第82話 王子と死霊使い
時間は少し前に戻る。
バタフィー王子は、先日感じた不快な魔力について調査を続けていた。
学園が終わった後でも、不快な魔力の発生源を探して王都の中をお忍びで歩くなどして、とにかく学園で感じたあの不快感の根源を探し続けていた。
(うん?)
そんな中で、バタフィー王子は一軒のお店の前で思わず立ち止まってしまう。
「ここは?」
「はい。最近オープンした宝石商ですね。貴族のご婦人方がこぞって買いに来られるとか、ちょっとした噂になっております」
「……そうか」
ついてきた護衛の声に、バタフィー王子はつい視線を上下に動かして、店をしっかりと見てしまう。
それというのも、学園の食堂で感じたあの嫌な感じが、この店からうっすらではあるものの感じられてしまうからだ。
(実に不愉快だな。これはちょっとばかり、探りを入れてみるしかなさそうだ)
そう思ったバタフィー王子は、くるりと振り返って城へと戻っていく。
あまりにも急な行動に護衛も戸惑っていたが、バタフィー王子はまったく立ち止まることなく、足早に自室へと戻ってしまった。
それから数日後のこと、バタフィー王子のもとに、見張りに出ていた者から報告が入る。どうやら、例の宝石店で動きがあったらしい。
報告を受けたバタフィー王子は、すぐさま外へと飛び出していく。
辺りは完全に日が落ちてしまっていて真っ暗だが、なにかと怪しい感じのしていた店が動きを見せたのだ。バタフィー王子の直感が何かを告げているということもあり、馬を駆って城を飛び出していく。
人通りの少なくなった王都の中を颯爽と駆け抜けていくバタフィー王子は、あっという間に外まで出てしまう。
動きがあったことの報告を受けたが、何が起きているのかという正確なことはまったく知らない。だが、バタフィー王子は何かをひしひしと感じ取っているようである。
(こっちだな)
その感覚に従い、バタフィー王子は馬を駆って、暗闇の中を突き進んでいく。自分が感じる何かを信じて、ただひたすらと、一心不乱に馬を駆り続けた。
闇夜を突き進んでいくバタフィー王子は、不意に何かを感じて馬を止める。
(この感じ、実に不快だな。あの魔族を前にした時以上に不愉快だ)
少し前に進むと、思わず頭を押さえてしまう。
「殿下、大丈夫ですか?」
どうにかついて来れた部下が声をかけている。
だが、バタフィー王子は、手を上げて部下を制止してしまう。
大丈夫だと言っているのだと思われるが、部下は何か異様な雰囲気も感じているようだ。
「お前はここで待機していろ。馬も頼むぞ」
「はっ! しかし、殿下は?」
「なに、心配するな。ちゃんと戻ってくる」
バタフィー王子は馬から降りると、部下を残して一人で先に進んでしまった。
ひしひしと感じる不穏な魔力。間違いない、学園の食堂で感じたものとよく似ている、
ゆっくり進んでいくと、妙な声が聞こえてくる。
「死体はー、まーだあるのですよー?」
その声が響き渡ると同時に、地面が盛り上がっていく。そうかと思えば、人や魔物といったものの死骸が次々と地面から現れていた。
だが、バタフィー王子に気を止めることなく、何かに向けてゆらゆらと歩いていっている。
その様子は実に気味が悪いというもので、バタフィー王子は思わず鼻を押さえてしまうくらいだった。
その状態のまま、バタフィー王子は目を凝らしている。闇夜の中から、ド派手な道化師の姿が浮かび上がってくる。道化師を見た瞬間、バタフィー王子は直感する。
「魔族は……消し去ってやる!」
腰に下げた剣に手をかけ、力を込めて一気に振り抜く。
「うおっ! なーんですかー?!」
突如として襲い掛かってきた、骸たちを真っ二つにする一閃。余裕を見せていたクラウンすらも、突然の攻撃に慌ててしまうほどだ。
「見つけたぞ、魔族。王国の平和を乱す者は、この俺が成敗してくれる!」
「お前は!」
剣を構えてクラウンを睨みつけるバタフィー王子。王子の姿を見つけたクラウンは、驚いていたかと思うと、にやりと不気味な笑みを浮かべ始める。
「なーるほどでーすねー」
そうつぶやくと、パチンと指を鳴らす。
スォームビートルたちに襲い掛かろうとしていた骸たちが、一斉にバタフィー王子へと視線を向ける。
「むーしけらどーもよりー、お前の方がー、価ー値がありそうでーす! ひゃーっひゃっひゃっ! ミーの可愛いお人形たち、やつをやーっておしまいなさーいっ!」
クラウンが命令を下すと、骸たちは一斉にバタフィー王子へと襲い掛かっていく。
ところが、バタフィー王子が剣をしっかりと握りしめてひと薙ぎすると、骸たちはあっという間に動かなくなってしまう。
「この程度か?」
「ちっ。ですが、まーだまだ、死体はあるのでーすよーっ!」
クラウンが両手をかざすと、ぼこぼこと地面の中から骸たちが起き上がってくる。
ところが、その骸たちを見たバタフィー王子は、瞬時に剣を振るって、骸たちを地面へと追い返していた。対処が早すぎる。
「で、まだその妙な手品でも使うつもりか?」
剣を振り下ろした体勢のまま、バタフィー王子はぎろりとクラウンを睨みつける。
バタフィー王子の雰囲気にのまれそうになるクラウンだったが、更なる抵抗をするために、再び手を高く掲げるのだった。




