第45話 女性化と対策と。荒療治はいけないと思います
「ミシュル。王都が何者かの攻撃を受けているって、本当なの? いつから知っていたの。」
会議が終わって母様がミシュルへと詰め寄ると、ミシュルは母様へ申し訳なさそうな顔で謝罪した。
「本当です。ダイカル様は敵から精神攻撃に屈した振りをしながら耐えて、王都に潜んだ敵と戦っておいででした。
私はアスリー様に影響力があるダイカル様とは距離を取って接していたので、ダイカル様と直接的な会話をした訳ではありませんでしたが、ダイカル様は母様が王都に残られるとガルテム王国の戦力が一気に壊滅する可能性があることを心配して、母様が自主的に王都から避難するよう仕向けておられることを知っていましたので、敢えて母様には申し上げませんでした。」
母様はミシュルの説明がショックだったようで、しばらく黙ってミシュルを見詰めていたが、やがて、そうだったの、と俯いて呟くと気分を切り替えた。
「それで、まだ私たちに隠していることはある? 」
「ありますが、大半は私の身の上に繋がることで、皆さんが知ったからといって益になる情報ではありません。むしろ、害になるかと。
それよりも……」
ミシュルは話しながら俺の右手の椅子の側から左手へと位置を変えてカウンターに持たれ掛かったが、俺の視線が遮られた瞬間に母様に分かるように俺とティルクへと視線を向けてみせたことは、俺には分からなかった。
「後でご相談しますが、今は知らない方が良い情報もあります。」
「なるほど。」
母様が頷いて、俺は母様、割り切りが良いな、とぼんやりと考えていた。
「ケイアナさん、ミシュルさん。僕の父のことなんですが、本当に大丈夫でしょうか。」
ゲイズが心配顔でやって来た。
日頃は反発していても、やはり肉親のことが心配なんだな、と思ってみていると、ゲイズが困った表情で言う。
「今回のことで父が無事に生き延びられれば、これまでの考えを改めてくれる切っ掛けになるでしょうが、ここで死ぬようなことがあれば、僕は父に代わってここを統治しなくてはならなくなります。
ケイアナさんたちに付いていけなくなると、困るんですよね。」
(おい、正直すぎるだろ。)
そう思っていたら、ゲイズがポロリと涙を溢した。
「個人的には父が死ぬかもしれないことはもちろん辛いです。
でも、為政者として間違った道へ足を踏み入れたならば、誅してでも正さなければならないと、これまで何度も自問してきました。
だが、やはり僕は、できることならば父を殺すために対立することなく、生きていてもらいたいんです。」
(これまで、町の独立を巡って親子で殺し合いになる可能性までを考えていたのか。それでも父親にはできるならば生きていてもらいたいって、良いところがあるじゃない。)
つい和んだら、ゲイズさんにその顔を見られた。
「セイラさん、やっぱり優しい人ですね。
大丈夫です、これでも覚悟はしてるんで。」
ゲイズさんの少し切なそうな笑顔がキラキラと輝いて見える。
(うくく。負けない、負けないぞ。俺の男パワー、仕事しろっ。)
自分の胸の鼓動が少し早く打っているのを意識して、俺は一心不乱に男成分が噴出するイメージに集中した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ダゲルアは、トールドの記憶を検索して、セイラがケイアナと同等のレベルがあると考えているのを知って笑みを溢した。
彼らの間で、レベル上げの鉄則とされている方法がある。
最初は魔獣を狩って1,000まで上げ、次にレアな魔獣を狩って2,000まで上げる。それから魔物を狩って3,000までを上げて、最後にレアな魔物を狩って4,000まで上げる。
だが、それから先の法則めいたものが見つからない。
となれば4,000に至った仲間内での潰し合いによるレベル上げが確実なのだが、そうなると最も狙われやすいのがレベル4,000台になったばかりの自分のような者たちだ。
今回の作戦に志願したのは、潰されることを逃れるとともに人間の中に稀にいる高レベルの者たちのレベルを奪えないかという狙いもあったのだが、早くも今、そのチャンスが巡ってきた。
このトールドという男が考えている男女レベル平均化の法というものが存在して、レベル6,000台の女が2人もここにいるのならば、その法を1回使うことで自分のレベルは5,000台となり、2回目で少なくとも5,000台後半、運が良ければ6,000台のレベルへと至ることができる。
そうなれば自分は仲間内でも強者に属することができて、これからの運命にも展望が開けることになる。
ダゲルアは、トールドに取り憑いたまま望みを叶えるように援助して好きなように行動させ、男女レベル平均化の法が行われる間はトールドの霊体を眠らせて一時的に自分の身体へと押しやることを考える。
(この男は利用価値がありそうだ、まだ殺すのは勿体ない。)
ダゲルアはほくそ笑んでトールドが立てる計画の相談に乗り、できることを提案していき、やがて計画できあがった。
決行は明日の夜。
まず、今日のうちにレベルが3,000を超える兵士3人に近隣の森にいる魔獣の討伐と状況調査を命じて、レベル1,000を超える兵士8人とともに明朝から手分けさせて、森の周囲の討伐と調査に向かわせる。
そうして主要な戦力がいなくなった町で教会の司祭を呼び寄せ、幻術でトールドが難病で病床にある母娘2人に体力を与え共に生きていくための結婚を執り行うと教会の司祭に信じ込ませて、男女レベル平均化の法を順に使わせる。
その準備として、ケイアナたちには夜の湯上がり後に用意しているアイスティーに眠り薬を混入して飲ませることにした。
トールドと計画を練り上げながら、ダゲルアは自分の計画を練っていく。
ケイアナとセイラから力を奪う間はダゲルアがトールドの身体に乗り移って力を得て、その後にトールドの霊体を身体へと戻して意識を同調し、女たちを屈服させてトールドとともに愉しみに興じている間に仲間に町を襲わせる計画だが、それはトールドも知らないことだ。
(なに、レベルが同じになれば、女たちは体力差で押さえ込める。従わせるのが無理ならば殺しても良い。)
ダゲルアは町の占拠に思いを馳せる。
まずは町の戦力となる主要施設を混乱させて高レベルの者やリストアップした主立った者たちから殺していく。
残った者達はレベルが低い。
トールドを使って町の者達を宥め、森から帰ってきた兵士たちを復興に当たらせる名目で順次派遣し、分断して待ち構えて殺していく。
主戦力であるレベル3,000超えの者たちは、自分が直に個別に戦って殺す必要があるだろう。
そこまで行けば町の占領はほぼ完成だ。
後は魔獣の密度を上げて人の行き来を困難として、仲間の移住を進めて住民と入れ替えて拠点としていけばよい。
(この功績を以て、俺は幹部に伸し上がってやる。)
ダゲルアは楽しそうに独りごちた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夜になって、俺は昼間に男たちにときめいた理由と思しきものに直面して唖然としていた。
生理だ。
それは、妊娠できるように女の子の身体を作り替える女性の根源的な摂理だ。
ミシュルに習ったフィルターを起動して確認してみたが、朝見たときとは段違いで轟々と流れる乙女の力の前に俺の執着心は耐えるのに必死で、パイプから流れる男のパワーは一段と薄くなっていた。
(こんなのが続けば遠くないうちに俺の執着心は吹き飛んでしまう。)
俺は不安になって落ち着かずにうろうろとして、ティルクからは、姉様、どうしたの、と心配を掛けてしまったが、何だか落ち着かないの、と答えるのが精一杯だった。
どうしようと不安な気持ちのまま湯浴みをして、寝室へと戻って間もなく、ミシュルがミッシュを抱いてやって来た。
そういえば、最近、ミッシュを見かけなかったな、と俺が思っていると、ミッシュがミシュルの腕から飛び降りると変形を解いて、2メートルほどの大きさに戻って俺の前で座る。
「セイラ、不安な様子が滲み出ているぞ。女でいるのが落ち着かないか。」
どうやらミッシュは俺の落ち着かない原因を含めて、理解しているようだった。
「ちょっと支援をしてやろうと思ってきたんだが、その前にMPを送ってくれ。」
今日の分のMPを送っていなかった俺は、簡易魔方陣の体操をしてミッシュに魔法を送る。
うむ、と目を細めてMPを受け取ったミッシュは立ち上がると、収納空間からまた人型の人形を取り出した。
いきなりだったので、驚いてベッドサイドから立ち上がって裸の人形を見ると、あれ?、これは前のと違うような……
「これは男型の人形だ。悪いがこちらは月に1回、半日程度しか動かすことができない。
でも、今日のようにセイラが女に引っ張られているときには、男として過ごす時間が大切だろう。
俺には霊体を転移させることはできないが、意識をこの人形に移すくらいのことならできる。
どうだ、アスリーの体は俺が管理しておくから、今晩はこれで寝てみないか。」
(男型、あるのかよ! )
思わずミッシュに非難の視線を送りながら髭面の男型の身体を見たのだが、その逞しい体つきや股間のモノを見ると恥ずかしさを感じて、思わず視線が泳いでしまった。
(いや、そもそも俺、男なんだし! )
改めて男型の人形を見るために視線を向けようとしたのだが、一瞬の瞬きのうちに視界が変わって、横たわった視界から自分の身体を支えるミシュルが見えていた。
「え!? 」
低くて野太い声。
慌てて起き上がろうとして、筋肉で膨れ上がった身体がぬいぐるみでも着ているようで、違和感がすごい。
俺の元の男の身体は高校生らしいスレンダーな身体だったので、なおさらなのかもしれないのだが、視線を自分の身体に向けて、そうっと下にずらして、見えてきたモノに思わず、ひゃっ、と悲鳴が出る。
「うーん。今晩を過ごすのに、その厳つい身体はメイドでも来たときに問題があるか。」
ミッシュが呟くと身体が縮んでいき、いつもの見慣れたサイズへと変わっていくのだが、股間のそれは周りがか細くなったためにサイズ比較で凶悪さが増している。
ミシュルが姿見を持ってきてくれたので見てみると、顔と体の大きさはいつもどおりだが、身体の骨格と肉付きと身体の特徴は男のものだ。
なんだか女装した貧弱な男といった残念感が半端ない。
「あの、これでどうするの? 」
出てきた声もいつもの女性の自分の声に変わっていることに驚いていると、ミッシュが俺の様子を確かめながら言った。
「うん。胸はないが、これなら服さえ着れば何かあったとしても、ちょっと見には誤魔化せるだろう。どうせ今夜は寝るだけだしな。」
(あの、ミッシュさん?
心の準備もなしにいきなり身体が変わって、その、胸と股間の違和感がすごいんだけど。)
「少なくとも股間のモノを意識していれば、女性の身体からの性ホルモンの影響も減るだろう。まあ、元の体に戻ったときの試しと思って、今夜はこれで過ごしてみると良い。」
またもや俺の心を読んだミッシュがそう言うと猫のサイズに戻り、ミシュルが俺の、いや正確にはアスリーさんの身体を抱き抱えて、さっさと部屋から出て行ってしまった。
(え? うそ。)
見かけはそのまま、いきなり胸がなくなってアレが生えてしまった自分の身体に、俺はどうしていいか分からずに立ち尽くしていた。




