第46話 男の子はみんな多少の黒歴史があると思います
年明け以来、間延び気味になっていて申し訳ないです。
今話、R15は大丈夫だと信じていますが、そうですよね。
ミッシュはミシュルと一緒に部屋を出た瞬間に、ミシュルの肩に担がれたセイラの身体に幻覚魔法を掛けて周囲の視線から隠すとミシュルの部屋へと帰っていった。
ミシュルは部屋に帰るとセイラの身体をベッドに横たわらせてタオルケットを掛けると、変形魔法でセイラの身体をミシュルの姿へと変えてミシュルを収納空間へと収納する。
「俺の神力が以前のままだったら、セイラに女の身体を使わせる必要もないんだが、それではそもそも俺がセイラと関わる接点がないんだから仕方がない。
セイラへ女性化に抵抗するために男型の身体を与えたのは本当のことだが、結果的には利用してしまって悪いな。」
ミッシュは自嘲気味にそう呟く。
ミッシュはこれからドルグを訪ねて明日起こるだろう事件を話して、ドルグたちがトールドから森の調査と魔獣の討伐の命令を受けて町から出た後に命令を無視して引き返し、夜までに町に戻るように説得するつもりだった。
だが、そのためには魔獣に見える自分の身体ではなく、ミシュルの姿で行くことが必要になる。
城の人間にミシュルがいないことを気付かれないようにするために、ミッシュはあまり使いたくはなかった自分の持つ男型の人形へとセイラの意識を移してアスリーの体をミシュルの身代わりにして、ミッシュは窓から出て行った。
◇◆◇◆
「むー。」
俺は身体の感触が変わったことに困惑して、ソファに座ってもじもじと足を動かし組み替えては、部屋に誰か来ないか気になって部屋の外に聞き耳を立てていた。
ミッシュがいきなり男型の人形に俺の意識を移して俺の身体を持って帰ってしまって、今の俺はちょっと見は女のままだが、胸や股間は男のままの状態で部屋に取り残されている。
(ミッシュ。男の体になれたのは嬉しいけれど、せめて俺の心の備えができてからにしてよ。)
正直に言って、女の身体で過ごしてもう半年も経つので、いきなり胸の重さと視界に映る膨らみがなくなって喪失感がすごいし、ご無沙汰だったモノが突然付いて、女物の下着の中で収まりが悪くって処置に困る。
(そもそも、アレってこんなんだっけ…… )
恐る恐る手を伸ばして触ってみるのだが、女でいた期間が長くて、温かくてぼてリとしたゴムの固まりのようなものから触られた鈍い感覚が伝わってくるのが、もう不思議に思えてきている。
再び周りの様子を窺ってから、服の裾を捲ってそーっと覗き込んでみて、思わずゴクリと喉が鳴ったのを、いや、男が自分のモノを見てるだけだから、と心の中で弁解するが、顔が真っ赤に火照っているのは自分でも気が付いていた。
(男の身体にこんな反応をして、むしろ女性化が進んでいるのを確認していることにならないかな。)
そう考えると不安になるのだが、敏感な部分にはまだ触る勇気はまだ湧かないし、以前に男だった時にはまじまじと見る必要もなかったモノに対する好奇心が湧いて、傾けてみたりひっくり返したり、ついついつぶさに観察してしまう。
(ああ、そうか。これ、ちゃんと機能するんだよね?
ミッシュがわざわざ寝室で俺を男の体にして、自分が男だと確認しろというのは、もちろん今晩、これを使えということで……)
そう考えた途端にはしたなくゴクリ、と喉がまた鳴るのを抑えることができなかった。
(当然、女の子のことを考えながらだよね。むしろそれ以外を考えちゃダメだし。
だけど女の子なんて、俺、自分しか分からないけど、自分で自分を想像って、それはそれでダメなんじゃ──。)
女の子になってからもう半年、考えないようにしてきたことをいざ考えるとなったら、両方の立場が重なって、どうしていいのか考えが纏まらない。
寝間着を捲ったまま、一心不乱に妄想の入口で堂々巡りを繰り返していたら、入口でふいにノック音が響いた。
「は、はいぃっ! 」
慌てて下着を整えて寝間着の裾を戻しながら大声で返事をしてしまってから、自分の胸が平らなことに気が付いて、どうしようと慌てて周りを見回して、椅子に置いてあったクッションを抱いて扉へと急ぐ。
「はい。どなたかご用でしょうか。」
ドアへと向かううちに、かつて地球で似たような場面があって、慌てたあまりに自室のドア越しに親に向かって、何か用?、と不機嫌な声で返事をしてしまったことがフラッシュバックして、思わず丁寧な口調でドア越しに誰何すると、ティルクです、と返事があった。
ティルクならばドアを部屋に入れない訳にはいかないが、胸をどうしようかと考えて、とっさに変形魔法で周りの肉を集めて胸の上の方だけをそれらしく膨らませながらドアを開けると、俺と同じように枕を抱いたティルクが立っていた。
「あの、姉様、もうお休みでしたか? 」
俺がクッションを抱いているのを見て、ティルクが心配そうに聞いてくるので、まだ起きていたわ、と笑顔を作って答える。
「昼間、姉様がときおり考え込んでいて、何か様子がおかしくかったと思い出したら、心配になってしまって…… 」
ティルクが上目で俺を見詰めてちらりと室内に視線をやる。
(んー、この流れだと断れないなあ。)
俺はティルクのお願いの目力に負けて、ティルクを室内へと招き入れる。
内心は身体が男に変わっていることを気付かれたくないのだが、可愛い妹分のお願いを無下にできないと思ってしまったのだから仕方がない。
ティルクをソファに案内して、ちょっとお茶の用意をしてくるから、とティルクにソファにいるように伝えて、簡単に間仕切りされた簡素なキッチンでお茶の用意をしながら胸を誤魔化す方法を考える。
周りの肉をかき集めるにしても、元が男の身体なので、脂肪が少なくて圧倒的にボリュームが足りない。
ふと地球で聞いた豊胸手術の事を思い出して、胸の中に空気を入れて、それを脂肪で覆ってみればと考え付いたが、ビニールのように空気を封じ込める素材がこの世界にはないので、胸の脂肪の下に空気を止めておけないし、体内に空気が吸収されたりしたら、きっと身体に悪い影響があるだろう。
なので、水を中に詰めてみる。
水魔法に少し火魔法を加味して水を温めながら胸の上に乳房の形で生成して、それをさっき胸に集めた脂肪で覆っていく。
(わあ、それらしくなったじゃない。)
お湯が沸くまでの間に案外と上手く胸が作れたことに気を良くして、ティーセットを持ってティルクのところへと戻る。
「はい、お待たせ。」
ティルクのところへと戻ると、ティルクがしげしげとこちらを観察している。
「姉様、何だか頬の線が少し痩けて肌が硬く見えます。心配事でもおありですか? 」
そう見えるのは身体が男だから、とは口に出せない。
「ううん、そんなことはないわ。ただ、今日、明日にも敵が襲ってくるという話があったから、ちょっと緊張しているのかもね。」
「良かった、姉様も一緒だったんだ。」
ティルクがほっとしたように笑い、脇に置いていた枕を抱きしめると、再び上目遣いでお願いをしてきた。
「私も不安で眠れなくて。それに、これまでは姉様や母様と一緒に寝いたのに、このお城に来てから10日以上も別々でしょ、何だか独り寝が寂しくて……
ねえ、姉様。今晩、一緒に寝ませんか。」
(うわあ、このタイミングで断れないお願いが来ちゃった! )
俺が返事に詰まっている様子にティルクが慌てた。
「いえ、姉様がご迷惑なら「迷惑なんかじゃないわ。」」
(ええい、こうなりゃ自棄だ。どうせアレは反応しないんだし、直に触られさえしなきゃ、きっと大丈夫! )
俺は誤魔化しきることに決めて、ティルクと一緒に眠ることにした。
まずはトイレへ行って、しばらく振りの立って用を足す男の感覚に感動をして、アレをできるだけ目立たないように下着の中へしまい込んで、寝支度をしてベッドへと向かうと、ティルクはもうタオルケットに潜り込んで待っていた。
(う。ティルクも結構可愛いし、ベッドの中から期待の目を向けられると、何かこう……。大丈夫だろうな、俺。)
緊張して寝間着の裾の乱れに気をつけながらベッドへ入ると、ティルクがそっと身を寄せてくる。
今まで気付かなかったがティルクからは甘い女の子の香りがして、俺は思い出したように湧き上がってきた煩悩を打ち消すために念仏のように、ダメだダメだ、と心の中で呟いていると、ティルクが俺の胸の間から顔をこちらに向けてぽそりと囁いてきた。
「姉様、いつもと匂いが違う。」
びくりとする俺に、続けてティルクの可愛い声が響く。
「でも、何だか安心する匂いです。私、こちらの匂いも好き。」
俺を男と認識していないのは分かっているが、ティルクの可愛らしい言葉にぐっときて、そうならないと思ったはずのところに血が集まりだす感覚に俺は必死で抵抗した。
やや腰を引き気味だったのが幸いしてティルクは何も気付くことなくやがて寝息を立て始め、しばらくして俺の非常事態も収まって、安心して眠りに落ちることができた。
◇◆◇◆
朝、俺はヤバい感覚で目が覚めた。
身体の一部に硬くずくんずくんと疼く感覚があって、それが何か柔らかいものに当たって擦れて非常事態が最終段階の準備に入ろうとしていることを告げている。
そうっと目を開けて下を見ると、ティルクがいつものように胸を枕にして寝ていて、俺の足の周りにティルクの足の温かさが纏わり付いている。
(これはヤバい。何とか身体を離さないと取り返しが付かない。)
俺は前に出たがる腰をそうっと引いて、できる限りティルクの下半身から距離を取ろうとしたら、ティルクの絡まった足が外れて上半身も微妙に動いてティルクの頭が胸から落ちた。
ふえ?、と言う声がしてティルクが目を開けてこちらに気が付いて、あ、姉様、おはようございます、とにこりと笑う。
もう下半身は離れていて、ティルクが感触で気付くことはないだろうが、そこは元気が溢れそうになっていて、一目見れば分かるのは間違いない。
(どうやってティルクに気付かれずにベッドから離れよう。)
ティルクに笑顔を返しながら、俺がすっかりと明るい周囲を見回して迷っていると、ティルクが、え?、と声を上げるのが聞こえた。
(見つかったか! )
俺が緊張してティルクへと視線をやると、ティルクは俺の胸を見て呆然としていた。
「姉様! 大変、姉様の豊かできれいな胸が…… 」
顔色を変えて訴えるティルクの視線を追って胸を見ると、胸がしわしわと萎んで空気の抜けたゴムまりのようになっていた。
(あ! 中の水分が体に吸収されちゃったんだ! )
俺は慌てて起き上がったついでに体を捻って、ティルクから胸と股間を隠す。
(うわーっ、どうする! これ、どうやって誤魔化すのっ! )
必死で考えているところへ、部屋の扉がノックされた。
「セイラ、ミシュルです。起きていますか? 」
(ミッシュが来た! )
俺はティルクに背を向けると急いで立ち上がってドアへと向かう。
「セイラ、おはようございます。間に合って良かったわ。」
開けたドアの前に立っていたミシュルの視線が俺の胸とその下に向いていて、ミシュルは全ての事情を察しているようだった。
俺が抗議する間もなく腕を掴んで引っ張られて部屋から出され、一瞬俺の視界が暗くなったと思ったら、先ほどまでの俺の体が横でくてりと力が抜けていく姿が幻覚魔法で消えていき、代わりに俺の体が見えるようになったのが分かった。
「セイラ、すみませんでした。用事が終わったので、体をお返しします。」
ミシュルは俺の耳元でそう囁くと、こちらにウィンクをして俺が文句を言う間もなく帰って行った。
言いたいことは山ほどあるけれど、取りあえずは自分の体に戻れた、そのことに安心して部屋の中に戻ると、ティルクがぽかんとこちらを見ている。
「? 」
首を傾げる俺に、ティルクがぽつりと言う。
「姉様、その寝間着、いつ着替えられました? 」
言われて確かめてみると、さっきまで淡いピンクだった寝間着が淡いブルーに変わっている。
「え? ……ティルク、何を言っているの。昨日からずっとこれを着てたわよ。」
(ミッシュー!! )
心の中でミッシュを呪いながら、俺には惚け続けるしか道はなかった。




