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勇者召喚と聞いたのに目覚めたら魔王の嫁でした  作者: 大豆小豆
第1章魔王妃になんかなりたくない
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第11話 アスリーさんってどんな人

誤字報告を頂きました。完全に気が付いていなかったです。

ありがとうございました。

 妊娠騒動の終わった翌朝から、俺はお母様との訓練を再開した。

 ただ、訓練を受けながら考えていたことがある。

 お母様は体力上げだけでなく、この世界の常識や公の場で俺が困らないような教育をしてくれている。

 でも、今回の騒動で分かったのは、それだけでは十分ではないということだ。

 俺はこれまで、アスリーさんの体に入って女になったことを余り真剣に考えていなかった。ふわふわとしていて実感がなかったと言っていい。

 だけど、今回の妊娠騒動で俺は自分の体が本当に女の体なのだと身に染みて感じた。

 思い返してみれば、ライラから入浴や着替えの際に、爪や手指、髪や肌に神経を使わなさすぎると遠回しに度々注意を受けていた。

 俺は女性の体の強度や女として体に払うべき注意や常識に余りに(うと)く、ないがしろにしてきた。女としての常識が余りにも足りないのだ。

 もし、このまま当分はアスリーさんの体を使わなければならないのだったら、俺は女の子の常識を分かっておかないといけないんじゃないか。

 そう考えて、まずは手始めにと魔王に説明して、魔王と居室にいるときにはオートモードを解除して生活をしているのだが……

「おい貴様っ、アスリーの姿で屁をこくなっ。

 アスリーのイメージが地に落ちるだろうがっ。もし、アスリーに再会したときに私の愛情が冷めるようなことになってたらお前のせいだ、どう責任を取ってくれるっ。」

 うん、もっともな苦情ではある。即座に謝った。

 ただ、オートモードを解除して他人から向けられる俺へのイメージをなしにすると、自分がどうあれば良いのかについては、俺自身がよく(つか)めていない問題ではある。

 どんな気持ちでどうすれば良いのか、ホント悩ましい。


 そういえばと、魔王にアスリーさんの捜索がどうなっているのか確認してみた。魔王の答えは、目立った手掛かりはなく、アトルガイア王国に原因があるのでないかと考えてアトルガイア王国を探っているところだそうだ。

 魔王こそ気が気でないだろうに、同じ部屋を居室として使っている関係から俺に付き合わせてしまっている。申し訳ないと感じた。

 なので邪魔にならないようなら、アスリーさんがどの様な人だったのか、話を聞いてみた。

 魔王も俺が馬鹿なことをしてアスリーさんに対して持っているイメージを壊されないよう、俺にアスリーさんのことを知っておいてもらいたかったのだろう、少し考えて話し始めた。


「アスリーは、ある日いきなりガルテム城に現れて、自分が当代の勇者だと名乗った上でステータスを公開して、私との会談を申し込んできた、それが初対面だった。

 アスリーのレベルはセイラも知ってのとおり7,856だが、これはその当時知られている限りではレベル8,692の私以外にいないと思われていた水準のもので、城詰(しろづ)めの人間では束になっても敵わないのは明白だった。

 私は父の件があったから、勇者とは暗殺者だとの先入観があったが、こう真正面から名乗り出られたら私としても会いたくなった。

 アスリーとの会談は、2日後に応じることにしたんだ。

 アスリーは了解して、そのまま城に居座ってそこらの仕事を手伝って働き始めた。私はびっくりしたよ。」


 強引なところがある人なんですか、と俺が聞くと、魔王は首を横に振った。

「彼女なりの理由があったのは後で分かった。

 アスリーはこの国まで来る途中でガルテム王国と俺に関する情報を集めて分析しながら、自分が国から与えられた情報と集めた情報が余りに違うことに違和感を感じながらやって来ていた。

 そして、ガルテム王国の国内の様子を知って、アトルガイア王国から与えられた情報が間違っていると彼女なりの結論を得て、魔王である私に直接それを確認するつもりでやって来ていたんだ。


 会談の席で、まずアスリーは私にアトルガイア王国への思いと対策について説明を求め、自らの経験してきたことと照らし合わせて、私がアトルガイア王国を憎んでいても侵略行為には一切手を付けていないのは事実だと認めた。

 次に、アスリーは勇者に対する私の考えと対策を確認して、勇者は暗殺者だと自ら認めた上で、我が国に対するアトルガイア王国の考え方と勇者を育成するための洗脳教育、それに勇者の存在価値そのものも否定して、勇者の任務を自ら放棄すると宣言した。

 それから、アスリーは私の下へ辿り着く過程で、事実を知らなかったために勇者として何人もの魔人を討ったことを明かした上で謝罪し、自分の犯した罪に対する公正な裁きを求めた。

 これに対しては結論だけを言うと、被害者親族への補償として、彼女がここへ来るまでの過程で得た財産──ちょっと裕福な貴族くらいの財産があった──の全てを分配して、被害者の親族へと支払った。

 最後に、アスリーは犯した罪をガルテム王国が問わないと知るや、落ち着く先を探していることを打ち明けて、お国の発展の力になれないかと彼女の居場所について尋ねてきた。

 私はその頃にはもうアスリーへの恋に落ちていた。

 我が王家は居場所にならないかとアスリーに答えていたよ。」


 俺はテーブルに両腕を載せて手の甲を上にして手を組んで、その上に顎を載せて少し首を傾けて魔王ののろけ話を頬を緩めて聞いていた。

 それで、と言いかけて、魔王は俺の格好と視線に気付き……真っ赤になって顔を横に向けた。

「貴様……偶然だとしても、アスリーの体で隙のある可愛らしげなポーズを取るんじゃないっ。

 絶対にアスリーがやらない分、破壊力が増しているからな。

 下手すると、また体が爆散するか妊娠するぞ。」

 俺は慌てて体を起こした。それを経験するのは金輪際(こんりんざい)御免被(ごめんこうむ)る。

 でも、アスリーさんってやっぱりすごい人なんだな。いつか彼女に会ってみたいと思った。


◇◆◇◆


「ところで、ダイカルさん。そういうことなら、俺、もうしばらくはアスリーさんの体を使わせてもらうことになると思うんだ。

 出産も関係なくなって体力も人並みには付いたし、訓練は少しの間お休みして、どこかで実地に働きながら経験を積んで女性の常識を身につけたいと思ってる。

 お母様の変身魔法で姿を変えてもらって、同じような年頃の子がたくさんいる場所で働くことってできないかな。」

 魔王も納得して、自分の目が届くところならと少し考えて紹介してくれたのは、王家付きでなく城付きのメイドの仕事だった。

 ときどき、娘の行儀作法見習いのためにと紹介されて短期間働きに来る子がいるらしい。魔王の母のケイアナさんの出里(でざと)の知り合いの娘とでもしておけば大丈夫だろうということだった。

 魔王と相談したことについてお母様に相談して、訓練がなくなることに対して随分と淋しがられたが、出産騒動で俺がこちらの世界の女性の常識に欠けることが気になったようで、許可して変身魔法を掛けてくれることになった。


 ただ、ステータスの問題がある。ステータスにはガルテムの姓と魔王妃であることがしっかりと書き込まれている。

 まずメイド詰め所での身元確認で引っかかるだろうとのことだったのだが、これについては、お母様が魔法道具を使って表示された情報と詳細情報とを入れ替えられると教えてくれた。

 その魔法道具は、身元を誤魔化すことができるため、国でも厳重保管されている秘匿魔法らしいのだが、まあ、王家の娘が使うんだから問題ないでしょうとお母様は笑っていた。

 ……確かに俺の姓の表記はガルテムになってしまっているのだが、俺、いつの間に王家の一員になったんだ。聞いて確定してしまうと恐いので、そっと目を逸らして聞かなかった振りをしておいた。

 それで、ステータスには詳細情報というのがあって、一般的なステータスで表示されている内容には実はさらに細かいステータスがあり、例えば体力では肉体的な耐久力や病気への抵抗力、環境変化への柔軟性や精神的な忍耐力などが設定されているが、表示されるのは総合的な体力の項目で、詳細は隠された情報となっているらしい。

 お母様の言う魔法道具は、例えば体力の表示を抵抗力の数値と入れ替えたり、特定の項目を隠したりできる。

 俺の場合はアシタバの姓が詳細情報に旧姓として記録されているので、ガルテムを隠してアシタバを表示し、魔王妃とそれに伴う特技も詳細情報へ項目を送ることで隠すことができる。

 結果的に、俺のステータスはこんな感じになった。


 名前 セイラ アシタバ(ガルテム)

 種族 人間

 称号  -(魔王妃)

 職業 剣士

 Lv   86

 経験値  856/5,036

 HP    354

 MP  4,658

 体力    502

 魔力  2,810

 強さ     52

 早さ    143

 器用さ   406

 特技    -(オートモード 魔王の加護 魔王の眷属)

 魔法属性  -

        ※( )は詳細情報へ送って隠された項目


 称号も特技もないし、魔法関連の数値が異様に高いのに職業は剣士という、非常に残念な娘ができあがってしまうがこれは仕方ないだろう。

 ここまで準備ができて、後は俺の姿形をどうするかという話になる。

 魔王の希望もあって、いろんな人を刺激してトラブルにならないように、顔もスタイルも標準以上だがちょっと残念、そんな方針で赤髪と横長の目に少しだけ大きめの団子っ鼻、そばかすのある顔に少し残念な胸のスレンダーな体型となった。

 ふと、お母様って魔王と結婚する前は何をやってた人なんだろうと気になったが口にはしなかった。

 俺が城詰めのメイドになることを知っているのは、魔王の家族3人とホーガーデンとティムニアとライラとあと1人、サファというライラの補助のメイドさんの計7人だけ。

 魔王妃として必要があるときは7人の内の誰かが声を掛けてくれ、それ以外は城詰めのメイドとして衣食住は全て他のメイドと同じだ。

 期間は一ヶ月くらいの予定なので、まあ頑張れ、と魔王からにこやかに見送りを受けて、一般的な平民が着る服に着替えた俺は、お母様の紹介状を持ってメイド詰め所へと向かった。



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