第9話 嫁を取るか、眷属になるか、それが問題? ふん、知ったことか
更新が遅くなりました。
会議は踊ると言いますが、作中人物が筆者の書いた言葉尻を捉えて予定と違う流れに話を進めようとし始めて、今回掲載した分の3倍以上を書き直して、ようやくこの形に纏まりました。
お待たせして誠に申し訳ありません。
ウェディングドレスからようやく解放されて、夕食後に浄化を掛けてドレスは元の店に返してきたのだが、戻ってくると母様から全員に招集が懸かっていた。
何ごとだろうと宿屋の食堂に行ってみるとすでにもう全員が集まっていて、母様が手招きして自分の隣に俺とティルクを座らせる。
「明日からアスモダに入るに当たって、私から伝えておきたいことがあります。」
母様はそう言って一同を見回す。
「これまでのレベル上げは、ひたすらに身体能力と技量を上昇させて基礎的な技量を磨くことに充ててきました。
しかしそれが有効なのはレベル4,000程度まで、それを超えると限界に突き当たって、基礎的な技量だけでは上がらなくなるの。
この中では、セイラがそろそろその域に入りますね。」
全員が俺に視線を向けてきて、俺は少したじろいだ。
「セイラは魔王妃の称号がありますが、魔王妃はセイラ自身がレベルを上げるのには何の役にも立ちません。」
母様が、自分で頑張ってね、と言うのを、俺は溜め息ながらに受け容れたのだが、そのすぐ後で、母様は皆の方へと視線を巡らせた。
「でも、そのほかの方は違います。
セイラと私の2人の魔王妃がいて、魔王妃と信頼の絆を結べれば魔王の眷属の称号が手に入るんです。
そうすれば魔王の眷属の称号がその人に補正を入れて、基礎的な技量の上がり方が劇的に向上するだけではなくて先祖の魔王の能力の某かを使うことができて、そこを起点にして4,000の壁を越えることができるはずなの。
私は、ここにいるうちの誰か、もしくは全員が魔王の眷属を獲得して、すぐにもセイラたちに並ぶ戦力に育ってくれると期待していました。」
冒険者たちは、魔王の眷属を得ることでもたらされるものを聞いて興奮した表情に変わったのだが、母様の次の説明で再び顔色を変えた。
「でも、それは今のあなたたちでは絶対に無理であることが、今日、よく分かりました。
先ほどセイラが花嫁衣装で歌うのを見るあなたたちの顔には、こう書いてありましたよ。
”早く強くなってほかの奴を蹴落としてでも良いところを見せて、セイラに振り向いてもらいたい。
そして、いつかあの花嫁衣装の隣に俺が立つんだ。”
中にはティルクを置き換えて考えた人もいるかもしないけど、考えていた内容は同じだったはずです。
あなたたち、やるべきことをやらずにいつまで恋愛ごっこを続けるつもりですか。」
冒険者たちが母様から顔を背けて黙り込んだ。
俺とティルクは母様にこいつらの恋愛対象だとあからさまに指摘されて、2人で腕を交差させて手を握り合って冒険者たちの様子を見ていた。
こいつらは俺が歌っていたとき、確かに皆そんな表情をしていたのだ。
「普通なら、誰かに恋をしてライバルと鍔迫り合いを演じる、そのことを悪いとは言わないわ。
だけど、あなたたちがやるべきことは、魔王妃と絆を結んで力を手に入れることでしょう?
なのにあなたたちは目の前の女の子だけを見て、魔王妃の称号とその後ろにある国家の危機を見ようとしていない。
だったら、それは魔王妃との信頼関係を結ぶ邪魔になっているのだし、皆が考えを改めない限りこの先を乗り切れないわ。
恋する感情を捨てるのが無理ならば、あなたたちの命を無駄に散らさないためにも、私たちはここで解散しましょう。」
母様の解散宣言に、冒険者たちはついと顔を上げて反論をしようとするが、言うべき言葉が口に出てこないで、一様に口を半開きにしたまま頭を落として黙り込んでいた。
「今晩、それぞれでよく考えておいてください。
明日、一応、皆の意思を確認してから出発するわ。」
そう締めくくって母様は自分の部屋に戻ろうとしたのだが、それをゲイズさんが遅まきながら反論して止めた。
「確かに、私の気持ちは王太后様の言われるとおりです。
功成り名を遂げて家を再興して愛する妻を娶る。
私はそれを夢見ていますし、ここにいる皆も、むしろその夢を見て実現するためにここにいるんです。
王太后様が仰ることは土台無理な要求だと、私は思います。」
(おお、母様に食ってかかった。)
ここしばらく、家のことやお父さんが自害したことで静かだったゲイズさんのほとんど初めての積極的な言動に、俺はゲイズさんが何を言うか、続きを待った。
「私は今日セイラさんの歌の伴奏をしていて、自分の願いについて新たな境地を得た思いでした。
たとえ功績を挙げることに失敗したとしても、愛する人を得ることができて、一緒に旅芸人としてでもこうして歌を聴かせながら暮らしていけるのなら、私はそれで充分に幸せなんだと気付いたからです。
そして、そう思って私は初めて気が付いたんです。
そんな生活を続けるためには、私たちが生きている場所が平和でないと成り立たない。
大事な人を護るために、ともに生きていくための場所を護る、私たちがこれからやろうとしているのは、そういうことでしょう?
それならば、私はこの恋を捨てる必要はない。
思いを昇華させて、愛する人をその居場所ごと護る覚悟をすれば良い、そうではありませんか。」
(このやろう、説得のダシに俺を使って、微妙に直接の言い方ではないけれど、俺と夫婦になりたいって、そう公然と言ってるよね。)
口をへの字に曲げている俺にゲイズさんは視線もくれずに母様を見詰める。
「私の言っていることが正しいかは、これからセイラさんに忠誠を捧げてみれば分かります。」
ゲイズさんがそう言って立ち上がろうとするのを、俺は止めた。
「ちょっと待ってください。」
(思いを昇華させた忠誠なんて、何を誓われるか分かったもんじゃない。
そんな大事なこと、相手のペースでやられて堪るもんか。
それに、俺が30人の個別の思いを受け止めて絆を結ぶ?
あまり接したことがない人もいるのに、相手の考えをどこかに集約してもらわないと、俺が受け止められる訳がないでしょう。)
俺は冒険者たちの全員に視線を巡らせるとどうするかを考えて、唇を噛んで少しだけ微笑み、母様の腕を取って宣言した。
「ゲイズさんの誓いだけを受け取る訳には行きません。
それに、護る対象は愛する人とその居場所だけではなくそこに住む人たちが揃っていて成り立つし、この先を進むには、何より私たち全員がお互いを守りあうことが大切だと私は思います。
そのためにも、私たちの仲間全員がお互いを思いやりながら漏れなく思いを一つにすることが重要ではありませんか。
そして、あなたたち全員が一つにした気持ちを私たち2人の魔王妃が受け容れる、そうでなければ絆は生まれないと私は思います。」
母様は俺に急に腕を取られて初めは驚いていたが、俺の宣言を聞いて、にこりと笑って同意した。
「分かりました。明朝、出発前に皆の誓いを受けましょう。
ゲイズさんが自分の言い分が正しいと証明できることを、私は期待していますよ。」
そう言うと集会を解散させて、母様は俺たちと一緒に部屋へと戻ることになった。
「もし私に忠誠を捧げた者がいると知ったら、ザカールはさぞや嫉妬するでしょうね。」
くすくすと笑う母様に、たぶん母様だけに忠誠を捧げたい人が2人はいるんですよ、と俺は言おうかと思ったが、黙っておくことにした。
どうせ、どの魔王妃と信頼の絆を結んだのかなんて、ステータスには表示されないんだろうし、2人で絆を結ぶのだ。
◇◆◇◆
『セイラ、でかした。』
部屋に戻るなり、珍しいことにミッシュに賞賛された。
何のことだろうかと思っていると、冒険者たちに仲間と連帯して魔王の眷属を得るように仕向けたことだよ、とミッシュが言う。
『ほかの眷属を仲間と意識して眷属になった連中は、祖先の持つ連携技を覚えやすい傾向がある。
それぞれの連携技が組み合わさることで、単独で覚えた戦闘力よりも数倍の力を発揮することがあるんだ。
後はあいつらがどれだけ自分の思いを高められるかだな。』
「ゲイズさんの言うことの方向性は間違っていないんだね。」
『方向性は望ましいと思うが、間違っていないかどうかは分からない。
何せ独身処女の魔王妃なんて初めてのことだからな。』
「ちょっと、言い方! 」
全く、デリカシーがないのか、と俺が怒っているのを無視して、ミッシュは話を続ける。
『ケイアナ、魔王妃の第三の能力のことは知っているか。』
母様はミッシュの問いかけに少し考え込んで、それから躊躇いがちに返事をした。
「確か、”眷属の総意”、だったかしら。魔人国の統一期に使われたという記録はあるけれど、失伝して、どの様なものでどうやれば発動するのか分かっていないわ。」
『あれは眷属のレベル総計が10万を超えないと発動しないからな。
魔人族が統一されてしまった今ではどの様なものか伝わっていないのだろう。
眷属の総意とは、簡単に言えば眷属の力を魔王妃と魔王に上乗せするものだ。
眷属の力の総計の2割5分が魔王妃に、残り2割5分が魔王に上乗せされる。』
「30人で10万というと、1人当たりレベル3,500くらいかしら。
その合計の力の2割5分ずつが魔王と魔王妃に分配される?
そんな途方もない力…… 」
『うまく成功すれば、だ。』
グルゥ、とミッシュの笑い声が響く。
「でも、そう聞いたら、なおさら彼らに失敗してもらう訳には行かないわ。」
母様が決然として呟くと、俺の方に向き直った。
「セイラ、今夜は何としてでも……って、特にやることはないわねえ。
下手なことをすると逆効果だろうし。
まあ、明日を待ちましょ。」
(なに。やることがあったら、俺にやらせるつもり?
俺、あいつらに特別にサービスなんか、一切してやらないからね。)
憮然とする俺の側で、ティルクが俺の肩を突きながら俺の部屋へと視線を向ける。
「ねえ、姉様。お風呂に入って寝ましょ。」
そうだね、と答えて、母様に暇を告げて2人で部屋へと下がる。
お風呂は気持ちよかったし、俺の胸のボリュームがなくなったのがティルクには相変わらず少し不満そうだったが、今日でまたしばらくは味わえなくなるベッドの感触を2人で楽しみながら眠りに落ちた。




