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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第44話 女の子の気持が知りたい? いえ、勘弁してください

明けましておめでとうございます。


新年早々、遅刻ですね((-.-)

18時更新は目安ということでお願いします。

「ところで、母様、トールド子爵に頼み事って何ですか。」

 昼食を摂りながら母様に聞いてみた。

「ああ、冒険者たちが付いてきたがって、今日の午後にカウスさんとキューダが打ち合わせに来るけれど、彼ら、(ろく)な武装をしていないでしょ。

 あれで森に入ったらすぐに剣が折れて死屍累々(ししるいるい)だと思うのよね。

 これからは魔獣も強くなりそうだし、人数が多いといちいち怪我も治していられないから、基本的な武装を城から譲り受けようと思ったの。」

「私たちの武装は母様が買ってらしたわよね。」

 俺が確認すると、母様は肉の包み焼きを切り分けながら頷く。

「もちろん、私たちの武装は城の標準品よりは何段もレベルの高いものを厳選してあるわよ。」

 ああ、そうなんだ。

 どうでも良いけれど、母様、肉が好きだな。


「そういえば、ティルク。10日間、礼儀作法をやってみて、どんな感じ? 」

「うう。姉様、10日やそこらで礼儀作法が身につくと思います? 」

「あら、大丈夫よ。まだ慣れなくて少しぎこちないけれど、そこらのメイドよりはよっぽどしっかりと身についているわ。

 貴族の集会に出掛けるのでもなければ十分に通用するくらいにはなっているわよ。」

 うーん、その母様の説明、微妙だな。

 トールド子爵がやって来て、地元の貴族たちに紹介でもされれば、それはもう貴族の集会になっちゃうのでは。

 ティルクもそう思っているようで表情が硬い。

「あら、言うのを忘れていたわ。

 多分、トールド子爵は私たちをテルガの貴族に引き合わせたりしないわよ。もうタイミングが遅すぎるもの、実は10日前から城にいましたなんて、今さら言える訳がないでしょう。」

 じゃあ、トールド子爵は、何がしたいんだろう。いよいよ(もっ)てトールド子爵の意図が分からない。


「母様、タールモアの血縁の方とは会わなくて良いんですか。」

 そういえば先日、母様が血縁の人がいるという話をしていたので聞くと、母様は笑って首を振った。

「タールモア家を継げないことが確定しているのに、こんな小さな町に居続けるのは辛かったんでしょうね。

 兄と弟がいたけれど、私が覚醒すると同時に少しの路銀と剣を持って2人で出て行って、今はどこにいるのかも分からないわ。」

 うわ、迂闊(うかつ)に聞いちゃいけない話だった。

 ご免なさい、と謝ると、母様は、いいのよ、と微笑んでくれた。


「ああ、そうそう、これも常識だから言うのを忘れていたわ。

 私がトールド子爵と呼んでいるのは、幼い頃から知っている親しみを込めた呼び方だから、正式に呼ぶときはサングル子爵と呼ぶのよ。」

 あ、そうなんだ。日本には貴族なんていなかったし、俺も知らなかった。

 でも、例えば友達同士では”タカシ君”でも、授業中では”伊藤君”と呼ぶようなものと思えば納得かな。


◇◆◇◆


 1時を過ぎて、カウスさんとキューダさんがやって来た。

 2人が到着したと聞いて、応接間の方へ移動していると、向こうからも2人がやって来るのが見えて、合流して一緒に部屋と入ろうと、2人に手を振って、到着するまで待っていたのだが……

 廊下の歩く2人はそれぞれ片腕で肩越しに背中に何かをぶら下げて話をしながら歩いてきていて、窓から入る日差しが初夏の薄着の上から腕や胸の筋肉、腹筋なんかにくっきりとした陰影を付けて、肉体がすごく逞しく見えて、その男らしいシルエットに胸がきゅんと跳ねる。

 ボサボサの髪も強い光が彼らの厳つい顔に陰影を付けながらも少し霞ませて、2人の周りがキラキラと……

 ぼうっと2人に見入ったまま突っ立っていて、微風(そよかぜ)に乗って漂ってくる鼻を突く臭いで俺ははっと正気に戻った。


 ど、ど、ど、どうしよう、俺、今、男に見蕩れてた!

 男に見蕩れて、お城のダイカルファンの言ってた凜々しくてキラキラが、なんか理解できちゃった、分かっちゃった!

 頬が熱を微かに持ってトクトクと少し早く脈打っている心臓を押さえて、混乱しながらきょろきょろと視線を逸らしていたが、いや待て、と思い直して、気を強く持ってもう一度2人へと視線をやる。

 ああ、よかった。いつも俺が思っているとおりの、ちょっと下の学年の、元気が良いジャガイモ顔の脳筋の後輩たちだ。

 それにしても、お前ら、風呂……は無理でも、きちんと身体を拭いてから来いよ!

 ああ、女の子が男子が臭いと言ってるのがどんな臭いかなんて、知りたくもなかった……。

 そんなことを考えていると、キューダさんが声を掛けてくる。

「あれ、セイラさん、どうしました。具合、大丈夫ですか。

 もうじき夏なんだから、水分をちゃんと摂りましょうね。」

 さっきドキドキさせられた悔しさから、思わず、ふんっ、ベーだ!、とか言いそうになるのをぐっと抑えて、あ、そうね、とさりげなく返して、さあ、どうぞ、と室内に招き入れると、室内ではゲイズさんが待っていた。


 やあ、とゲイズさんが挨拶すると、ゲイズさんがサングル子爵の嫡子だと知ったカウスさんとキューダさんが頭を下げ、ゲイズさんが今までどおりで良いから、と取りなして雑談を始める。

 俺はその様子を見ながら、カウスさんたちを見た自分のさっきの反応が、彼らを異性と感じていたのだと分かってやり切れなさを感じていた。

(そうか。俺が完全に女になるっていうことは、こいつらをあんな風に感じるってことなんだな。

 こいつらに頬を染めるとかあり得ん。俺は絶対に抵抗するぞ。)

 ミシュルが午前中に見せてくれた、俺の男への執着心を思い出しながら、それが活性を強めてパイプの排出口から男の要素をふんだんに吹き出して撒き散らしてくれることを一心にイメージする。

 女のままだったら何が起きるのかを実感して、俺は改めて早く男に戻る決意をした。


◇◆◇◆


 全員が揃ってテーブルに着くと、ミシュルが何かの魔法を立ち上げて部屋の周りに張った。

「こんにちは。私がセイラの使い魔であることは冒険者の皆さんももうご存じですね。」

 こう切り出して周りを見回すと、カウスさんとキューダさんが残念そうな顔で頷いた。話を聞いていても、本当の女性かもしれないと期待していたんだな。


「今回、集まってもらった表向きの理由は、獣人の国アスモダへ出発するための準備で、今展開した魔法には、こちらを探られた場合にそういう打ち合わせをしているように見える幻術の結界が施してあります。

 それで、本当の議題ですが、王都を襲っている敵が潜入してきていて、私が確認したところでは、事態は思ったよりも進んでいます。

 敵は攻撃に移るための主要な手配をすでに済ませていて、今日、明日にもテルガの町へ攻めてくると考えられます。

 そして、その対処の大半は、たぶん、私たちがやらなければならなくなります。

 今日は、そのための会議です。」


 いきなり切り出された非常事態に一同が驚いた視線をミシュルへと向けるが、ミシュルは全員の関心が自分に集中していることを確認すると話を続けた。

「彼らの手口は王都と同じです。

 冒険者ギルドや兵士の司令部などの軍事的な中枢を押さえようと画策し、町のトップを幻覚作用のある何かで揺さぶっています。おそらく、町のトップを乗っ取れば準備は整ったとして攻撃に出て来るでしょう。

 もうトールド子爵は敵の支配下に堕ちたことは確認しました。」


「父が? 僕、ちょっと「お止めなさい。もう子爵の思考や行動は敵の支配下にあります。私たちのことを敵に内通するおつもりですか。」」

 慌てて父親のトールド子爵のところへ行こうと立ち上がりかけたゲイズさんをミシュルが制止する。

「私を非難してもらって構いません。

 トールド子爵が何かの影響で常軌を逸し始めているのは分かっていましたが、城の兵力では脅威にならないので様子を伺っていたところ、今日の午前中に敵のボスと目される存在の術で直接支配下に置かれることになりました。

 敵のことを調べている途中でまだよく分かっていないのですが、私と敵の間には恐らく因縁があります。

 私が直接姿を見せた時点で総攻撃が始まると思われたので、その場に出て行くことができなかったことはお詫びします。」

 ミシュルの説明を聞いて、それでもゲイズさんは何か言いたそうだったが、黙って椅子に座り直した。


 その様子を見てミシュルが軽く会釈して話を続ける。

「先ほども言いましたように、今回のテルガで敵が取っている手口は王都で取った手法とよく似ています。

 王都では香油を使ってアスリー様を掠い国王様の精神を操作しようとしましたが、成分の一部に問題があったらしいこととセイラが転生してきたために、国王様を完全な支配下に置けてはいませんでした。

 なので、精神操作に成功したテルガでは敵がどう出るのか監視していたところ、直接ボスと思われる存在が現れて……」

 ゲイズさんはミシュルが説明することの経過を俯いたまま聞いていたが、やがて顔を上げると真剣な表情で質問をした。


「父は、そのボス格の存在と同化してしまったということですが、助けることはできるのでしょうか。」

「自分の生存が危ういとボスが考えれば分離するでしょうが、どういう状態にすればトールド子爵が生きていられるものか、そこがまだ思いつかないの。」

 ゲイズさんが唇を噛み締める。


「話を戻すわ。

 城の中でボスと手下何人かは私たちを襲ってくるでしょうが、それと同時に街中でも手下たちが暴れ始めるわ。

 ボスは母様とセイラに任せて、私とティルク、ゲイズさんや冒険者の皆さんには町の手下たちに対処して欲しいの。

 私の見たところ、ボスはレベル4,000台、手下たちはレベル1,000から1,500の間だと思うわ。」

 うわ、そう出掛けた声を抑えて、俺はみんなの顔を見回した。

 この中でレベルに不足がないのは、母様とおそらくはミシュルだけ。特に冒険者たちは、先ほどカウスさんから毎日全員で狩りに出て、レベルが250ほどになったところだと聞いた。レベル的に厳しいだろう。

 皆がそう考えているところへ、ミシュルがじゃらりと2種類の指輪を積み上げた。

「冒険者の方たちが特に厳しいのは分かっています。

 これは、装着者の物理と魔法、どちらの攻撃も衝撃を半分以下に下げる効果がある指輪と早さを2倍にする指輪です。

 これを使えば一撃の衝撃で死ぬ可能性が低くなります。

 もちろん私がサポートしますが、母様たちがボスを倒すまで生き延びて、町の住人に対する被害を最小限に押さえること、それが最大の目的となります。」

 誰もが難しい顔をしていたが、町の危機と聞いて、尻込みする者はいなかった。

 皆の意思を確認して、ミシュルはさらに詳しい計画を説明し始めた。



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