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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第2章 アスモダの深淵で見たもの
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第10話 ついに魔王の眷属誕生……スパッと決めるつもり、全然ないでしょ

遅くなりました。

タイトルは後で付けます。

 宿の食堂では、ケイアナたちが部屋へと引き上げた後も冒険者たちが残っていた。

「ゲイズよお、あのまま切り捨てられなかったことには感謝するけど、どういうことなんだ? 」

 キューダが問い、周りでほかの男たちが頷いている。

 その様子と少し困惑しながら残っているリーラさんの方を見ながら、ゲイズは説明すべきことを整理していた。


「ええっと、魔王妃と絆を結ぶ方法ですが、お互いの信頼が重要ですよね。

 それで、王太后様からは、私たちがセイラさんたちに恋愛感情を押しつけても一方的な思いの押しつけでしかないと切り捨てられそうになった。

 だから私は、自分がセイラさんに寄せている思いは2人が楽しく過ごしていくために必要な場所である国とセットになっていて、その点で信頼の絆を結ぶことができるはずだと主張した訳です。」

 ゲイズの説明に、ふうむ、と男たちが考え込んでいるところへ、ゲイズがついでのようにこう付け加えた。


「だから、私はセイラさんと国を護ることを誓うことにして、セイラさんを抱きしめながら誓おうと思ったんですが、どうやらセイラさんに気取られました。」

「気取らせるんじゃねえよ!

 っていうか、お前、王太后様の前で、そんなことをしようとしていたのか。」

 思わず突っ込むキューダにゲイズが外連味(けれんみ)のない笑顔を向けた。

「だって、ああいう場でセイラさんへ大胆にアピールして印象づけられれば、皆より確実にリードできそうじゃないですか。」


 おまっ、と絶句して固まるキューダさんに、ゲイズはついと表情を戻して続ける。

「でも、それもセイラさんに読まれたみたいです。

 場所だけでなく、そこで一緒に生きている人たち、それもひっくるめて護るのが国を護るということだと言われました。

 そして、国を護るためには、今一緒にいる仲間が信頼の絆で結ばれてお互いを護りながら戦っていくことが大切で、そのことをきちんと踏まえて誓ってくださいと釘を刺されてしまいました。」

「それ、頭では分かってもふんわりとしていて、なかなかイメージが難しいと思うんだ。どういうふうにイメージすれば良いと思う? 」

 カウスがゲイズに尋ねた。


 カウスたち落雷の轟きのメンバーは一番最初からセイラたちと行動を共にしているが、まだ眷属の称号を得られていない。

 落雷の轟きのメンバーはこれまで、随分と悩んできたのだった。

「私のイメージでは、テルガの町で父さん母さんや近所の人なんかの真ん中にセイラさんを抱きしめた俺がいて、それとは別に王太后様とセイラさんの2人を中心に、周りにチームリーダと各メンバーを並べたイメージを作って、テルガの町のイメージにオーバーラップさせる感じでこれを全部護るぞと、そんな感じで良いんじゃないかと思っていました。」

「テルガの町の真ん中が気に入らないが、俺たち全員で大切なものを護るイメージか。

 だが、どうせならば国の中心にセイラさんを抱いた自分の隣に王太后様がいて、その周りに人が集まって、外側を皆が固めて護っているというのはどうだ? 」

「いや、それは皆との信頼という意味で…… 」

「誓いに女性の私が聞いて引くようなことをイメージするって、どういう神経をしてるんですかっ。」

 ………………

「おい、俺たちが仲間だというイメージはどこに行った。」

 ………………


 冒険者たちの相談は、だんだんとそれぞれが自分の考える最高の妄想をぶつけて磨き合う場に変わり、過激な妄想に誰かが突っ込んで潰してを繰り返すうちに夜は更けていき、やがて夜明けを迎えた。 


◇◆◇◆


「さあ、それでは皆さんの心構えを誓って頂きましょうか。」

 母様と俺が並んで冒険者たちの前に出ると、カウスさんと横並びで5人のパーティリーダーが跪き、その後に各パーティのメンバーが続いて跪いた。

 それぞれが胸に手を当てて頭を垂れ、カウスさんが誓いの言葉を述べ、母様と俺が声を揃えてそれに応える。

「我々はここ居並ぶ仲間とともに故国の地と人を護ることを魔王妃様に誓います! 」

「「その誓い、(しか)と受け取りました。」」


 静まりかえった冒険者たちの間からぼうと光が漏れて、眷属が誕生した。

 カウスさんとキューダさんとゲイズさんの3人だけ。

「……あ? できた? 」

 初めは呆然として、それから安堵の息を吐く3人と、それを見詰める21人。


 と、そこへ俺の隣でぼうと明かりが点いた。

「ティルク? 」

「えへへ。皆が強くなるなら、私も参加しなきゃと思って。」

 ペロリと舌を出しながら、ティルクが俺に笑いかける。

「魔人族の絆なんだから、ティルクが無理をすることないのに。」

「それを言うなら、姉様だって人族でしょ。

 国王様の妻でもないのに、ガルテム王国のために魔王妃をやる必然性だってないじゃない。

 それに私、姉様と一緒に強くなりたいもの。」

 ティルクの言い分が何だかいじらしくて、ティルクの頭を撫でると、ティルクはくすりと笑って軽く腕に抱き付いてきた。


「ちょっと待って! もう1回、今度はもっと上手くイメージするんで、もう1回お願いします! 」

 冒険者たちの方ではリーラが声を上げて王太后様に頭を下げると、ほかの冒険者たちも頭を下げてお願いをしてきて、母様が俺の方へ視線を向けてきて、仕方ないねえ、と冒険者たちを見る仕草をしていて、俺も頷いた。

「みんな頑張れっ、もっと気持ちを込めろっ! 」

 カウスさんが(げき)を飛ばして、称号が付いた4人が応援する中で、リーラさんが誓いの言葉を述べて俺たちが応えて、落雷の轟きのメンバー3人とマイスさん、ソルグさんとあと1人に光が点る。


 残った中から何人かがまたお願いをしてきて、誓いを述べて称号を得る。

 称号を得た人は歓声を上げたりへなへなと崩れ落ちたりしながら、すぐに残った人たちへの応援へと回り、たぶん受けた声援を足りなかった思いの部分へと足して、また何人かが称号を得ていく。


 最後に残ったのはヴァルスさんだった。

 1人残った焦りで視線が落ち着かず泣きそうになっている中で、周りから応援が飛ぶ。

「落ち着いて集中しろっ。」

「頑張れ。絶対に行ける。」

 皆が口々に応援する中で、ヴァルスさんは必死になってこちらへ膝行(いざ)ってきて、俺と母様の腕を掴んで(すが)り付くようにして(うつむ)いた。

「「「おいっ!……」」」

 何人かが(とが)め掛けたが、ヴァルスさんの必死な様子にそれ以上は言わなかった。


「お、俺、上手く言えないけど、皆と一緒に頑張りますっ!

 王太后様やセイラさんや周りのみんなとずっと鍛えて戦って、故郷の親や友達や近所の人たち……やペットのグランやお城の人たちや国王様や俺に宝物の指輪をくれた武器屋のタンガさんや、雑貨屋の奥さんで昔よく相手してもらったミューダさんやその御主人のセユルさんやその隣の金物屋の……」

 たどたどしく誓いの言葉を述べて、それだけでは称号が付く様子がないことに慌てて最後に呪文のように知っている人の列挙し始めたヴァルスさんの声に泣き声が混じり始めた頃、ぼ、とヴァルスさんに明かりが点った。


「! 」

 自分の体の様子に変化があったのに気付いたヴァルスさんが顔を上げて自分の体を見回し、鈍く光っているのを確認して呆然としてこちらを見る。

「うやははははっ! やったあ! 」

 そう叫んだヴァルスさんは掴んでいた俺の手を引き寄せて、バランスを崩して胸の中に倒れ込んだ俺の頭を胸の奥深くに包み込むようにして抱きしめる。


 いきなり逞しい筋肉に包まれ男の匂いが立ちこめて、俺は動転した。

「な、何をするんですかっ! 」

 思い切り掌底をヴァルスさんの腹に打ち込んで叫んだのだが、真っ赤な顔をヴァルスさんに向けてみると、数メートル吹き飛んだヴァルスさんは口から血の泡を吹いて腹を押さえることもできないまま痙攣していて、俺はヴァルスさんに駆け寄ると慌てて光魔法で治療を開始した。

 げほげほ、と血の混じった痰を吐いてヴァルスさんが腹を抱えながら体を横にして丸まるのを見て、俺はほっと安堵の息を吐いたのだが、レベル1,500の人にレベル4,000の力で手加減なしに掌底を入れれば、下手をすれば腹を突き破って穴が開く。


 突然ヴァルスさんに抱きしめられて反射的に抵抗してしまったのだが、俺の意識にはミッシュが昨日言った”独身処女”という言葉がフラッシュバックしていた。

 胸がどきどきとして、ヴァルスさんの体にすっぽりと抱き込まれた体格差に自分の体の華奢さを実感すると同時に、ヴァルスさんの体から異性の匂いも感じた。

 このままでは拙い。

 何か、意識を持ち直す手立てをすぐに講じないと、自分は普通に女の子と変わらなくなってしまう気がする。


 どうやって男の意識を持ち直そうかと、俺は考え始めた。



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