4話
「なーにやってんすか先輩! 付き合うってなんすか? フェンシングですか? それなら許します。違いますよね~、一般的に言われてる方ですよね~」
朝迎えにきた時から栄子が離れてくれない。今回浅間さんと付き合う上で大問題となるのは栄子の存在であることは分かっていた。
自分と南の関係というのは、当人以上に憧れを強く持っていたため、自分が誰と付き合うかというのは彼女にとって大きな問題なのである。
「女の子に弱い設定なんか今時流行りませんよ。会長、チー先輩、そして私! 3人の美少女に囲まれて微動だにしない先輩が何簡単に靡いてんすか! これではまるで自分らに魅力ないみたいじゃないですか! いいですか、次あの浅い女がきたら、分かれるといいなさい!」
「フフフ、栄子に怒られるとは桂も地に落ちたな! フハハハ!」
颯斗は高笑いである。今回の問題にあまり関係がないためか高みの見物である。
ちなみに、『高笑いしやがって』とか、『高みの見物』というと、彼の自分を褒めたことだけ聞こえる耳が発動して『高』という部分だけ抜き取って調子に乗るので絶対に言わない。この状況で物事をよりややこしくされては流石に持たない。
「庄内くん~、待たせてごめんね~」
その状況で浅間さんが帰ってきて、さっそく栄子が絡みに行く。
「おうおう、先輩に話をしたいんならまずは舎弟の私に話を通してもらおうか」
いつそういう関係になった! あと女でも舎弟っていうのか?
「そんなこと言わないで。庄内くんと付き合うんなら、その周りにいる人とも仲良くしたいのよ」
「私にそんな気はない。死ね! もしくは死んで、1回生き返ってもう1回死ね!」
後者はどうやるんだ!
「大須先輩……、会長とも仲良くなったの」
「なに会長を会長と呼んでんだ! グループ外の人間が会長と呼んだ場合はそれは颯斗先輩のことだ! あっちに話せ!」
多分颯斗に用事はねーよ。
「あっ、金山くん、この前は助けてくれてありがとう」
用事あった!
「フハハハ! 何のことはない。雑兵を蹴散らすことなどたやすいこと」
あー、調子のった! こうなると面倒くさい。
「あのガタイのいい男、仮にあれを雑兵Aとする。あれがどうも柔道の心得があったようで、こっちの服をつかもうとしてきた。柔道は路上での戦闘において圧倒的な……」
「うるさいぞキック!」
「スルーパス」
「フェイントパンチ」
「パーフェクトガード」
「ラリアット」
「ヘッドキャッチ」
「やかましい!」
「うひゃっ?」
「うぷっ」
厨二癖のある颯斗と騒がしい栄子が共にヒートアップすると喧嘩になる。
栄子が会長に勝てないのは、会長には完全服従を徹底しているためである。
技そのものは会長から学んでいるため、彼女もめちゃくちゃ強い。
こうなると無理にでも止めないとクラスがものすごく荒れる。
栄子を持ち上げ、颯斗を腹パンする。
2人が本気になれば自分など相手ではないが、この2人のじゃれあいは本気ではない。そのため自分が本気になれば一応止める手立てはある。
「教室を荒らすな! わざわざ技名を叫ぶな。あとダサい」
いつの間にか自分が説教する側に回らされる。この2人は従兄妹関係ということもあるが、非常に相性がいいようで相性が悪い。頭がいいくせに頭が悪い。
「あのー、私はどうすれば?」
浅間さんが完全に忘れられていた。明らかにこの話の中核なのに。
「完全に蚊帳の外ではないか。この2人のどちらかがいるときに真面目な話は不可能に近いんだぜ」
といいつつ、教室の後ろの方でうつ伏せで倒れている千代が1番真面目に見えない。
「その姿勢で言うんでない」
仕方なく首根っこを掴んで引っ張り上げ席に座らせる。小柄な栄子ですら片手で持ち上げるのはなかなか重いが、彼女は楽に持ち上がる。
「おお、すまんね。問題がひと段落したらおこしてくれたまへ」
マイペースすぎる……。
「はい置き去りにしてすいませんでした浅間さん」
「はじめの告白シーンからあなたは変な人だと思ってたけど、大須先輩のグループの中ではまともな側なのね……」
「失敬な。自分ははじめからまともだ」
「まともな人は、いきなりプロポーズしたりしませーん」
「それを言われると弱い!」
というか、それを言われたらおしまいよ~。
「はっ、先輩! こらそこ! いちゃいちゃすんな。半径2万メートル離れろ!」
「してねぇよ。あとお前が離れろ」
掴んでそのへんにやっておいた栄子が復活して参戦してきた。
キーンコーンカーンコーン。
「ほら、次の授業が始まるんだ。とっとと教室に戻れ」
「くそー、ゴング(チャイム)に救われたな! 次こそKOしてやるぜい」
捨て台詞を残して、彼女は去っていった。
「というわけなんですかど、会長どうしましょう?」
「やっぱ栄子か……」
その後も栄子の強力な妨害が入り、まともに話にならない。
栄子が暴れだすと、まず騒がしい。そうなるとかなり高い確率で颯斗の絡みが入る。そしてなぜか千代が近くにいる。3人揃えば確実にグダグダになる。
千代は面倒なことはしないし、颯斗も厨二を刺激しなければ問題はないので、3人の中で唯一能動的に動く
栄子をなんとかしないと、話が前に進むことはない。今回もなんとか振り切って昼放課に屋上に来ている。
「あのー、ほんとにどうするんですか? 正直しんどいです」
浅間さんが日々続く栄子の妨害からのグダグダに耐えられなくなっている。
「庄内くんの告白自体は嬉しかったし、付き合うのもアリだとは思ってる。君のグループのメンバーは変人は多いけど、いい人ばかりだから仲良くできるなら仲良くしたいのもあるし、なんとかできないかな」
それでも続けようとしてくれるこの子はいい子だと思う。
「もう私が栄子を殴って拘束してもいいんだけどそれだと根本的な解決にはならないのよね」
栄子がこだわっているのは自分と南の関係だけではない。それを含めた昔の関係にも強くこだわりを持っているのだろう。彼女が恐れているのは変化だ。グループの崩壊を恐れている。
「私がなんとか栄子を抑えて説得はしてみるわ。千代と颯斗は動かさないようにだけしておいて」
「本当に申し訳ない。いきなり告白した挙句にこんな面倒に巻き込んじゃって」
会長が2人にしてくれた。栄子は会長のいうことは絶対に信じるので、会長が屋上にいないと言えばまず信じる。
「ううん。面白いじゃん。前にいたところみたいな毎日平々凡々よりはずっと楽しいよ」
それは確かに言える。一応自分たちの通っている学校は市内有数の名門校であり、各中学校でトップクラスのメンバーが市外からも集まるような場所である。
そんな場所に転入してきた彼女も前の高校では十分に優秀だったのだろう。
「前のところはガリ勉ばかりで明るい子も少なくて、楽しくはなかったわ。両親の都合でここに来てこの学校に転入した日に絡まれるわ、告白されるわ、また絡まれるわで、いきなりイベントばかりじゃない。大変だけど楽しいと思う」
「今のメンバーは楽しいし、この学校の生徒はノリもよくていい子が多いんだ。いい学生生活が送れるといいね」
「ふふ、やっぱ君はいい人だね。どうなるかはわからないけど、君と付き合って、将来家庭をもったりすれば楽しそうだなって思っちゃう」
2人で過ごした時間は間違いなく2人の関係を縮めたように思えた。
「ふ~む、そうか、それは迷惑をかけていたね」
浅間さんの帰宅ルートは自分の帰宅ルートの帰路にあったため一緒に帰っている。2人とも自転車で仲良く下校デートといきたいところだが、後ろには千代が乗っていて、2人の会話に入ってくる。
「と、なると私がこうやって送られるのもまずいのではないかね。せっかく2人での下校デートが楽しめるようなお互いの家の配置なのに私がいては台無しもいいところだ」
千代は空気を読まないという話が以前あったが、彼女は意識して読もうとしないだけで、読めないわけではない。
加えて、自分が面倒になりそうなことにだけは積極的に動く。いくら送ってもらえても、人のいちゃいちゃなど見ていて気分の良いものではない。
「まぁ世間的にはそうなのかもしれないけどね。千代のお母さんから任されている以上やらないわけにもいかないし」
「そんなもん会長に頼めばどうにかなるっしょ」
「鶴舞さんあの会長をそんな風に使って大丈夫なの?」
「千代はこれがデフォルトだから。使えるものは親でも使う」
「栄子ちゃんとは違う意味で大物ね……」
「会長も急だと大変だろうし、落ち着くまでは気にしなくていいよね」
「私もいいよ。追い出したみたいで悪いし」
「浅間さんはいい人だね~、私のことは千代とよんでくれたまへ。私も町ちゃんと呼ばさせてもらおう」
「えっ、いいのかな。じゃあ改めてよろしくね、千代ちゃん」
「すごいな、千代に気に入られたか」
「なんのこと?」
「千代は、気に入った相手を下の名前で呼び合うんだ。メガネにかなったみたいだね」
「ふ~ん、でもうれしいな! 仲良くなれる人は多い方がいいもんね」
3人で談笑していると、千代の家に到着する。
「あ、いけね。帰りに醤油を買ってくるの忘れてた! ごめん、先にかえっててくれ」
「どれくらいかかるのん?」
「近いから5分くらいかな」
「それくらいなら町ちゃんに待っててもらってもいいんじゃないかな? 初めての下校デートで途中解散はちょっとレアケースすぎるだろう。待っている間くらいなら話し相手に私がなるし」
初の下校デートに第3者がいるのもレアケースだと思ったが、千代の言うことも最もだったので、任せようと思った。
「悪い、お願いするわ」
「おけおけ」
俺は2人をその場に残して、近くのスーパーに走った。




