プロローグ
【プロローグ】
「俺、宝塚音楽学校に入りたいんです」
宝塚音楽学校の受験に関する相談はよく受ける。それで仕事をしているので当然だ。だから別に協力することは、やぶさかでない。
(俺……)
ただ私は、目の前に座った青年を、異常者を見る目で見たと思う。
自分の孫といっていいくらいの年齢とはいえ、ほぼ初対面な人に対する態度としては失礼極まりない。
「えぇーと、あなた男性……、だよね」
男性に相談されたことはこれまで無かったから。
目の前の少年は線が細く、身長もそこそこ。中性的な見た目をしている。整った外見と言っても過言ではないだろう。
「その、性の不一致とか?」
近年性に対する認識は、非常に繊細な問題となっている。
そういったやむに已まれぬ事情なのかと確認する意味で、もう一度、男の子に問いかけた。
「普通の男です」
どうやら目の前に座った子は、そういった事情も一切無いような、普通の男の子。
宝塚音楽学校に入るための入試要件は十五歳から十八歳であること。
受験時に中学卒業あるいは高等学校卒業又は高等学校在学中、卒業後宝塚歌劇団生徒として舞台人に適するであり、
大前提として、女性であること。
「先生の教室に入れてくれませんか? 自分が宝塚音楽学校に入るために」
目の前に座った男の子は、堂々と、自分のやっていることは間違いないと言わんばかりに、まっすぐな目でこちらを見ている。
(さて、どうするか)
宝塚受験のための講師歴が半世紀近い私でも、初めての事態だった。
これは、しっかりと考えて判断していかなければならない。




