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「教室じゃ、ちょっと……」
と言われて、連れられてきたのは理科室だった。窓からは部活動をしている生徒たちの声が漏れ聞こえる。
「・・・えっとー? ここ、勝手に入っていいの?」
授業で使っている時と違って、誰もいない教室は不安になるほど静かで、はじめてきた場所みたいだ。
「あ、うん。一応、写真同好会の部室で使うことになってるから」
「え! つまり、佐藤くんって写真部なの?」
知らなかったクラスメイトの情報を一つゲット!
いつもの情報収集しているせいか、新しい情報には目がない。ちょっと食い気味に言葉を重ねると、佐藤くんは声を戸惑いながらも答えてくれた。
「えっと、その、カメラが好きで……で、でも、部員て言うか、メンバーは俺と3年の先輩しかいないんだけどね」
「へぇー」
なるほどね。真面目まっしぐらな佐藤くんが自然と部屋の中に入ったことも納得だわ。
となると、佐藤くんが欲しいアドバイスって写真のアドバイスってこと?
いや、私、別にインスタとかやってないし、クラスの他の女子の方が圧倒的に、写真(主に自撮り)撮ってるし、その子達の方が良いのでは?
佐藤くん、もしや、誰かと間違えている??
いや、さすがにクラスメイトの名前間違えるとか、ないない。
じゃあ、なんで私?
何度、頭をひねっても、首を傾げても、相談されそうなことに思い当たることがない。
頭の周りにはクエッションマークが自由気ままに飛んでいる。
「あ、で、その、鈴木さんに相談したいことっていうのが・・・」
自分でもわかるぐらい顔をしかめていた私をみて、佐藤くんは慌てて、目の前に差し出したのはーー
「イヤホン?」
「あ、もしマイイヤホンあれば、それでも。とにかくコレを聞いて欲しいんだ」
イヤホンとともに視界に移されたのは携帯。
その画面には音楽を表す、音符マーク。
なぜに音楽?
なんか、全然、分からないけど。
もしかしたら、一人ずつ、女子に声をかけて、調査とかしているのかな?
「うん、わかった。じゃあ、私、自分のがあるから、えっと……コレを聞けばいいのね??」
口数の少ない佐藤くんから出された情報から予想することができないので、結局、何をしたらいいのか分からないままに、とりあえず、再生ボタンをタップしてみた。
耳元に流れるのは無音。
予想していた音楽がまったく流れない。
「?」
不思議に思って、佐藤くんを視線を向けてみるが、何も言わない。
とりあえず、そのまま聴き続けると、ザッと砂が流れるような音が聞こえた。
次の瞬間。
『マネージャーさん。次は、どんな仕事ですか?』
『マネージャーさん。ありがとうございます』
『オーディションに落ちてばかりで、僕・・・情けないです・・・・』
え。なんだ、これ。
「はぁああああああ!!!!」
いきなり声をあげた私にビクつく佐藤くんが視界に映ったけども、それどころではない!
「やばい、キュンキュンする! へっ!? ど、どどどういうこと!?
これっボイマスの桜木 伸の声じゃん!
へ!? なんで、これ、イベント進めれば聞けるの!?
いや、て言うか、女子向けのゲームやってるってこと!?
それとも声オタってことなのっ!? えっ、ほんと、どういうことなのっ」
「あ、そ、えと、そのっ・・・お、落ち着いて鈴木さん」
その困惑した声と引き気味の表情にハッとした。
「・・・」
ヤダヤダ。私ったら、声オタとして感情が昂ぶり過ぎちゃった♪
今、目の前にいるのは、声オタを理解している愛美ではなくて、クラスメイトだぞ。
アニメで見るような聖女様をイメージして、心を落ち着かせる。
大きく、深呼吸をして、咳払いをして、荒ぶった声を整えた。
「それで、どういうことなのかしら? 佐藤くん」
口調が変わっているとか、その辺には触れないで欲しい。
何よりもイメージが大事である。
「そ、その、鈴木さんなら理解してもらえると思うんだけど……今から話すことは、絶対、秘密にして欲しいんだ」
荒ぶった心のままの状態になった私を見たにも関わらず、意外にも佐藤くんは、今まであまり合わなかった視線がぶつかり合う。
それは決意の固さを感じた。
「わかった・・・約束するっ」
私の導き出した答えは”ゲームの関係者”
もしかしたら両親がゲーム会社で働いているのもしれない。
そして、教室で愛美と興奮気味に語っていたボイマスの話が耳に入って、親のために”リアルなコメント”を聞こうとしている、健気な親子愛!
大丈夫よ。オタクたるもの情報管理は大事なこと、わかっているわ。
このことは口外はしないからっ!
・・・あぁ、でも、絶対、情報は漏らさないけど、制作秘話とか聞かせて欲しいなぁ。
顔を出しそうな、邪しな気持ちを、力の限り、抑え込んで口を閉じ、笑顔で答えを待った。




