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夢~南との想い出~

夢。これは夢である。


南と過ごした思い出。


「誰か助けてー!」


まだグループにも属していない頃の本当に昔の昔。俺が道を歩いていると小さい女の子の悲鳴が聞こえた。


俺はそれを無視できなくて、その声のほうに向かった。


「キャンキャン!」


「こっちに来ないでー」


そこには俺と同じくらいの女の子と、めちゃくちゃ可愛い小さな犬がいた。


えーと、これは犬に襲われてる陽にも見えなくもないが、正直犬が尻尾を振っているのでただじゃれているだけにしか見えない。


「よっと」


「きゃん?」


小さい俺でも簡単に持ち上がる犬を俺が持つと、ちょっと驚いた声を上げて、俺にも尻尾を振ってきた。なんだこいつ、何でもいいのか。


「クリームちゃん!」


するとマダムな叔母様の声がして、犬はその声に反応して走っていく。飼い主かな。


「あら、ごめんなさいね。クリームちゃんと遊んでくれてありがとう。これどうぞ」


叔母様は俺に飴を1つくれて、そのまま離れていった。


「えーと、そうだ、大丈夫?」


1人になると、先ほど犬に襲われて?いた少女のことを思い出し、駆け寄る。


「ひっく……、ひっく……」


あ、普通に泣いてる。俺の視点はともかくとして、やっぱり怖かったのか。


「あ、ああ、ほら、飴食べる?」


俺は叔母様からもらった飴を渡す。


「…………」


無言で飴をその子は受け取り、口に入れる。


キュッ。


「え? ええ?」


そしてそのまま抱きつかれる。


俺はそういうことになれてなかったので。ものすごくどきまきした。



「ごめんねー。取り乱しちゃって……。私は金山南っていうの。君は?」


「俺は桂正太郎って言うんだ。全然いいよ」


「じゃあ正太郎くんだね。私のことは南でいいよ」


女の子の名前は南というらしい。落ち着いた南は思ったよりも活発そうなしゃべり方で、最初のイメージのか弱い女の子というイメージとは少し違う。でも、長い髪が綺麗な可愛い子だった。


「へー、幼稚園も一緒なんだね。じゃあ明日もまた会えるねー」


「全然知らなかった。組も違うからかな?」


「私が犬怖いってことは黙っててね」


面識は無かったが、幼稚園も一緒のようだ。口元に人差し指を立てて、ウインクをするもの可愛い。


「そうだ、何かお礼をしなくっちゃね。おばさんのお礼の飴も私がもらっちゃったし」


口で飴をころころしながら、笑顔で南はそう言った。


「別にいいってお礼なんて」


俺のやったことは犬持ちあげただけだし。


「そうだなー、あ、いいこと思いついた。飴のお返しもできるし」


なんだろう、飴を俺にくれるのかな。


チュッ。 コロン。


ふぇっ?


俺は心の中で変な声が出た。なんと南は俺にキスをしてきた。短い間唇をちょっとくっつけるだけのキスだったが、本当に驚いた。


しかも俺の口に自分で含んでいた飴を入れてきたのである。そりゃ変な声も出る。


「えへへ。私男の子に助けてもらうのって初めてだったんだ。だから正太郎君のこと好きになっちゃった。今はまだできないけど、私将来君のお嫁さんになってあげるよー」


「そ、そうか」


「じゃあね。また明日幼稚園でね」


そして彼女は小走りに帰っていった。俺に残ったのは困惑の気持ちと、心なしかかなり甘いオレンジの飴の味だけだった。





「ねーねー。正太郎君みてー。上手に折れたでしょー」


小学校に入学して、グループに入れてもらっても、俺と南は2人だけで過ごすことは多かった。


南は最初に犬を怖がっていたとは思えないほど、しっかりとはしていても、負けず嫌いで小悪魔な性格になっていった。


「いや、別に紙飛行機なんだから誰でも折れるだろ」


ちょっと手先が不器用でクラスで紙飛行機が上手に折れなかったことを気にして、しばらく折り紙に没頭しはじめた。


俺はそれにつきあうのだが、別に嫌な気分ではない。彼女と2人でいる時間は何よりも貴重だった。


「そんなことないよー。ほら、コンコルドだよ」


「え、どうやって折ったんだ? え、どこがどうなってんの?」


負けず嫌いな彼女は、一定のレベルを更に超えてくる。こういうことがあるとまた彼女はクラスで目立つ。


「お兄ちゃんに教わったの」


栄子のお兄ちゃんとは金山颯斗という。南とは双子だ。テストで100点、運動も何でもできる天才である。颯斗とは俺も仲がいい。あいつ折り紙もチートか。


「今度栄子ちゃんにも教えてあげないとね」


「しっかりお姉ちゃんしててえらいよな」


ちょっとお転婆なところはあるが、従姉妹に当たる栄子という女の子にはとても優しい。割と面倒見もいいのである。


「いろいろと教えてあげないとね」


「へー、何教えてあげてんだ?」


「男の子との付き合い方♪」


「へ?」


聞き違いか?


「私達が普段何してるかとかを話してるんだよ」


「別に何するもどうするも、同じグループにいるんだからそんなに隠すこともないだろ」


俺達のグループの会長こと大須栞那のグループで仲良しグループになっていて、こうして2人で会うとき以外は大抵仲良く過ごしている。隠し事もさほどない。


「たとえば、キスの仕方とか」


「何教えちゃってんの?」


「今日もする?」


「そんな毎日してるみたいな言い方するなよ」


俺と南のキスは初めて会った日の1回限りだ。


「私達付き合ってるっていうやつじゃん」


「まぁな」


「付き合ってるならキスは当然するものだよっ」


「でも俺達はまだ小学生じゃん」


「もー、何言ってるの。私はお姉さんになっても、大人になっても、お母さんになっても、おばあさんになってもあなたのことを……」





3 夢、これは夢だ


「やべぇぞ南、この前幽霊が出たってさ、皆見たって」


「ああ、あれでしょ。あんなの染みが偶然顔に見えるだけじゃん」



「あ、UFOだ」


「あれは飛行機だよ」



「はい、種も仕掛けもありません」


「そのネタ知ってるー」


「風を起こす魔法だー」


「隙間風だよ」




「……本当に南はドライだな」


小学校も高学年になったころ。南はとてもリアリストになっていた。


幽霊は信じないし、オカルトも信じない。手品は種を簡単に見破ってしまうし、ちょっと不思議なことが怒れば理由を見つけてしまう。


俺はこういうのがけっこう好きで、小さい頃は南も一緒にはまっていたのにな。


「私達もう結構いい大人なんだよ。そんな正体不明なことにはまってたら、栄子ちゃんに悪影響を与えちゃうよ。ただでさえあの子は素直なんだから」


「あれを素直というか、あれはバカだろ」


「ちゃんと勉強できるんだから、そんなにバカじゃないよ。ちょっと常識が足りないだけで」


「それはいいのか」


「だから私達がちゃんとそういうものを卒業して、栄子ちゃんに常識を教えてあげないといけないんだよ」


「まぁそうか……」


確かに俺達には栄子だけでなく、後輩の見本となる立場もある。アホなことを言っていていいのかという気持ちがないわけでもない。


「でもさ、それじゃ面白くない……、つまらない」


俺も少しづつ察してはいる。でも大人になれば自然と知ってしまうことでも、今夢を持つことすら許されない現実的な考えはつまらないのではないか。


「……桂くん、私はつまらないなんて思ったこと無いわ」


「へ?」


「確かに私は昔みたいに、不思議なことを夢を持って楽しめなくなってる。それをお友達に言われちゃうこともある。でも、私は桂くんの恋人っていうだけで、つまらなくないよ」


「それは……そうだけど」


「今の私の気持ちはすごく不思議な気持ち……、桂くんも同じじゃない?」


「今の気持ち……、南のことが好きってことか……」


「うん、私も桂くんのこと大好き。でも、それがどうしてかって、説明できる?」


「……、たくさんあるけど、良く分からないな」


南のことは間違いなく好き。でもその理由を具体的に話すことはできない。


好きという感情は間違いなくある。でも、子供の俺はただ大人の恋人関係をなぞっただけのこと。キスはしていても、大人のように恋愛を行動と結び付けることができない以上は、説明などできるはずは無かった。


「うん、だからこれはきっと魔法なんだよ。私はずっと桂くんのことを好きなままずっとね。だからつまらないなんて言わないで。私は本当に桂くんに出会えて、恋人になれて幸せだよ」


それでも俺には南以外のパートナーを選ぶことは子供ながら考えたことは無かった。


確かに不思議なことだった。子供の恋愛なのに、それに確信を持てるのだから。


それは本当に魔法だったのではないか。南の言葉は今でも俺の脳裏に強く残り、夢に出てくるたびに、俺の幸せな思い出として蘇る。


ああ、だからこれは夢、夢なのだ。この夢も魔法。
















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