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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第80話 虫と道化師

 王都に向けて、小さな集団が移動している。

 クロナが新たに眷属化した虫の集団である。その数は数百にものぼるため、まとまって移動する様子はまるで巨大な何かが走っているようにも見える。


『聖女様のご命令だ。イクセン王国の王都をしっかり監視するぞ』


『おおーっ!』


 虫たちはものすごく気合いが入っている。

 この虫の群れの正体は、スォームビートル。群れることで強さを発揮する魔物である。

 ここの大きさはとても小さいが、数十匹単位で行動することが多く、群れた場合は大きな魔物ですらもひとたまりもないほどである。

 アサシンスパイダーやキラーホーネットなども住む、国境の森の深淵に生息する魔物らしい強さを持っているのだ。

 ちなみにアサシンスパイダーやキラーホーネットですらも、このスォームビートルには負けることもあるのだという。なんとも恐ろしい魔物である。


 闇夜に紛れて王都へと向かうスォームビートルたち。その使命は、クロナの代わりにイクセンの王都の中を監視すること。何か異変があれば、すぐさまクロナに報告するように命令されている。

 その使命を果たすべく、スォームビートルは愚直に突き進んでいくのだった。


 ようやくイクセンの王都にたどり着いたスォームビートルたちだったが、早速異様な雰囲気を感じ取っていた。


『気持ち悪い』


『なんだ、この不快な魔力は……』


 魔物であるはずのスォームビートルたちが、露骨に嫌がる様子を見せたのである。一体何が起きているというのだろうか。


『変な魔力』


『どこからか突き止めないと』


『聖女様のため、場所を特定する』


 虫というものは、嫌なものがあれば素直に退散するところだ。

 ところが、聖女であるクロナから命令を受けたスォームビートルたちは、自分たちの本能よりも、クロナの命令を優先させている。なんともけなげな魔物たちである。

 王都に到着したスォームビートルたちは、その数の多さを利用して、王都のあちこちへと散っていく。とはいえ、名前が名前なので、十匹ほどの集団をいくつにも分けてという形で行動している。

 最初の調査は、到着してそうそう感じ取った気持ち悪い魔力の発生源だ。

 魔物たちが不快に思う魔力というのはいくつもあるが、本来気持ち悪いはずの神聖魔力は、クロナの影響によって大したことがなくなっている。

 ならば、魔物たちにとって何が気持ち悪い魔力なのだろうか。

 スォームビートルたちはそれを探るために、王都の中をくまなく探索していく。

 その中の一団が、王都の中にあるとある店にたどり着いた時だった。


『ここがにおう』


『これは酷い魔力』


『腐ったにおいがする』


 魔物をして、酷い言われようである。

 そこはどこなのか。

 わずかな隙間から、スォームビートルたちは中の様子を窺う。

 そこには、カタカタと震えながら動く骸たちがいた。


『死者を操っている』


『これはにおうはず』


『死に関する魔力はくさい』


 虫たちにもものすごく不評のようである。


『これは、すぐさま聖女様に報告だ』


『こんなことを放ってはおけない』


『急ごう、誰か来る』


 ひょこっと顔を出していたスォームビートルたちは、隙間の中へと素早く逃げ込んでいく。


 しばらくすると、地下室の扉がバンと開く。

 扉の向こうから現れたのは、細目で張り付けたような笑顔をした人物だった。そう、魔族のクラウンである。


「おーかしーでーすねー。変な気配をー、感じーたのでーすがー?」


 クラウンは部屋の中をくまなく見つめている。だが、部屋のどこにも怪しいものを見つけることはできなかった。

 だとしたらさっきの気配は何だったのだろうか。クラウンはあごに手を触れながら、首を小さく捻っている。


「いーけませーんねー。ミーも疲れーているのでしょうかねー。イクセンをー内部からくーずすたーめにー頑張りまーしたかーらねー。適度ーにやーすむとしーましょうかー」


 クラウンは眉間に指を当てながらそう言うと、部屋の扉を閉めてそのまま立ち去っていった。

 スォームビートルたちは、壁の向こう側に潜んだまま、ぶつぶつと話し合っている。


『あれは魔族だ』


『死霊使いのクラウンだ。聞いたことがある』


『すぐに聖女様に報告だ』


『気付かれないうちに急ごう』


 気配を察知されないように気をつけながら、いきなり当たりを引いたスォームビートルたちは土の中を移動していく。

 それにしても、魔族のことやらクラウンのことやら、一体どこで知ったというのだろうか。魔族もさることながら、魔物たちも謎の多い存在である。


 スォームビートルたちが立ち去った後、部屋で休んでいたクラウンは顔を押さえている。


「虫けーらごーときがー。ミーが気付かないと思ーってますかねー」


 なんということだろうか。クラウンはスォームビートルたちが地下にやって来ていたことに気が付いていたようだ。

 そう、一芝居を打っていたのだ。


「妙な魔ー力をー感じまーしたからー、泳がせたのでーす。時を見計らーって、すーべてをーぶっ殺してやーるまででーすよー。ひゃーっひゃっひゃーっ!」


 部屋の中には、クラウンの不気味な声がこだまする。


 魔族によるイクセンの侵攻を突き止めたスォームビートルたちは、無事にクロナたちに報告できるのであろうか。

 クラウンの不気味な笑みが、その姿を捉えようとしているのだった。

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