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気を抜いてはいけない


 衝撃的な事実から数週間。

 死亡フラグに怯えていたけど、あれから行動を強制させられるような事はなく、着々と貴族学園の入学準備が進められた。貴族には階級があり、その階級に相応しい振る舞いや知識、品位が必要とされる。

 クローツ家は伯爵という立場で、立場的に結構上の方。つまり、それ相当の事をこなさなければならない。

 記憶が戻る前の私は兎に角面倒くさがりだった。勉強は嫌、ダンスは基本を無視して自分の好きなように踊る。マナー講座に至っては論外。これで王子様と結婚したいなんて鼻で笑われるわ。

 今からやっても焼け石に水だけど、覚えていなければならない事だけは最低限覚えなきゃ、恥をかくのは私。例え嫌われ人生だろうと、無知で笑われるのは御免だ。

 

 何をするにもまずは基本から!

 体育会系のノリでいくしかない!


 入学式まで家に来る家庭教師達にみっちり教えもらった。以前までは泣いたり怒ったり拗ねたりして逃げていた私が、大人しく授業を受けているのに教師は勿論、両親もめちゃくちゃ驚き、そして泣かれる。

 入学式が近づいて、漸く危機感を感じたんだろうと教師は安心し、前世での知識があったおかげで必要最低限は覚えられたと思う。あとは学園で頑張るしかない。


 そして時間はあっという間に過ぎていき、私は家を離れ学園に入学する事となった。


「お嬢様時間です」

「頑張るのですよ。慣れない寮生活は大変でしょうが、体には気をつけるのですよ」


 神の御使いの無茶ぶりがなければ健康でいられる自信はある。


「無理をしてはいけないからね。なにかあればすぐに私に言うんだよ、約束だ。可愛いプティを妬む者や善からぬ事を考えている輩には私が制裁を与えるからね」


 なんて物騒な話。

 そんな輩現れないで欲しい。私やその輩の為にも。


 涙目の母と父に見守られながら、私はエリーと共に馬車に揺られながら王都に向かう。生徒1人につき、侍女か執事を1人お供に連れていかなければならない。

 誰も知らない場所で二年間過ごすのはかなり寂しいし不安だから有り難い話で。なるべくエリーに迷惑を掛けないようにしよう。



 折角王都に来たのだから観光でもしたかったけど、色々な準備が必要らしく、王都に着いたらすぐに学園へと向かった。

 貴族学園とだけあってめっちゃ豪華な外見に内装。シャンデリアとか初めて見るんですが。我が家も大概豪華だったけど、プリシティアとしての記憶があったから気にせず過ごせた。だけど此処は我が家よりもっと豪華で広くて高い。萎縮しちゃうよ。


 寮は個室で我が家の自分の部屋ぐらいの大きさ。メイドのエリーは侍女が住む別館に部屋があるそうだ。プライベートもある。これならやっていけそう!

 相部屋だったり、エリーとずっと一緒だと思っていたから自分だけの時間があるのは大分助かるよ。精神的に。


 入学式は明日の正午からなので、今日は一日自由時間。寮内まーわろっ。



「ふ~んふふ~んふ~ん」


 鼻歌混じりで寮内を探索。さすが貴族の寮。二階より上は全部寮室だけど、娯楽室やサロン、中庭には温室まである。これなら休日も退屈しないかも。

 私の他にも生徒はいて、お行儀良く挨拶した。挨拶は基本!


 すっかり気を抜いた私は誰もいない廊下をいいことに、軽くスキップしながら進む。マナーを教えてくれた教師が見たら大激怒間違いなし。だけど今は誰もいない。侍女のエリーも、今は自分の荷物を整理しに別館に行っている。

 窮屈な生活に少し疲れていたのかも。やっぱり誰かの目がある生活って、結構息がつまるよね。


「ひと~りが、きら~くなのさ~」


 なんて事を歌いながら廊下の曲がり角を曲がると、


「なっ」

「わふっ」


 誰かにぶつかった。

 強く、ではなく軽くだったのでお互いよろめく程度。だけどぶつかったからには謝らないと。相手からしたら曲がり角から急に現れたようなものだし。


「申し訳ありま……」

「お怪我はございませんかシュバルツ様!!」


 曲がり角でぶつかったのは、銀髪さらさら蒼い瞳の細身で長身の超イケメンなお方だった。イケメン過ぎてマネキンかと思ったわ。

 ん? ちょっと待って。

 あれ、今『シュバルツ様』とか言わなかった隣の執事。


 シュバルツ様。本名シュバルツ・ターグ・ファジュル。

 ファジュルというのはこの国の名前で、ターグというのは王冠という意味。次の王冠を被る人に付けられる、らしい。つまり今ぶつかった人は……王太子様!


「無礼なっ! 貴様、この御方が誰かわかってっ」

「よい」

「しかしっ」

「怪我はない。私も不注意だった。その者、怪我はないか」


「ふぁいっ!」


 噛んだ。緊張して噛んだ。

 王太子様だこの人。寮にいた他の貴族の人とはまるで違う気品さ。立っているだけで神々しい。決して日の光りだけのせいじゃないはず。

 この人が王太子様だとしたら、ぶつかった私は不敬罪に値するじゃ……牢獄行き? それとも処刑台行き? この国の歴史を少し勉強してわかった事は、日本での常識や法律が全く通じないということ。

 爵位の高い人への不適切な発言なだけで、周囲から疎外される。暴言なんてもっての他。軽はずみな行動で地位や財産を失うらしい。ましてや暴力行為なんて事をしたら即処刑台へGO! だけど爵位が上なら許される事がよくあるらしい。


 とんでもねーパワハラだ。日本だったらバッシングだよ。

 怖いわ貴族社会。さらに平民だったら貴族に何されても文句も言えなくて、我慢するしかない。殺されても我慢するってどんな独裁社会だよ!?

 まだ貴族でよかったのかもしれない。しれないのかもだけど……


「も、申し訳ございません!」


 私がぶつかった人はこの国のトップになる人。終わったかもしれない私の人生。いや、今世だけじゃなく来世も。だってまだなんもやってないもん。神の御使いに言われた事、まだなんもしてない! ということは、今世では処刑台で来世は奴隷……そんなのやだぁああああっ!!! 


「よい。お互い怪我がなくてよかった。次からは気をつけよ」

「………は、はいっ! ありがとうございます!」


 表情は変えず無表情のまま通り過ぎていく。執事の人にめっちゃ睨まれたけど。

 え、これってつまり許して貰えたってことだよね? めっちゃくちゃいい人! ありがとうございまーす王太子様!


 心の中で歓喜し、お礼を言いながら頭を下げる。

 やった! 命拾いした!


 なんて喜んでいた矢先、頭の中で響く私の声。



『シュバルツ様! 私、プリシティア・クローツと申します。プティとお呼びくださいませ』


 は?


『シュバルツ様! 私、プリシティア・クローツと申します。プティとお呼びくださいませ』


 この状況でそれ言えって? バカなの!?

 折角見逃してもらったこの命、ドブに捨てろって言ってるのと同じだよ?? 泣くよ? むしろ今頭痛が襲ってきて涙出そうだけどね! 鬼か!

 頭痛で死ぬか不敬罪で死ぬか。どうせ死ぬなら痛くない方がいい! この痛みから逃げたい!


「しゅ、シュバルツ、様っ」

「なにか?」


 キラキラと輝く銀髪。普通に出会っていたら恋をしていたかもしれない。優しいし!(ここ大事)でも今となっては私を処刑台に送る魔王にしか見えない。いや、王太子様が悪い訳じゃないのはわかってるよ。こんな事になったのは全部前前世の私のせい! つまり自業自得。記憶ないのが悔やむに悔やみきれない。

 痛みで訳わかんなくなってきた。もうどうにでもなれ!


「私、プリシティア・クローツと申します。……プ、プ、プ」 

「?」

「プティとお呼びくださいませっ!!」


 言った。言った。言ったよ私!

 頭痛はあっさり消え、変わりに絶望と羞恥心が襲う。

 プティって。自分の事をプティと呼んで、とか恥ずかしいわ。消えたい。王太子様の記憶から私という存在を消してしまいたい。

 殴ったら消えないかな? 同時に私の命も消えるけど。


「貴様っ、無礼な!」

「申し訳ございません! 御無礼を御許しください! 失礼致します!」


 執事が険しい顔で近付く。怒られる殴られる。そうなる前に大声で謝罪し逃げた。恥も外見も投げ捨てて、スカートを持ち上げ全力疾走で。端から見たらただのおかしな女でしかない。人前でスカートを持ち上げるなんて、とんでもなくはしたない行為だから。

 でもそんな事言ってられない。恥よりも命が大事。顔を覚えられる前に逃げるべし! 三十六計逃げるにしかず。私の名前なんて忘れてくださーい!




「……なっ、なんて無礼な女だ。シュバルツ様、今すぐあの女に処罰を」

「よい」

「え、な、何故ですか。あのような不敬行為は罰するべきです。シュバルツ様にぶつかったのも故意で、シュバルツ様と親しくなりたいとか浅はかな考えでもしていたのでしょう。これだから女はっ」

「青ざめて涙を滲ませていた。そのようには思えなかったが……」

「シュバルツ様は女の腹黒さをもっと学ぶべきです!」



「しかし……凄い格好で走って行ったな」

「………ですね」


 

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