そ、それは……き、気合いでエンターキーを……」


「気合い……」


 西園寺先輩は、深いため息をついた。


「はぁ。失望したよ。実際のログに残された痕跡とも、君の証言は矛盾する。君はただの偽物だ」


「なっ……!」


 公開処刑だった。


 クラスメイトからクスクスと笑い声が漏れる。


 顔を真っ赤にした権田原くんは、逆上してカバンからノートPCを取り出した。


「う、うるさい! 証明してやる! 今ここで学校のサーバーをダウンさせてやるよ!」


「やめたまえ。君ごときに何ができる」


「見てろ! 俺の『最終兵器』を食らえ!」


 彼が起動したのは、怪しげな黒い画面のソフトだった。


 遠目から見ても分かる。あれは……。


 ……はぁ。


 私はストローを噛み潰しそうになった。


 あれは、海外の掲示板に転がっている、ただの「|DDoS攻撃、連打ツール」だ。


 技術もへったくれもない。


 ただ大量のデータを送りつけて、回線をパンクさせるだけの野蛮な兵器。


 ……学校の回線でそんな汚いもの撒かないでよ! 美学がないわ!


 そんな「力技」を『K』の仕業にされたら、末代までの恥だ。


 私はポケットの中のスマホを操作した。


 権田原くんが、叫びながらエンターキーを振り上げる。


「食らえぇぇぇ!!」


 その指がキーに触れる、数秒前。


 私は学校のローカルルーターを経由し、彼のPCの通信権限を物理的に遮断。


 同時に、攻撃ツールを強制終了させ、デスクトップの壁紙を書き換えた。


 ッターン!!


 権田原くんがエンターキーを叩く。


 しかし、何も起きない。


 代わりに、彼のPC画面いっぱいに、ポップ体でデカデカとこう表示された。


 『宿題やった?』


 ────『K』


「……え?」


 権田原くんが凍りつく。


 画面を見た周囲の生徒が、どっと吹き出した。


「ぶっ! なにあれウケるw」


「宿題だってよw」


「パソコンが勝手に……!」


 その中でただ一人、西園寺先輩だけが戦慄の表情を浮かべていた。



「……本物だ」


 彼は周囲を見回した。


「今のタイミング、そしてこの皮肉の効いたメッセージ……。本物の『K』が、この場を監視していたんだ。『K』はこの近くにいる……!」


 鋭い視線が、教室中を走る。


 そして、教室の隅にいた私で止まった。


 私はとっさに、スマホの画面をゲームに切り替え、興味なさそうにスマホゲームにプレイし始めた。


 魔法少女ミラクルコスモスののコラボガチャがやってる!こんなことを見落としていたなんてオタク失格だわ。


 そんな私を西園寺先輩はじっと見つめ……そして、ふっと表情を緩めた。



 ――――……あの女子生徒。この異常事態に、驚きもせずスマホゲームに夢中とは、危機感がないのか、あるいは……単に『鈍い』のか。


 どちらにせよ、『K』のような鋭利な知性は感じられない。彼女はシロだ。――――




 彼は私に歩み寄ってきた。


「そこの君。大丈夫かい? 騒がしくしてすまない」


「へ? あ、はい。別に……」


「賢明な判断だ。あんなノイズに関わっても時間の無駄だからね」


 彼は懐から一枚の名刺を取り出し、私に差し出した。


「僕はKを追っている西園寺だ。もし何か、変わったことや気づいたことがあったら連絡してくれ」


「はぁ……どうも」


 私は名刺を受け取った。


 彼は「君のような一般生徒が巻き込まれなくてよかった」と言い残し、颯爽と去っていった。


「……ふぅ」


 私は小さく息を吐いた。


 危なかった。


 でもまあ、これで「私は無害な一般人」というお墨付きをもらえたわけだ。


 結果オーライとしよう。


 私は空になったミルクティーのパックをゴミ箱に捨て、足早に学校を後にした。



 学校から帰宅した私は、速攻で部屋着用の制服に着替え、PCの前に座った。


「……はぁ。疲れた」


 久しぶりの登校、そして予期せぬトラブル。


 権田原くんとかいう偽物のせいで、私のMP……、メンタルポイントは枯渇寸前だ。


 私は癒やしのミルクティーを補給しながら、ふと、学校での会話を思い出した。


『『K』って、迷惑なハッカーだよね』


『犯罪者でしょ? 関わりたくないわー』


「……解せぬ」


 私はむくれた。


 おかしい。私の活動はいつだって紳士的で、親切で、平和的なはずだ。


 バグバウンティだってこなしているし、迷惑をかけるようなハッキングはしたことがない。


 せいぜいデータをちょっと見るだけ、改竄なんてしてないし、お邪魔したサーバーには失礼しますの空のフォルダを置いて帰ってる。


 私ほど善良なホワイトハッカーは他にいないというのに。


 なのに、なぜ世間では「悪のカリスマ」扱いなのか。


「検索:『ハッカー』『K』」


 私はSNSを検索した。


 すると、出るわ出るわ。


『『K』だ。某アイドルの公式サイトをダウンさせたのは俺だ』


『『K』参上。クレカ情報ばら撒くぞ』


『我は『K』なり。世界の崩壊を望む者……』


「…………あー」


 私はポンと手を打った。


「分かったわ。これ全部『偽物こいつら』のせいだ」


 私の評判が悪いのは、私がやらかしたからじゃない。


 承認欲求モンスターたちが、私の名前を騙ってセコい悪さをしているから、私のブランドイメージまで下がっているのだ!


「許せない……! 私のクリーンな名を汚すなんて!」


 私は怒りに震えた。


 人様の名前で悪事を働くなんて許せない。


 お掃除だ。この街から、私の偽物を一人残らず駆逐してやる!


 私はキーボードに手を置いた。


 最初は、一人ひとり特定して、恥ずかしい画像に変えるとか、イタズラをしてやろうかと思ったけれど……。


「……いや、偽物多すぎでしょ……」


 愕然とした、偽物は百人以上いる。


 数人とかなら相手のリアクションを見て悦に浸かりながら懲らしめてやろうと思ったけど、百人はちょっと、時間の無駄になる。


 私は今すぐアニメが見たいのだ。あの魔法少女ミラクルコスモスの続きを。


「まとめてやっちゃおう」


 私は一番「手っ取り早い」方法を選んだ。


 『自称K』や『Kを名乗るアカウント』をリストアップしていき本人を特定、そして。


 ────全データを削除する。


「はい、さようなら」


 慈悲も、警告も、猶予もない。


 ただ「ゴミ箱を空にする」感覚で、私は彼らのデジタルな存在を消し飛ばした。




 一方その頃。


 探偵・西園寺玲は、自室で複数のモニターを監視していた。


「……動き出したか」


 画面の中で、監視していた『K』と名乗るSNSのアカウントが次々と「消失」していく。


 凍結ではない。アカウントそのものが、痕跡すら残さず消え失せていくのだ。


「やはり、今日の学校での一件がトリガーになったか」


 西園寺は眼鏡を光らせ、戦慄する。


「『K』は、権田原という氷山の一角を見て、水面下に潜む全ての偽物を『粛清』する決断を下したんだ」 


 きっと自分の名前『K』のブランドを大事にしているのだろう、権田原みたいなのが『K』を許せないのは分かる。


 だがその手口は、西園寺の想像を絶するほど「無慈悲」だった。


 『俺こそが『K』だ』と書き込んでいたアカウント。


 そのユーザーページにアクセスすると『404 Not Found』が表示される。


 それだけではない。彼らの過去ログ、画像、フォロワー情報……。ネット上に積み上げてきた全ての「生きた証」が、一瞬にして「無」に帰している。


「……なんて、大雑把で暴力的な力だ」


 西園寺は息を飲んだ。


 個別に警告するわけでも、社会的に抹殺するわけでもない。


 ただ、「存在しなかったこと」にする。


 まるで神が、気に入らない歴史を修正テープで消すかのように。 



「ギャー! 俺のスマホが初期化されたー!?」


「PCの中身が空っぽだ! バックアップまで消えてる!」



 ネットの各地で、偽物たちの断末魔が上がる。


 彼らはネット上のアイデンティティだけでなく、手元のデバイスのデータまで丸ごと消去されたのだ。



「恐ろしい……。自らのブランドを守るためなら、一切の選別を行わないとは」


「まさに、『デジタル・ジェノサイド』……」



 西園寺は、モニター越しにKの底知れぬ「虚無」を感じ取り、背筋を凍らせた。


 やはり『K』は、話の通じる相手ではない。絶対的な支配者だ。手遅れになる前に、僕が止めないと



 704号室。



「ふぅ、スッキリした!」


 私は伸びをした。


 偽物のアカウントと、ついでに彼らのPCに入っていた「悪さをするためのツール」もろとも、丸ごとフォーマットしてあげた。


 これで彼らも、ネットから離れて健康的な生活を送れるだろう。


「やっぱり、お掃除って大事よね。部屋が広くなった気分」


 私は満足げに頷き、ミルクティを啜った。


 自分の大雑把な作業が、探偵に「慈悲なき粛清」と解釈され、緊張感を極限まで高めていることなど、知る由もなく。


 こうして、北市のネット環境は、今日も更地にされたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ